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第38話『スレイヤー再び』

 ウチョロッグの討伐依頼を受けるべく、スレイヤーズギルドへ向かう二人。エラフィンはレンリエッタを杖に乗せ、サタニズム街のやや南の方へと向かい、開けた場所へと降り立った。

 今にでも動き出しそうなドラゴンの石像が特徴的な広場だ。レンリエッタは早速周囲を見回してみると……此処がえらく物騒な場所だと直ぐに理解した。

 閑散とした雰囲気の漂う大通りには斧や剣を始めとした刃物が並ぶ武器屋がずらりと並び、至る場所に手配書が貼り付けられ、広場の真ん中には絞首台が置かれており、縛られたロープが不気味に揺れている…

 そして極め付けは道行く人々…その大半が武装した獣人であり、レンリエッタ達を見るなりギロッと睨みつけて行くのだ。


「な、なんか雰囲気が怖いね…此処…」

「此処はデモンズサウス、スレイヤーと殺し屋の街。怖いなんてもんじゃないよ、此処にいるうちは絶対に私から離れないで、良いね?」

「うん!絶対に離れないよ!ひぇえ…」


 デモンズサウスと呼ばれるこの地域はサタニズム街からわずかに南部へ下っただけだと言うのに治安は最悪であり、公開処刑や差別の文化が強く残る場所なのだ。まさにエラフィンが言うように此処はスレイヤーと殺し屋の街…裏に属する者にとってのサタニズム街と言ったところか。

 レンリエッタはいつの日か訪れた『夜のとばり通り』を思い出したが、あそことはまた違った雰囲気で恐ろしい場所である…しかし此処は最低限兵たちも居るし、エラフィンも付いているので滅多な事にはなら無さそうだ。

 エラフィンの手をギュッと握りながら、レンリエッタは彼女と共に大通りを歩き始めた。至る場所から嫌な視線を感じる…


「すごく見られてる…それにみんな怒ってるみたい…」

「言ったでしょ?スレイヤー達は私ら魔法使いが嫌いなの。でも堂々としたら良いさ、私が居る限り手出しはさせないよ。」

「うん…」


 周囲から感じる敵意に満ちた視線を浴びながら、レンリエッタは大通りに面する店たちを眺めた。

 目に入るのは武器屋、武器屋、解呪屋、レストラン、武器屋、変な人、武器屋……どこを見ても一つは刃物が目に入るので、目を閉じても浮かんで来てしまうだろう…


 しかし興味深いものも幾つか見られた。まず卸屋(おろしや)と呼ばれる店では破格の安値で魔物の素材が売られており、診療酒場という店の看板には『手足の縫合1ケイル、外傷治療は全身5ケイル』と書かれている…もし本当なら歯医者で歯を抜くよりうんと安く腕を繋げてもらえるのだ。

 ただし、それらの店には必ず入り口付近に『魔法使いお断り』と書かれているので彼らの魔法嫌いを嫌という程感じられた。


 レンリエッタはキョロキョロと周囲を眺めつつ、エラフィンと共にしばらく通りを歩いて行けば、賑わいの声が聞こえて来た。獣人たちの数も目に見えて多くなっている…

 それからほんの数歩で前方に大きな建物が見えて来た。


「あれがギルドっていうやつ?」

「ええそうよ。数あるうちの一つだけど、此処が一番賑やかね。」


 ようやく到着したスレイヤーズギルドは木造の巨大な酒場であった。

 広い十字路の角に建てられており、上部の看板には『モンスタースレイヤーズギルド:デモンズサウス本部』と書かれている。中に入らずとも既に喧騒が聞こえ、外は多くのスレイヤー達が行き交い、掲示板に張り出されている依頼を眺めてはふむふむと頷いているのが見える…

 思わず歩く足を止めてしまうレンリエッタだったが、エラフィンは構わず手を引っ張って連れて行った。幸いにも魔法使いお断りの張り紙は無かったが、店の周囲に立つ多くのヘルド達から嫌な視線を受け取ってしまった…


「うぅうう……嫌な感じっ…」

「なぁに、私が付いてるさ。大丈夫よ。」

「早く終われば良いなぁ…」


 胃の中がギューッと縛られるような緊張感の中、レンリエッタはエラフィンに連れられてギルドの中へと入って行った。爆発するかのような賑わいが耳の中へ入って来る…

 外の時点で派手であったが、中も随分と派手である。広いホールにはテーブルが幾つも置かれ、スレイヤー達が酒を飲み交わしたり、資料を広げて会議を行ったり、金貨を賭けてゲームに熱中している。

