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ミアプラとミモザ

 天牢庵は、修行用の道場、ミーティングができる部屋、事務室、厨房や食堂のほか、候補生が寝泊まりできる個室があって一人一部屋をあてがわれる。候補生は思春期の少年少女が多いことから、フォマルハウトがこのような設計を頼んだのである。

 ミモザはミアプラの部屋のドアをノックした。

「ミアプラ、いるかい?」

 カチャッとドアが開き、中からミアプラが出てきた。

「ミモザ…」

「ミアプラ、サボりはいけないよ。一緒に修行しようよ」

 優しい笑顔で言葉をかける。今のところ紫微垣に一番近い候補生で、ミアプラより二つ年上のこの男は、性格も頭も良くて師匠や他の弟子からの信望も厚い。

「ミモザ、私…どうしたらいいんだろう?」

「え?」

 ミモザはミアプラと一緒にベッドに腰掛ける。ミアプラはフォマルハウトへの感情を吐き出した。ミモザはただただ聞き役に徹した。

「お父さんがお母さんを裏切ったなんて…何の証拠もないけど、もしそうなら私はどうして生まれたんだろうって…」

 思春期女子特有の父親への嫌悪感、そして噂話――その両方がミアプラの心に重くのしかかっているのだ。

 すると、ミモザはすっとミアプラの肩に手を回した。ミアプラはそうされるのを待っていたかのように、拒みもせずじっとしていた。数秒間止まったままでいると、やがてミモザがミアプラを抱き寄せた。

「辛かったね…」

「うん…」

 ミアプラはミモザの胸に顔を埋める。辛い…そうか、辛かったんだ私。本当のお母さんのこと…何も知らない。何か知っていたら、こんな思いをしなくて済んだのかな。

 そんなことを思いながらミモザの顔を見上げる。ふと目が合った。そして――どちらともなく、唇を重ねていた。

「ん…」

 お互いの舌が少し絡む。初めての口づけだった。

「好きだ…」

「え?」

「好きなんだミアプラ、ずっと好きだった…」

 ミモザの突然の告白。ミアプラの空虚な心に初めての感情が広がっていく。

「…私も」

 2人はもう一度、唇を重ねた。


 30分ほど経ち、ミモザは誰にも気付かれないようにミアプラの部屋を出た。ミアプラはその数分後にドアを開けて部屋を出る。

「おい」

 ミアプラはビクッとした。廊下の突き当たりにカノープスがいたのだ。見られた…? いやいや、2人きりでいるところは見られていない。

「修行サボるのは勝手だが、もう夕飯の時間だ。遅れるなよ」

 早く食堂に来いとあごで促す。まったく、この男は候補生になった今でも食事のことにうるさい。

「はいはい、今行きますよーだ」


 4人で食堂の席に座って食べ始める。食堂はそれなりに広く、お互いに近づいて食べることは少ない。アクルックスとガクルックスがいた時は、けっこうワイワイとやっていたのに……。

 ミアプラは不機嫌そうにおかずの肉を口に運ぶ。そもそもあいつが来てから、天牢庵のメンバーの心がバラバラになったんだ。ぜんぶあいつのせいだ。そう思うと、食堂のど真ん中で堂々と食べているカノープスに腹が立ってきた。

 ったく、あんた一番新入りなのになんでど真ん中で食べてるわけ? 普通、遠慮がちに端っこに座らない? そんな思惑を露とも知らず、カノープスは黙々と食べている。

当のカノープスはさっさとたいらげ、「ごちそうさま」と食器を片付けて厨房に持って行った。そこには先輩のスタッフがいる。

「カノープス、今日はアルセフィナちゃんと一緒じゃないのか?」

「具合が悪いってんで寝てるんです。おかゆ作って持って行きます」

 妹のことになると優しい…いや、ただのシスコンか? そんなことをつらつら思っていると、少し離れたところにいるミモザと目が合った。彼は、ニコッと微笑んでくる。さっきのことが脳裏に浮かび、顔が赤くなるのが分かった。初めてのキス…いつも頼れる兄貴分だった彼…ひそかに淡い想いを抱いていたけど――。

「どうした? 顔赤いぞ」

 ふいにカノープスの声で現実に戻る。ああもう、こいつは!

「風邪か? おかゆくらいは作ってやるから食べたきゃ言え。とりあえず俺は帰る」

 彼の手にはおかゆの鍋が握られている。これから妹に食べさせるのだろう。

「別に、あんたには関係ないでしょ」

 ミアプラがそう言うと、カノープスはすたすたと行ってしまった。


 それからも、ミアプラはミモザとの逢瀬を重ねた。ミモザがミアプラの部屋に来たり、その逆だったり――。そして、フォマルハウトとカペラが不在のある夜、2人はついに体を重ねた。どちらともなくベッドに倒れ込み、服を脱がせ合い、互いの体を手や口で愛し合ったのだ。

 ミアプラの心は好きな人と結ばれた光悦、そして「私はもう子供じゃない」という自尊の感情に満ちていった。


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