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大火の薬②

 部下を殺されたルクバトが憤怒の表情でアンタレスをにらむ。が、アンタレスは涼しい顔をして挑発している。ルクバトは斗宿の矢を複数作り、連射した。アンタレスはそれを難なくかわしていく。

「ちょっ、マジなの!? ルクバトの連射攻撃を簡単にかわすなんて!」

一方、フォマルハウトは冷静にアンタレスを観察した。

 彼の左腕が動いていない……。アンタレスは足や体幹がひらっ、ひらっと素早く動いているのに、左腕がまったく動いていないのだ。その腕は炭のように黒焦げになっている。

「ルクバト! ヤツの左腕を狙え!!」

「!? ああ!!」

 ルクバトはすぐに闘気を練り、弓に番えて発射した。その矢がアンタレスの左腕に当たると、黒い腕がちぎれてはじけ飛んだ。宙を舞う腕は、そのまま壁に激突した。

「ぐっ……!」

 アンタレスは残った二の腕を押さえる。

「どうやらその薬は諸刃の剣らしいな」

 鋭く指摘するフォマルハウトに対し、アンタレスは冷笑を浮かべる。

「君の洞察力には脱帽するよ。さすが記者だ」

 するとアンタレスは、二つ目の小瓶のふたを口で開け、そのまま右手でひっくり返して手のひらにかけた。

「なっ!?」

 目をむいて驚くフォマルハウトとルクバト。それをあざ笑うかのようにアンタレスは言い放った。

「一気に勝負をかけてやる!」

 アンタレスの右手から炎が立ち上り、再び業火が襲ってきた。今度は波のような形だ。

「ルクバト、カペラ! 僕の後ろに来い!!」

 2人が背中に来ると、フォマルハウトは壁のように迫る炎に対し、七星剣を逆さに構える。

「秘剣・文綾の星!!」

 炎の波が、空気の渦を境に真っ二つに割れるようにはじけた。しかし、そのさらに後ろにいた赤星党の党員たちが炎に飲み込まれた。

「ぎゃあああああああああああ!!」

 しまった、と後悔した瞬間には、党員たちは黒焦げになり、体はボロボロと崩れ落ちた。しかし、アンタレスには味方を巻き込んでしまったという罪悪感はみじんもなかった。

「アンタレス!!」

 非難じみたカペラの声を、アンタレスはさらりと受け流す。その右腕は、左腕と同じく黒く焼けただれていた。

「アンタレス、降参しろ。その腕じゃお前に勝ち目はない」

 左腕を無くし、右腕も使えないようになっている。両腕とも自ら失うなんて正気じゃないが、これで勝負は決した。

 しかし、アンタレスは冷笑を絶やさない。

「フッ、まだ一つ残っているだろう?」

 こいつ正気か? フォマルハウトは冷や汗を流した。自分の体を犠牲にしてまで戦うなんて、何の意味がある?

 そう思った矢先、最上階に続く階段から足音が聞こえてきた。残っていた党員が降りてきたのか――?

「アンタレス!!」

 降りてきたのは見慣れた女性――妻のシャウラだった。

「シャウラ!」

「フォマルハウト! あんたね、彼をこんな目に遭わせたのは!!」

 シャウラは怒鳴るなり、階段を一足飛びに降りてアンタレスに駆け寄る。僕がけがしてもあんなことしてくれなかった――いや、それどころじゃない。

「アンタレス、何てことなの…両腕が黒焦げじゃない、かわいそう」

 目に涙を浮かべるシャウラ。突然、アンタレスの唇に自分の唇を押しつける。

(おいおい、仮にも夫の僕がここにいるのに……)

 これで完全に夫婦関係は修復不能だということを、フォマルハウトは悟った…もっとも、妻以外の女性と関係を持ちかけた自分も同罪と言えば同罪だが。

「…ごめんシャウラ、無茶しちゃったよ…あの約束、今こそ果たしてくれるか?」

「ええ、あなたのためなら」

 シャウラはアンタレスから薬の瓶を受け取った。大火の薬、最後の一つである。約束って何だ?

「シャウラ、まさか君もそれを使うのか? 腕にかけて僕らに攻撃を仕掛けるのか?」

 フォマルハウトは、やや挑発じみた口調で言った。育児や家庭生活から逃げ出したのだ、彼女にそんな度胸はない。そうたかをくくっていた。

 ところが、シャウラは毅然とこちらをにらむ。

「半分は合っていて、半分違うわね」

「は? どういう…」

「あんたと話すことなんてもうないわ。アンタレスは約束してくれたのよ。命に代えてもこの戦いで相手を滅ぼせば、この薬が楽園に導いてくれるって」

 するとシャウラはその薬を唇に持っていき、ぐいっと飲み干した。


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