 壁には幾つも怪物の生首が掛けられており、『今週のベストスレイヤー』のコーナーには厳つい顔が並び、その横の『今週のお亡くなりスレイヤー』のコーナーへはその倍以上の面々が張り出されていた。

 ハッキリ言えばレンリエッタのような日陰者からすれば、好きになれそうにない場所だった。どこを向いても絶えず会話が聞こえて来る…


【飛竜の胃袋がどんな匂いか知ってるか?】

「いいや、どんな匂いなんだ?」

【お前の口と一緒だぜ】


「先週の飛竜討伐で仲間が3人吹き飛んでな…死霊術師に蘇生を依頼したんだ」

「あいつ等か?互いに仲悪かったよな、いつも喧嘩してたし。」

「良いや、今は仲良しだぜ。なんたって3人が1人になっちまったんだからな。」


【例のお尋ね者たちについて聞いたか?】

【聞いたぜ、女は背骨が折れて一人は黒焦げなんだろ。】

【でもそいつ等のリーダーはまだ見つかってないらしいぜ。】

【見捨てたのか?ひでぇな…二人とも処刑は延期されたけど悲惨だよな…】


「この騒ぎ…頭が痛くなってくるよ…」

「揉めると面倒になるからね、さっさと行くよ。」


 レンリエッタは依然としてエラフィンの手を握りながら、後を付いて行った。騒がしいおかげか、レンリエッタ達に気が付く者は少なかった。

 そして二人は上階(宿泊施設だ)へと続く階段の横に位置するカウンターへと訪れた。人が多かったので少し並んだが、受付の仕事が早いおかげですぐに順番がやって来た。

 二人を出迎えたのは此処では珍しい至って普通なヘルドの女性だった。右目の上にもうひとつ目がある事を除けばの話だが…


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか。」

「討伐依頼を見て来たんだ。南部の湿地帯でやってるウチョロッグの依頼はまだあるかい?」

「少々お待ちを……ええ、まだ1人用の枠が残っていますよ。」

「だったらこの子を登録してくれ。私は監督役として同行する。」

「えへへ…ど、どうも…」

「でしたらこちらの書類にサインをお願いします。」


 レンリエッタは背伸びしながら、カウンターの上に置かれた書類の参加者名の部分にサインをした。エラフィンもその横、監督者名へ『ナメラ』とサインをした。

 書類には『一切の責任を負いません』やら『死亡時の…』なんて文字が見えたような気がしたが、レンリエッタはわざと気付かないふりをして過ごした。


「レンリエッタ様…そしてナメラ様ですね。スレイヤーライセンスを拝見させてもらいます。」

「ほーれ、あんまりジロジロ見なくても良いからね。」


 エラフィンはそう言い、受付の女性へ薄っぺらいカードを渡した。受付嬢はライセンスを眺め、途中でムッとしたような表情を浮かべたものの…特に何か言われる事も無く、ライセンスは返却された。

