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慟哭

 朝、目を覚ましたシリウスたちは、朝食を食べながら作戦を練っていた。

「そもそも、大市場なんて身を隠すのはよくても生活はできないんじゃない?」

 スピカが指摘する。確かに、物はいくらでも揃うが、所持金が尽きかけている悪友たちには滞在する意味があまりない。

「妥当に考えるなら、都のはずれで野宿とかでしょう」

 頭脳明晰で通ったスピカの言葉には説得力がある。リゲルはスピカに比肩する頭脳を持っているが、気が弱く、ベテルギウスに振り回されているふしがある。その頭脳を生かせずにベテルギウスの言いなりになっているのだろう。

 そんなことを話して朝食が終わった頃、宿に「大変だ!」と怒鳴り込んできた男がいた。外出していたこの宿の使用人である。

「何だい、朝っぱらから?」

 女将さんが呆れたように聞くが、男の次の言葉で場が凍り付いた。

「殺人事件だ! 都の外れの丘で、赤い髪の少年が死んでいる!!」

 この報を聞いたシリウスはガタッと席を立ち、七星剣をとって外に駈けだした。


 風を切るように走り、シリウスは殺人現場の丘に着いた。

 詳しい場所は知らなかったのに、なぜか分かった。よくつるんでいたあいつのことだから、この辺りだろうとヤマを張ったら、当たってしまったのだ。

 現場に着くと人だかりができている。シリウスはそれをかき分けていく。すると、目の前には地べたに横たわっている遺体が現れた。

「ベテルギウス……」

 間違いようがない。赤い髪につり上がった目は悪友・ベテルギウスの亡骸だった。眼球は白目をむいていて、口の周りには血のりがべっとりと付いていた。

 間に合わなかった……昴の祠の幽霊は本当だったのか。

 シリウスは膝を地につける。その膝に一粒のしずくが落ちた。泣いているのか、俺――? 北辰の祠で裏切られた、ミラという大事な友人を傷つけられようとしてきた。それなのに……。


――ばかやろう……こんな死に方するヤツがあるかよ。


 これがシリウスの思いだ。あれほどひどいことをされても、ベテルギウスの善性を信じていた。だからこそ、ポラリスと共に連れて帰ろうとしてきたのだ。

 やがて都の役人たちが来た。警察のような仕事をする連中だ。ベテルギウスの遺体を調べながら担架に載せ、連れて行こうとする。

「待ってくれ」

「何だ君は? この男の知り合いか?」

 役人が素っ気なく聞いた。そうだよな、この連中にとってはベテルギウスの遺体処理はただの仕事なんだな……。

「そうだ」と答え、ついていくことにした。


 一方、宿ではスピカとミラが置いてけぼりにされていた。2人ともシリウスを追いかけようとしたが、彼が速すぎたのであきらめたのだ。そもそも、どこに向かったのかも分からない。

 そんなわけで、女子2人でお茶を飲んで待つことにした。

「…ベテルギウスなのかな?」

 ミラがボソッと言った。聞き取るのがやっとだったが、スピカはビクッと身をすくめる。

スピカはベテルギウスもリゲルも好きではない。しかし、シリウスがひたむきに連れ戻そうとすることを否定はしたくなかった。

(結局、優しいのよね。シリウスは)

当初は自分といがみあっていたはずなのに、何かにつけ気を使ってくれている。彼が紫微垣としての使命に目覚めた後は、どんどん惹かれていくのに気付いてしまった。

 そんなことを思い出しているとシリウスが戻ってきた。

「シリウス!」

 ミラが駆け寄る。すると、彼女の表情がこわばった。シリウスはミラの言葉を流し、呆然としながら部屋に歩を進め、七星剣を手から落とした。

「助けられなかった……」

 膝をつき、手で顔を覆う。こんな姿、ミラも初めて見る。

「ちくしょう…ちくしょう!!」

 シリウスの目から涙があふれ出てきた。悪友たちに裏切られても、紫微垣の恐ろしい修行を強いられても、貧民街を追い出されても――どんな過酷な状況でも泣き言一つ言わなかった強い心の持ち主。そのシリウスが泣いている。

 スピカは自分のストールをシリウスの背中にかけ、背中に手を当てて撫でる。

「シリウス、あなたのせいじゃない…自分を責めないで、ね?」

 スピカが優しく声をかけると、シリウスは顔をあげた。顔が悲しみでゆがみ、切れ長の目は涙で潤んでいる。――そうか、この人は自分の辛さは我慢できるけど、他人の辛さは我慢できないのね。

 シリウスはスピカに抱きつき、泣き始める。慟哭と言うべき声だった。真正面から抱きつかれたスピカは、シリウスの頭や背中を優しく撫でるしかできなかった。


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