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裏切りと孤独

「紫微垣になるって…?」

 スピカが唖然としながら聞いた。

「そのままだよ。あのじじい、俺を紫微垣にするつもりだ」

 意味が分からない。この男は昨日、ポラリスを盗もうとしていたはず。紫微垣の敵だよね? それを修行させて紫微垣にする?

 ちなみに紫微垣とは、中国語の天球図で分けられた一部のエリアの呼び名である。北極星を中心にした部分にあたり、星の大地では北極星ポラリスの秘宝を守る戦士の称号として使われている。

「でも、それならシリウスは罰を受けなくて済むんだね! よかったあ!!」

 ミラが満面の笑顔で言った。

「あのな、今だって罰を受けているのと大して変わらんだろが」

 シリウスが忌々しく呟いた。

「お前はどうも天然なところがあって、話すのに疲れる」

「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない?」

 スピカが手を腰に当てて言った。

「何?」

「この子は真剣にあなたを心配していたのよ。昨日だって、あなたをかばってくれたのはこの子だけだったでしょ?」

 ふん、とシリウスは鼻を鳴らした。

「別に、こいつにそんなこと頼んでいないさ」

「あなた、最っ低……」

 台座から外すと天変地異が起こると言われているポラリス。それを盗もうとして反省もなく、しかもこの態度……なんて身勝手な男なのかしら。

「そう思うなら、もうここに来るな」

「ええ分かったわよ!」

 そう言うとスピカは踵を返した。

「ミラ、悪いけどあなたの力にはなれそうもないわ」

「え、ええ?」

 動揺するミラを置いて、スピカは去っていった。


 その夜――シリウスは二つの夢を見た。


「ポラリスを盗むだと?」

 シリウスは、そう提案してきた赤い髪の悪友――ベテルギウスをにらみつけた。

「ああ、聞くところによるとなかなかのお宝みたいじゃないか。盗んで都の質屋に入れればけっこうな金になるんじゃねえか?」

「ほ、本当にやるのか、ベテルギウス?」

 おそるおそる聞く青髪のリゲルを、ベテルギウスは裏拳で突き飛ばした。

「ってて」

「お前は黙っていりゃいいんだよ」

 いらだたしげに吐き捨てるベテルギウス。

「どうするシリウス? もし盗むのに成功したらあの小娘にちょっかい出すのやめてやるよ」

 顔を歪ませるベテルギウス。心まで歪んでいるのが分かる。

 シリウスは少し思念した。つい昨日も、ミラに蛇を見せて追いかけていたところをやめさせたばかりだ。そういえば、3日前はリゲルと一緒にミラを壁際に追い詰め、何やら話していた。後で聞いたが、服を脱がされそうになっていたらしい。

 ベテルギウスにリゲル…この2人とはよくつるんでいるが、ミラをいじめるのには賛同できない。ここらで手を切るためにも、一枚かんでやるか……。

「いいだろう。ただし、その約束忘れるなよ」

 そしてあの夜――3人はポラリスが奉納されている「北辰の祠」に行った。この祠は北の町の北側の山の、さらにまた山頂にある。その山頂の後ろは切り立った崖だ。

「北辰の祠」に行くためには、町にある「武曲むごくの祠」から行かなければならない。北斗七星ではゼータ星にあたる場所で、その祠の裏に鳥居が連なったような道がある。登っていった先には獣道や岩があり、さらに登るとたどり着くのだ。

 三人は夜に貧民街を抜け出し、「武曲の祠」に集まった。そして後ろの山道を一気に駆け登り、「北辰の祠」にたどり着いたのだ。その祠は岬の先端にあり、その後ろは断崖絶壁である。

「さて、さっさと盗んでしまうか」

 シリウスが祠に近づいた。その途端、後頭部に石が直撃した。

「てっ!!」

 後ろを向くとリゲルが2発目の石を投げつけてきた。かろうじてはじいたが、その間に木刀を持ったベテルギウスに間合いを詰められ、頭に打撃を受けてしまった。

「お、前ら……」

 ベテルギウスとリゲルがシリウスを誘ったのは、最初から犯人に仕立て上げるためであった。彼らにも追っ手は来るだろうが、犯行現場にシリウスを残しておけば、多少は時間が稼げると思ったのだ。

「こんな簡単に裏切られるなんざ、思ったよりお人好しなんだな。シリウス」

 ベテルギウスの嘲笑じみた声に激しい嫌悪を覚えながら目の前が真っ暗になった。


 もう一つの夢――台風による洪水の夢だった。

 自分は誰かの手の中にいる。大人の男の人だ。抱かれているのは…自分が小さいからか? その男は右手で幼いシリウスを抱え、左手を切り立った崖の突起にかけている。上には数人がいて、なにやら叫んでいる。下は――台風で氾濫した川の濁流だ。

――上がって来い! がんばれ!!

 上の連中が叫んでいるが、男は動かない。まるでもう体力が残っていないようだ。

 その男は幼いシリウスを見て微笑んだ。

――シリウス、父ちゃんを信じろ。強く生き抜けよ。

 何なんだ、この夢……。

 次の瞬間、その男は渾身の力でシリウスを上空に投げた。同時に左手をかけていた突起が崩れる。

 シリウスは上の人間の誰かが受け止めた。男は力尽き、濁流に落ちて流されていった。


 シリウスは目を覚ました。全身が汗だくである。

「またあの夢か……」

 ベテルギウスとリゲルに裏切られた夢は初めてだが、もう一つの夢は度々見ている。孤児院で生活してきた自分だが、あの男――父親が助けてくれたことは覚えているのだ。

 シリウスは物心ついたころ、大規模な鬼雨被害に遭った。それまで両親に惜しみなく愛情を注がれてきたが、父親は自分を助けるために力尽きてしまった。母親はそのとき既に行方不明だった。濁流にのみ込まれた者が何人かいたらしいが、母親もその中にいたのかもしれない。

 忌々しい映像を振り払って起き上がる。もう夜明けだ。


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