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芽生えた使命感

「え? 付き合うって?」

 スピカはドキッとした。突然何を言い出すのかしら……。

「だから修行に付き合ってくれってことだよ」

 シリウスは首をかしげる。

(ああ、そういうことね)

 どぎまぎした自分が馬鹿みたい。シリウスに助けられたとき、お姫様抱っこをされた。嫌なやつと思っていたけど、家族同然のミラのことを大切にしていて自分の非は素直に認めるほど潔い。何より意外とお人好しなのだ。よく見ると顔立ちもいいし……。

だからって、何で私がこんなにこいつにドキドキするのよ! 意識しすぎよ、スピカ!男子の上半身の裸を見たからドキドキしているだけでしょ!?

「そこに石の山があるだろ? そいつを投げてくれ」

「な、投げるって……?」

 シリウスが言うには、野球のピッチング練習のように、次々にシリウスに投げつけるということだ。

「スピカはコントロールが良いって聞いたことあるから、ちょうどよかった」

 シリウスはスピカから10mほど離れたところに立った。

「思いっきり投げてくれ。俺の顔をめがけてな」

「ええ!?」

 多少驚くスピカ。下手したら怪我するわよ!?

「最後の七の秘剣は誰かに手伝ってもらわないと修得できないんだ。頼む」

 七星剣を構えたとたん、シリウスは闘気をみなぎらせた。柄を上にし、刀身を下にする。今までにない構えである。

「…じゃあ、いくわよ」

 スピカは渾身の力でシリウスの顔に向けて投げつけた。

「七の秘剣…!」

 しかし七星剣が光る直前に、石がシリウスの顔面に直撃した。

「がっ!!」

 思わず顔を手で抑え、うずくまる。額からは血が流れている。

「ってえ……」

「ご、ごめん、大丈夫!?」

 動揺するスピカ。頼まれたとはいえ人を傷つけてしまった。しかしシリウスは血を流したまま立ち上がり、再び構えた。

「…続けてくれ」

「そんな…できないよ」

「頼む、やってくれ!!」

 シリウスの気迫に気圧され、スピカは不安げな表情で2個目を投げた。しかしまた不発で石が顔に直撃。そんなことを20回ほど繰り返した。

 しばらくすると、

「ねえ、もうやめようよシリウス……あなた傷だらけじゃない」

 と、泣きそうな顔でスピカが言ってきた。シリウスの顔は傷やあざだらけだ。右目のまぶたにいたっては腫れ上がっている。

「あと少しなんだ。七つ目の秘剣が修得できればここを出られる」

「…そんなにここが嫌なの?」

 そう言ってから、スピカは気付いたのだ。最初は盗みに荷担したシリウスを毛嫌いしていた。しかし、落下する岩から助けてもらい、さらにはおいしい食事を作ってもらったり、彼が盗みを働いた理由を聞いたりするうちに…嫌悪感はなくなったのだ。スピカにとってこの貪狼の祠がある岩場は、今まで接点のなかったシリウスと自然に会える場所となっている。修行が終わったらそれも終わってしまうかもしれない。終わらせたくない、もう少し、このままここで……。

 しかし、シリウスから返ってきたのは意外な答えだった。

「ここを出て、ベテルギウスとリゲルを止める」

「え…」

「このままポラリスを持って逃げ続けると、この星の大地は災害に見舞われてしまう。それに、あいつらだってずっとつけ狙われて命を落とすかもしれない。生きて戻れば償うことはできるんだ。本当なら、俺はあいつらに荷担するんじゃなくで止めるべきだった。俺には責任がある。だから俺が連れ戻す」

 呼吸も上がり、立っているのもやっとのようだ。それでもやめようとしない。

「スピカ。お前は優しいから、本当はこんな役やりたくないだろう。ごめんな、嫌なことさせてしまって」

 その瞬間――スピカは胸の奥でパチンッ、という音が聞こえた気がした。私のこと「優しい」って言ってくれた。あなたには今までひどい態度ばっかりとっていたのに…ちゃんと見ていてくれたんだね。それに、自分がボロボロになっても相手を思いやってくれる。

 ごめんなさい、シリウス。私、あなたのこと誤解していた。私の方こそ謝らなきゃいけないのに……。

「でも、本当に続けるの?」

「ああ。俺自身も、何でここまでやろうとするのか分からないんだ」

「それは使命感というものだな」

 庵からアルクトゥルスが出てきた。


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