 これにはエラフィンもホッとした様子…


「それではこちらの認可書を持参の上でベルツ村へとお向かいください。もしよろしければドラゴン便を手配しますが?」

「いいや、大丈夫。自分で飛んで行くよ。」

「それでは行ってらっしゃいませ。」

「行って来ます…」


 というわけで、認可書とやらを貰った二人は特に揉め事も無くギルドを出ることに成功した。外に出た瞬間、レンリエッタは水を得た魚のように生き返った気分になった…

 どうにも生きた心地がしなかったのは、雰囲気のせいなのだろうか…


「今日はツイてるね、誰にも絡まれなかったよ。」

「じゃあいつもは絡まれるの?」

「まぁね。でも大概は私の名前を聞いて震え上がっちまうよ。それから子犬のように逃げて行くのさ!」

「それは良いから早く行こうよ、遅れちゃうよ。」

「おっとそうだったね…」


 エラフィンは杖に跨ろうとしたが、此処が離着禁止ゾーンだという事を思い出せば、面倒ながら先ほどの広場まで歩いて行き、二人はいよいよ南部の湿地帯目掛けて飛び始めた…

 ついつい勢いから討伐依頼なんて受けてしまったが、レンリエッタの心の中は不思議と勇敢さに溢れていた。




 海を眺めつつ、南へ飛んで行けばクランクス王国の今までとは違った一面が見えて来た。

 深い緑色の大地とまばらに佇む湖が特徴的な湿地帯のクランサウス地方である。北には雪山、南には湿地帯なんて非常識にも程がある国だが、とりあえず気にしないでおこう…

 それはともかく、滑らかな湿地帯は目立った高所もほとんど見当たらず、上空からの眺めはすこぶる良かった。


「此処ってあんまり村とか無いんだね、建物も全然見えないし…」

「ここいらは随分と物騒なのよ。船を浮かばせれば水棲竜に沈められ、陸は怪蟲やら半魚獣なんかのパラダイス…新しく開拓もされないし、今住んでるのは殆ど先住民の末裔さ。」


 その話を聞き、少し不安に思っていたレンリエッタが下を眺めてみると、湖の底からザブンと長い尾を飛び出させる水竜の姿が見え、一層と緊張感が走って来た。

 この湿地帯は殆どが定住に向かない地域である。集落は全体の1割程度の場所に集中しており、その地域も家がやっと建てられる程度なのだ。

 こんな場所に定住する意味があるのかと悩むものだが、もちろんある。


「でも、原始的な魔法薬だったり、魔術を扱う時はこういう場所が丁度いいのよ。湿地帯は多様性そのものだからねぇ…そこら中に素材がうじゃうじゃあるし、泥炭だってすぐに調達できる。」

「泥炭?」

「よく燃える泥のことさ。昔の魔術師は泥炭の火で色々作っててね…もちろんこの地域に住んでる奴らは燃料なんかに使うし、外に輸出もしてる。」

「わざわざ泥なんて買う人が居るの?」

「意外と多いね…でも最近じゃ魔法関連には使われる事は無いだろうね…酒の香り付けが良いところさ。」


 世界最古の魔法が生まれたされる遥か南の異国『ペルバーセン』はこのような湿地帯であり、クランサウスとよく似た環境であった。なので昔ながらの呪術医や原始魔法使いにとってこの地は凄まじく有益なのだ。

 貴重で特異な動植物に溢れ、泥炭がすぐに調達でき、静かなので思う存分仕事に没頭出来るのだ。


「……おっと、見えて来たね…あれが目的の村に違いないよ。」

「思ったより小さいなぁ…」

「ここじゃ大きい方よ。そんじゃ降りるよ…!」


 少しすると目的の村らしき場所が見えて来たのでエラフィンはスピードを少し上げ、一気に村へと急降下し始めた。高度が下がって行けば行くほどムワッとした湿気が全身を包み込み、ジリジリとした嫌な暑さがやって来る…!

 湿地帯は今こそがピークなのだ!


「うっ…!すっごい湿気…!」

「こいつぁひどいね…うぅ、さすがにこの暑さじゃ参っちまうよ…頭巾を脱がないと…」


 村の前へと降り立つ頃には全身がムワムワとした嫌な湿り気に包まれ、すっかり汗ばんでしまった。エラフィンも着用していた頭巾をスルスルと脱ぎ去り、深く息を吐いた…

 湿地帯とだけあり、他とは比べ物にならないほどの暑さだ。クランノースの寒さもそれは厳しいものだったが、此処の暑さもひどいものだとレンリエッタは痛感した…

 しかし、このような些細な事で一々弱音を吐いているのではスレイヤーの仕事は務まらない…レンリエッタは暑さを我慢しつつ、到着した村を眺めてみた。


 丸太で作られた防壁に囲まれ、他より少し高く盛り上がった丘の上に作られた中規模な村である。苔むした木造の家屋が十数件ほど建っており、開いた門の奥からは妙な装束を着込んだ人々がこちらを覗いている。

 やがて一息つく二人の下へ、門の前に立っていたヘルドがやって来た。エラフィンとよく似た鱗の皮膚を持ち、トカゲのような顔をした…というより、トカゲ人間そのものであった。


