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修羅のような賄い係

「カペラ、カノープスはどう?」

 カノープスの初出勤日の夜、フォマルハウトがカペラに聞いた。紫微垣は候補生に直接指導することが多いため、八穀などの裏方の仕事を見る機会がほとんどない。いつも、妻のカペラに任せているのだ。

「彼はとても真摯に取り組んでいたわ。早朝に出てきて朝食の支度、昼も夜もしっかり勤めていたし。料理の腕も良くて、料理長も喜んでいたわ。『素晴らしい若手が入ってくれた』って」

「よかった」

 フォマルハウトは笑みを浮かべる。が、カペラの次の言葉を聞いて顔が引きつった。

「ただ……ちょっと気難しい性格みたいで…」


 カペラが「真摯」と評価したように、カノープスは朝早く出勤して、自己紹介が済むとすぐに調理にとりかかった。ヤングケアラーとして1日3食を作ってきた経験があるから、卵焼きやみそ汁は最初から作れた。知らないメニューも一度教えただけですぐに体得したのだ。料理長も他のスタッフも「覚えがいい」「よく働く」「素晴らしい子」と高評価だ。

 しかし、昼食時の食堂で――。

「俺、にんじん嫌い」

 と、候補生の1人であるガクルックスがミックスベジタブルのにんじんを避けていた。「捨てちゃえば?」とミアプラも同調する。生活には恵まれているようで、食の好き嫌いがあると無理して食べようとは思わないのだ。

 が、彼らがふと食堂の入り口を振り返ると、1人の見慣れない少年が――憤怒の形相で両手に包丁を持っていた。自分たちと同世代の少年はオールバックにした髪の毛が逆立ち、さながら不動明王である。

「な、何よあんた…」

「だ、誰だ!?」

 ミアプラとガクルックスの表情が強ばる。

「メシを残すことは許さん!!」

 そう叫ぶや、その少年――カノープスは跳躍し、机に包丁を突き刺した。腕力が相当あるようで、包丁が机の天板を貫通していた。

「げっ!」

「うそっ!!」

 ガクルックスとミアプラは悲鳴を上げ、食堂の外に逃げ出した。

「待あぁてえぇぇぇ!!」

 カノープスは、机に突き刺さって抜けなくなった包丁をほっぽり出し、2人を追いかけた。その直後……天板はバキン、と音を立てて真っ二つに割れた。


「…なんとまあ……」

 天板が割れた机を見て、フォマルハウトが呆然とする。

「そんな感じで、夕食の時は少し離れたテーブルで包丁を持って候補生たちをにらんでいたんですって」

 ミアプラは「何であんな鬼のような賄い係を雇ったのよ!!」と、激怒していたらしい。しかし、フォマルハウトは

「まあ、あの子たちの好き嫌いには頭を痛めていたところだ。ちょうどいい機会じゃないか」

 と、とり合わなかった。

 カノープス対ミアプラたちの攻防は続いた。野菜の付け合わせを残したと知ったら、訓練中であろうがカノープスは道場に乱入して候補生たちを追いかけ回した。それも、フォマルハウトがいる前で。実際に見るとさすがのフォマルハウトも唖然となった。

「ちょっと、いい加減にしてよ!!」

 さすがにミアプラもけんか腰になる。

「別にいいじゃないの! 他のものは食べているでしょ!?」

「いや、良くない!」

カノープスが怒鳴り返す。

「お前らは食べられない辛さを知らないから、そう言えるんだ!!」

 これは両者譲らないなと思い、フォマルハウトが間に入った。

「分かった分かった、カノープス。彼女らが食べられるように食材を細かくしてやってくれないか? それならいいだろう、ミアプラ?」

「…ふん、分かったわよ」

 そっぽを向いて出て行ってしまった。


「食べられない辛さ…か、確かに僕らには無縁だ」

 夜、フォマルハウトが酒の入ったグラスを傾けてつぶやく。カペラとの晩酌の時間だ。

「そうね。私たちは都育ちで、生まれや育ちに恵まれていたから考えたこともなかったわ。カノープスはヤングケアラーだから、その苦労が人一倍あるのよね」

 家族のあり方が人の人格形成に影響を及ぼす――ミアプラも、幼い頃に実母を亡くしている。やはりそれが、今の思春期に少なからず影響しているようだ。

「ところで……そろそろ七星剣の試練をする時じゃない?」

「ああ、ミアプラ、アヴィオール、アクルックス、ガクルックスの四人が対象だね」

 そう言いながら、フォマルハウトはグラスに残っていた酒を飲み干した。


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