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最初の夜

 フォマルハウトはカペラの声でハッとした。そうだった、ミアプラを託児所に預けているんだった。時計を見ると6時半を指している。いつもならまだ仕事をしているところだが、託児所は閉まるということなので、もう切り上げなければならない。

 泣きじゃくるミアプラを抱っこし、帰宅することにした。


 家に着くなり、ミアプラをクッションの上に載せて夕飯の支度を始めた。とりあえず簡単に作れるもので……はて、ミアプラは今、どの程度食べられるんだっけ? ごはんとみそ汁はいつも作っているから分かるが、おかずはどうだろう? 野菜は適当にゆでれば食べられるはずだったな……そんなことをつらつら考えていると

「うえええん!!」

 と、ミアプラが泣き出した。フォマルハウトは慌てて抱き起こしてあやす。しかし泣き止まない。「どうしたらいいんだよ……」と途方に暮れる。

 まずい、このままじゃごはんが作れない。しかも風呂も沸かしていない。まさか、これがこれから毎日続くのか――? 悲壮な気持ちがむくむくともたげてくる。すると、玄関の呼び鈴が鳴った。ミアプラを抱えて出ると

「やっほー、ハウト」

 カペラがいた。

「ど、どうしたんだ?」

「1人で大変だと思ってね、助っ人に来たよん」

 おじゃましまーす、とカペラは上がり込んでリビングに入る。

「おいおい」

「あら、夕飯の支度中なの。ミアプラちゃんが泣いていたら大変よね。私、ミアプラちゃんを見ているから支度進めて」

「いいのか?」

 と思いつつ、ありがたい申し出なので料理を進めることにした。手の込んだものは作れない。野菜を適当にゆでて塩で味付けをした。ミアプラの分は塩を控えめにしている。離乳食を卒業していないのだ。

「あら、おいしそう」

「ありがとうカペラ、助かったよ。せっかくだから食べていってくれ」

 3人で食卓を囲む。ミアプラは「(いただき)まーす!」と両手を合わせると、素手でごはんをつかんだ。「え!?」とカペラが驚くと

「0歳児なんてこんなものだよ」とフォマルハウトは笑った。

 赤ちゃんは何でも練習中なのだ。自分でごはんを食べられるようになるためには手づかみ食べも大目に見なければならない。

「すごいね……」

 ミアプラはごはんを口に放り、口の周りに米粒をべとべととくっつけながら何とか食べる。みそ汁はお椀を自分で持って傾ける――が、傾け方が悪く、汁の半分ほどがテーブルにこぼれた。

「わあっ!」

 驚くカペラをよそに「ま、こんなものさ」と、フォマルハウトは慣れた手つきで布巾を使い、テーブルをふく。30分ほどして食事が終わると

「…赤ちゃんの食事ってこんなに大変なんだね。看護師の勉強の時に聞いたことはあったけど……」

「僕も親になるまで知らなかったよ」

 苦笑いするフォマルハウト。子供をもって自分の親のありがたさを痛感するというが、まさにその通りだった。

 食器を片付けた後は風呂を沸かし、入ることにした。風呂に関してはしょっちゅうミアプラを入れているので問題はなかった。ミアプラの服を脱がせ、フォマルハウト自身も裸になって入る。体を洗い、湯船につかってしばらくしたら上がる。夜のルーティンだった。が、問題はその後だった――。

 風呂のドアを開けて体をふき始めると……カペラが寄ってきた。

「ふーん、こんなふうにお風呂入れているのね」

「ああ、もうすぐ1歳になるからこの子も重くて……」

 フォマルハウトはハッとした。いつもの調子で上がったけど――カペラに裸を見られている。

「うわあああ!!」

「何であなたが悲鳴を上げるのよ。普通は逆でしょ?」

 呆れた表情のカペラ。さらに「看護師なんだから、男の裸も見慣れているわよ。別に気にしないって」とけろっと言い放つ。挙げ句、「フェアじゃないっていうなら、私の裸も見せようか?」だって。まったく、この人は……。


 夜も遅いので、今日はカペラに泊まってもらうことしにした。ミアプラは子供用の小さな布団、フォマルハウトはカペラと布団を並べて隣同士である。

「なんだか……出張の時を思い出すね」

 カペラがふふっと笑いながら話しかける。

「そうだな……」

 フォマルハウトは少し複雑だった。妻が本気で家出して、夫婦の気持ちがお互いに離れていることは分かった。そして、カペラの好意を嫌に思わない自分にも気付いた。しかし――今のままカペラと結ばれるわけにはいかない。捕まるかどうかしらないが、シャウラとの関係にけじめをつけなければ――。

 そう思っている時、カペラが隣の布団からこちらに潜り混んできた。


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