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浅瀬道へ

 星の大地は、大きく二つの島に分けられる。北の町がある島と、東の都や中つ都がある大きな南の島だ。その間にあるのが浅瀬道と呼ばれる道である。

 道とは言うが整備はされていない。浅瀬と砂浜が南北に細長く伸び、椰子の木の林が生い茂っている。この道に入るには島から浅瀬に降りないといけない。貪狼の祠を過ぎて林を通り抜けると、北の島の南端に出る。そこから高さ30メートルの崖を降りて浅瀬に降り立つのだ。

 昔はロープを使って昇降していたようだが、今は階段とスロープがあるので降りるのにさほど苦労はない。

「さて、問題はここからだ」

 シリウスはミラとスピカが降りたのを確認すると、浅瀬道をにらみつけた。シリウス自身も初めて来たのだが、予備知識はアルクトゥルスからたたき込まれている。

「いいか2人とも。怪物どもがいるみたいだから気を抜くな」


「きゃあ!!」

 スピカが叫んだ。真横から飛び魚が襲いかかってきたのだ。

「二の秘剣、螺旋昴!」

 七星剣を竜巻状に変形させてはじき飛ばした。さらに前には高さ2メートルほどの蟹がはさみをギチギチと鳴らしている。

「うわーん、怖いよう!!」

「一の秘剣、魚釣り星!」

 鞭状に変形した七星剣が、蟹の図体を吹き飛ばした。

「こりゃキリがないな。走るぞ」

 シリウスは少女2人の背中を押しながら走り出した。後ろには撃退した化け物蟹や飛び魚、海蛇が倒れている。

 スピカもミラも運動には自信がある方だ。しかし、紫微垣の鍛錬を受け続けてきたシリウスには及ばない。走るとあっという間に差が開いてしまう。その都度、シリウスはスピードを緩めて彼女らに歩調を合わせた。

(これじゃ…シリウスの足を引っ張っちゃう…)

 スピカは息切れしながら思った。シリウスを助けるためについてきたのに……。

「とりあえずあの大きめの木まで行こう。今日はそこで休むぞ」

 しかし、あと数十メートルというところで、砂浜のくぼみから大きな魚が顔を出した。鰹の化け物だ。

「そんな…こんな化け物までいるの…」

 スピカが愕然とする。しかし、シリウスは淡々と七星剣を構えた。

「確か鬼鰹おにがつおとかいう魚だ。ちょうどいい。夜飯にさせてもらうか」

 飛びかかってくる巨大鰹。シリウスは七星剣を手槍に変形させた。

「三の秘剣、三連みづら突き!」

 槍が伸びて鬼鰹の胴体を横3点を串刺しにした。最後に貫かれた後、ピクピクしていたがしばらくして動かなくなった。

 シリウスは鰹を槍からおろすと黙礼し、剣先で手早くさばいた。その赤みの肉は、脂がのっていそうだ。

「お前の命、ありがたくいただく」


 浜辺にテントをはった後、シリウスは天漢癒の腕輪二つをはめ、腕をクロスした。すると、テントの周りを光の輪が包んだ。

「こうすると、敵意を持つ者や動物が寄りつかなくなるんだとさ」

 その間、ミラとスピカが集めた木で火をおこし、鰹をあぶった。たたきにするとおいしそうだが、衛生状態が気になるので生の部分が残らないよう完全にあぶった。

「もう食えるぞ」

 持ってきた塩をかけて口に入れる。

「おいしい!」

 ミラとスピカは目を輝かせた。さらにシリウスは、持ってきた焼きおにぎりと果物も出してくれた。

(完全に胃袋をつかまれたわ……)

 スピカはいつも自宅でおいしい夕食を食べている。それなのに、このシリウスが作る食事の方がおいしく感じるのはなぜなのか。それってやっぱり……。

 スピカが顔を赤らめながらそんなことを考えていると、シリウスは地図を広げて指を指した。

「今日はここまで来た。だいたい半分だな」

 明日の夕方には浅瀬道を抜けられる見込みのようだ。

「わあ、きれい!」

 ミラが顔を見上げて叫んだ。星と月が瞬いている。

「ポラリスのことがなければ、こうやってのんびりしたいところだなあ…」

「うん…」

「そうね…」

 3人の心が一致している。シリウスはどうか知らないが、ミラとスピカは想いを寄せる人と一緒なのがうれしいのだろう。

 その夜は、テントに3人で川の字になった。真ん中がシリウスで両隣がミラとスピカ。ハーレムの状態で「何かあるかな」と期待する少女たちだったが……。

「グー…」

 シリウスが真っ先に寝てしまった。

(ちょっとお…)

 スピカは若干不満そうだ。するとミラが

「スピカ先輩、起きています?」

 と言ってきた。

「うん」

「こういうとき、シリウスって朴念仁ですよね。せっかくかわいい女の子が二人もいるのに……」

 スピカは苦笑した。同じこと考えていたのね…。

「大きな使命を背負っているし、私たちも守りながらだったから疲れていたのかもね。休ませてあげましょう」

「先輩、おっとなー」

 そうでもないわよ、と言いながら、シリウスの頭に手を添えた。天漢癒の〝潜〟を発動させる。

「こうすると生理機能がよく働いて疲れが回復するはずよ」

「あー、こんなときは先輩の方が有利ですね」

 少しむくれるミラ。スピカの気持ちに気付いているのかどうか、そこまでは分からなかった。

「ふふ、まずはシリウスの使命を支えましょう」

 気持ちを伝えるのはそのあと…とまでは言えなかった。

 スピカはシリウスの頬にキスをした。ちょうど、ミラも反対側から同じことをしたのには気付かなかった。


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