表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/116

裏切りの酒

「うわああん、うわああん!」

「うるさい、早くだまらせろ!!」

「そんな、あなた……ベテルギウスはまだ子供なのよ」

「うるさくて眠れないだろうが! 母親のお前がしっかりしないから…!」

「わああああん!」

「うるさいと言っているだろうが!!」



 ベテルギウスはハッと目を覚ました。東の都のはずれにある小高い丘で、リゲルと野宿をしていた。所持金も少なくなり、宿代を節約するために外で寝泊まりしていたのだ。時刻は夜の一時頃だろうか。シリウスたちが昴の祠で幽霊を見た数時間後である。

(夢か……)

 唇を強くかんだ。血がにじみ出ている。

 夢だったが、過去の記憶だ。父親に怒鳴られた後、拳で殴られた。物心ついたときからそんな状態だった。

 父親は役場に勤めていた。実直な性格で人望もあったらしい。が、それは外面が良かっただけだったと母親から聞いている。母親がベテルギウスを妊娠したころから態度が冷たくなり、暴言や暴力が増えていった。

(俺が生まれたら変わってくれると信じていたって言ってたな)

 しかし、ベテルギウスが生まれてから母親は子供のことで精一杯となり、家を掃除できなくなり、夕食もろくに作れなくなった。当然、父親は顧みられなくなっていった。それに腹を立てた父親は、母親への暴言と暴力を加速させていった。3歳になるまでは、母親だけがターゲットだったが……


 ガシャン


 と、花瓶を倒して割ってしまったことを機に、父親は自分にも暴力をふるうようになった。顔を殴られ、腹を蹴られた。世間体を気にして病院に連れて行ったとき、父親は「いたずらしてよく怪我するんです」と苦笑して言いやがった。

 どのツラが言うか!? 最愛の母親を傷つけられ、無力な自分に暴力をふるい、挙げ句嘘をつく。幼少期にすり込まれた父親への憎悪は、ベテルギウスをいともたやすく人間不信に追い込んでいった。


(あのクソ親父、まだ生きていやがるのか)

 夜空を見上げてふと思った。北の町から異動して別の役場に行ったと、風の噂で聞いた。

 だんだん苛立ちが募ってきたベテルギウスは、「ちくしょう!」と拳を立ててリゲルの頭を殴った。その衝撃でリゲルは飛び起きた。

「な、何だよ!?」

「のんきに寝ているんじゃねえ!! クソが!!」

 完全に八つ当たりである。それにムッとした表情をするリゲル。

「…何だよ、言いたいことがあるなら言ってみろ!!」

 リゲルはさらに頬を殴られて倒れた。

「おい、何か飲み物はねえのか!!」

 ベテルギウスはリゲルの鞄をゴソゴソとあさる。すると、1本の酒瓶を見つけた。

「いいもんあるじゃねえか、俺に隠れて飲むつもりだったのか!」

 ベテルギウスは乱暴にふたを開けると、口にくわえてラッパ飲みを始めた。

「ふん、まあまあな酒だな。これで少しは気が紛れ……」

 突然、言葉が途切れ――ベテルギウスは持っていた酒瓶を落とした。瓶が割れ、中の酒が地面を濡らしていく。

「な、何だこれ……」

「あーあ、だいぶ飲んじゃったみたいだね」

 倒れていたリゲルが立ち上がった。その顔には冷笑が張り付いている。

「てめえ…一体…」

 ベテルギウスは膝をつき、右手で心臓の辺りを抑える。苦しい、胸が焼け付くようだ――。

「あの酒瓶、河豚の毒をたくさん入れていたんだよ。君が見つけたとき、横取りして飲むと思ってね」

「助けて…くれ…」

 充血した目で訴えるベテルギウス。しかしリゲルは、相方の腹を思いっきり蹴り上げた。

「ぐあっ!!」

 仰向けになって転がりながら血を吐くベテルギウス。

「お前にはもううんざりなんだよ。僕を奴隷のようにしか扱わない。もう友人とは思わないから、ここで死んでくれ」

「かは…はあ、はあ……」

 ベテルギウスの呼吸が荒くなっていく。その苦悶の表情をリゲルは一瞥し、吐き捨てた。

「シリウスもだけど、お前もけっこうなお人好しだね。いや、単に頭が悪いだけか。1人で地獄に行きな」

 そう言いながらリゲルは、ベテルギウスの顔を足で踏みつけた。足を上げると、もはや呼吸をしていない亡骸になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