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学舎から兼貞(けんてい)の祠で

 次の日。学舎では全体朝礼で昨夜の事件のことについて通達があった。

 ポラリスが盗まれたこと。犯人はこの学舎の生徒3人――シリウス、ベテルギウス、リゲルであること。シリウスは捕縛されたが、残りの2人はポラリスを持って逃走中であること。シリウスはポラリスの守護者である紫微垣に預けられていること。

 最後に次のような言葉が付け加えられていた。

「ポラリスを盗んだ3人は、本日付で退学とする」


 スピカは、自分の教室で外をぼんやり眺めていた。夕べの事件が刺激的すぎて、あまり眠れなかったのだ。

「スピカ、今日終わったらどこか遊びにいかない?」

 学友の女の子が誘ってきた。しかし、気分がまったく乗らない。

「今日は遠慮しとくわ」

「…寝不足って顔に描いてあるわね。それでも、学舎一の美少女の座は揺らがないか」

 友達はスピカの頬に優しく手を当てる。かわいらしく潤んだ瞳、整った鼻、艶やかな唇、長くて美しいロングヘア――スピカは誰もが認める美少女だ。しかも勉強、運動共に優秀で、家は北の町を代々治める名士。名実ともにお嬢様なのである。

「それにしてもベテルギウスとリゲルは馬鹿なことしたよね」

「まったくよ」

 友人の言葉にスピカは同意した。2人は同じ組の学友だ。しかし、素行が悪くて教師たちからも目を付けられていた。シリウスは別の組だから、顔を見た記憶があるくらいで詳しいことは知らないが、同じようなものだろう。

「あいつら、貧民街に住んでいるからね。貧しいと非行に走りやすいのかも。両親が離婚していたり、生まれた時からひとり親だったり……」

 スピカは友人の言葉をおぼろげに聞いていた。

この北の町は、冬の星空で言えば北斗七星にあたる。北斗七星の星にあたる所を線で結ぶと、その線を境に、高台と沿岸部に分けられる地形だ。

町の北側はそり立った崖のような山が連なり、南側は海である。高台にはスピカが住む名士の家をはじめとした裕福層の家や役所がある。沿岸部は東に港、中央辺りにこの学舎、西に貧民街がある。

貧民街にはひとり親家族の長屋や孤児院がある。この辺はあまり治安が良くない。中流階層以上の子供たちは極力近づかないようにしているのだ。

「スピカ、お客よ」

 別の友人の声に振り返ると、教室の入り口付近に1人の少女が立っていた。

「あら、あなた昨日の……」

 シリウスをかばっていた少女だ。

「私、ミラって言います。スピカ先輩、お願いがあります!」

 先輩というくらいだから、やはり下の学年なのだろう。スピカは、深刻なミラの表情を察して場所を移した。


「何、話って?」

 スピカは、自宅近くにある茶屋でミラの話を聞くことにした。先輩なのでお茶とお菓子をご馳走してあげる。ミラはおいしそうに食べると、突然言い放った。

「スピカ先輩、シリウスを助けてください!」

「は?」

 スピカは目が点になった。何を言っているの、この子は?

「シリウスは昨日のことで、あのおじいさんに連れていかれたんです。きっとひどいことをされているはずです。だから!」

 それは彼の自業自得というものでは? それに、だからってなぜ私に助けを求めるのかしら?

「先輩は北の町を治める名士のお嬢さんですよね? お父様に頼んでくれませんか?」

「…あのね、まずはシリウスの消息を確認してみてよ」

 スピカはきれいな眉をゆがませながら眉間にしわを作った。名士の娘である自分に声を掛けたのは分かるが、肝心のシリウスがどうしているかがよく分からない。

「あなた、シリウスと仲がいいの?」

「はい。家が近くで小さい頃からきょうだいのようにやってきました」

 幼なじみか…ということは、この子も貧民街に住んでいるのかしら?

 聞くと、ミラの両親は幼い頃に離婚していて、それからは母親と暮らしているとのことだ。シリウスは孤児で、貧民街の孤児院に住んでいるらしい。

「私、よくベテルギウスやリゲルから『生意気だ』っていじめられるんです」

 あの2人、年下の女の子をいじめていたの…最低ね。

「でも、シリウスはあの2人とよくつるんでいるんじゃないの?」

「ええ、でもシリウスは人をいじめることを嫌うので、私がいじめられていると止めに入ってくれるんです」

 良いやつなのか悪いやつなのか、ますます分からないわね。

「とりあえず、シリウスに会ってみない? 話はそれから、ね?」

 スピカがそう言うと、ミラは満面の笑みを浮かべた。こんなかわいい子を心配させるなんて、罪な男……。

 ミラは「ごちそうさまでした」と御礼を言うと席を立った。

「あ、お参りしてきます」

 そう言うや否や、茶屋の敷地にある祠に近寄り、手を合わせた。


 星の大地には祈りのための施設がある。それを「祠」と読んでいて、冬の星空に輝く明るい星の位置に建てられているのだ。北の町は北斗七星と同じ位置に七つの祠がある。今、ミラがお参りをしたのは「兼貞の祠」である。北斗七星のイプシロン星にあたり、「兼貞」とは中国語の星の呼び名である。

 お参りが終わると、ミラとスピカは町の東に向かった。


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