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フォマルハウトとの邂逅

「は、初めまして」

 カノープスは手を伸ばして握り返した。フォマルハウトの握りから、腕力があまり強くないことが分かる。この人、本当に紫微垣なのか?

 するとフォマルハウトはフッと笑った。

「もともと荒事は苦手なんだよ。腕力だって、並の警備兵より弱いくらいさ」

 カノープスはぎょっとした。この人、俺の思っていることが分かるのか?

「さて、掛けてください。応募していただいた理由を伺いたいのだけど……」

 3人はいすに腰を下ろした。カノープスがどう話そうかと考えていると、突然フォマルハウトが

「お母さんと下のきょうだいのケア、大変だろう?」

 と尋ねてきた。カノープスはさらにぎょっとする。なぜ、この人はそんなことが分かるんだ? 目をむいて驚くカノープスにフォマルハウトは言葉を続けた。

「洞察力を駆使すれば簡単なことさ。平日の午前にここにいるってことは学舎に行っていないんだろう? そういう場合、大抵は引きこもりや不良であることが多い。しかし、君は家の外に出て、何やら小難しい書類を持っている。本来なら、君の親が手にすべきようなものをね。なおかつ、賄いの仕事の広告をまじまじと見ていたのは、真面目に働く意志があるということ。理由があって、お金が必要である……これらのことから、守るべき家族のいるヤングケアラーと踏んだんだ」

 フォマルハウトはさらに言い続けた。

 両親のどちらかがいれば、その親とカノープスの二人で負担を分け合えるはずだが、君は全てを一人で背負っているそぶりがある。ということは一人親で、かつその親はケアが必要な立場である。

「そして、買い物かごから女の子が好きそうなお菓子が見える。おそらく妹さんがいるだろう?」

 ここまで見透かされているのなら話は早い。カノープスは両手をテーブルに付いて懇願した。

「紫微垣さん、どうか俺を雇ってください。今のままじゃ家族はどん底に陥る。料理は多少できるし、レパートリーを教えてもらえば役に立つはずです」

 カノープスは、ゴンッとテーブルに額をぶつけるほど勢いよく頭を下げた。

「……いつ引っ越してこられるかい?」

 フォマルハウトがにこやかに言った。やった、採用された!


 早速、翌日から引っ越しの準備を始めた。明日には中つ都から東の都に引っ越す。荷物はもともと少ないし、準備には手間がかからなかった。妹のアルセフィナは、カノープスの仕事に賛成してくれた。今より生活が安定することを思えば当然である。母親のマルケブは少し難色を示したものの、カノープスが「住まいはここよりきれいらしいぞ」と言うと、首を縦にふった。

 移動は、天牢庵が用意してくれた馬車だった。徒歩でも行けなくはない。しかし、アルセフィナは足に障がいがあり、マルケブはアルコール依存症なので長距離の徒歩は難しいだろう。そのため、馬車で行くことになった。


「お兄ちゃん! 海だよ、海が見える!!」

 引っ越しの日。中つ都を出て海沿いの街道を通っている時、アルセフィナがはしゃいだ。遠出がなかなかできないから、海を見るだけでも興奮するのだろう。

「いよいよ東の都に入るな」

「楽しみだね」

 アルセフィナが無邪気に微笑む。カノープスも心が躍った。ヤングケアラーとして生きていくしかないと思っていた日々。その辛い日々に一筋の光が差し込んだのだ。がんばろう、と決意していた。

 ただ、母親が終始無言だったのが気になっていた。まあ、新しい生活に不安があるんだろう。慣れればきっと、東の都の生活も気に入ってくれるさ。そのように無理矢理にでも楽観視してみたものの、心は晴れなかった……。


 新居に到着して荷ほどきをする。住処は天牢庵の敷地内にある家族寮だ。カノープスはここから天牢庵の厨房に通勤して仕事をする。引っ越しが終わったら、早速、フォマルハウトに挨拶に行った。

フォマルハウトは「ご苦労さん。今日は疲れたろう。仕事は明後日からでいいから、明日は休みなさいな」と気を遣ってくれたが、カノープスは

「いえ、1日分でも給料がほしいので働きます」とつっぱねた。

 真面目で家族思いだが、どうも愛想がない。

(まあ、彼のそれまでの生活を思えば無理もないか)

 頼れるのは自分の力だけ――その信念が、ヤングケアラーとしてのカノープスを支えているのだろう。

 ということで次の日から出勤してもらうことにした。だが、そこには予想だにしないトラブルが待ち構えていたのだ。


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