【なぁアンタ達、もしかしてスレイヤーか?】

「え?あぁそうさ、依頼を見て来たんだ。カエル退治の依頼をね。」

【おぉそうか!じゃあこっちに来てくれ!他の奴等も待ってるぜ!】


 どこぞの集落とは違い、えらくフレンドリーな対応に新鮮味を感じながらレンリエッタとエラフィンは彼の後を付いて村へと入って行った。

 彼の口ぶりから察するに既に他のスレイヤー達も集まっているらしい。


「やっぱり私達以外にも居るんだね。」

「らしいね。でもきっと無名の奴らよ、こんな場所に有名な奴なんか来ないさ。」

【無名だって?まさか!今日はスゲェ奴らが集まってるぜ!】

「そりゃ随分と楽しみだね、一体どんな奴らなんだい?」

【なんたって今日はかの有名な…魔獣殺しのズニョポンも来てるんだからな!】

「……なんだって?」

「えぇ!?ズニョポンって…」


 その名を聞いて、二人はギュッと固まってしまった。

 魔獣殺しのズニョポン……かつてレンリエッタを人質に取り、エラフィンの首を狙った危険な賞金稼ぎである…

 レンリエッタはだらりと冷や汗を流し、エラフィンはすぐに仕舞っていた頭巾を取り出し、ズボリと勢いよく被った。もし顔を見られてしまえば一大事どころでは無いのだ。


【はっはっは!驚くのも無理は無いよな!でもそんなに怖い人でも無いんだぜ、サインも書いてくれたしな!】

「先生…マズいよ…帰った方が良いんじゃ…」

「いいや…大丈夫よ…前回は記憶を消したし…私の顔さえ見られ無きゃ襲われる事は無いでしょ…多分」


 トカゲ男をよそに、レンリエッタとエラフィンはひそひそと話し合った。

 ズニョポンが居るなんて完全に予想が出来ない状況である。前回は撃退時に記憶を消したのだが、それはあくまでもレンリエッタと森の事だけ…エラフィンに対する執念と殺意は据え置きなのだ。

 なので顔さえ見られ無ければ良いと振り切って、二人はそのまま依頼を受けることにした。エラフィンは暑い中で頭巾を再び被る羽目になったが騒動を起こすよりは遥かにマシだった。


「いいかい、余計な事は喋るんじゃないよ。絶対にだ。」

「うん…もうたくさんだよ…首を斬られそうになるのは…」

【おーい、二人とも、どうかしたのか?】

「う、ううん!なんでもない!ちょっと暑くてボーっとしてただけ!」

「まったく此処は酷い暑さだねぇ…」

【そうか?今日は涼しい方だと思うけどな……まぁいいや、村長の家はすぐそこだぜ。ほら家の前にスレイヤー達が待ってる。】


 トカゲ男が指さす方向を眺めてみると、苔むした少し大きめの建物の玄関付近に幾人かの姿が見えた。遠目からでも一層と背の高い獣人の大男…ズニョポンはかなり目立っていた。

 その姿を見るなり、レンリエッタはグッと胸を引き締め、エラフィンはハァーッと深く溜息を吐いた。


【それじゃあ後は自分で行ってくれ。村長にはスレイヤーって伝えれば直ぐに分かってくれると思うぜ。頑張れよー!】


 そう言い、トカゲ男は門の方へと戻って行った。

 さて…ズニョポンの姿に中々足が進まなかった二人だが、やがて意を決するとエラフィンが先に歩いて行き、レンリエッタも慌ててその後を付いて歩き始めた。

 近付くに連れて、既に集まっているスレイヤー達がより鮮明に見えて来た…槍を背負う背の高い男、笛をヒョロヒョロと吹く女…それからレンリエッタよりも背が低く、物騒な棘鉄球をグルグル回す謎の戦士まで…色物揃いだ。

 それに加えて覆面魔女と白髪の貧相なガキが仲間入りをするので絵面はとてつもなく愉快なものになるだろう。


 二人が十分に近付くと、まず背の高い男が話しかけて来た。他の者達は知らんぷりと言った風に振舞っているが、視線は必ず二人の方へ向いている。


「おっと、さらに同業者のお出ましかい。アンタ等もスレイヤーだろ?」

「ああそうさ。けれど私は監督役さ、戦うのはこっちの方よ。」

「こんにちは…」

「ほーう、小さいのに偉いじゃないか。」


 レンリエッタは会ったばかりだと言うのに、この男を好きになれそうにはなかった。

 肌は赤く、額には太い二本のツノ…まさに典型的なヘルドそのものであるが、どうにも人を見下すような目つきが好きになれないのだ。しかし、実際に背が低いので見下されるのはしょうがない事だろう…誰でも目線を下に向けて話すのだから。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「レンリエッタ…です。」

「そうか、レンリエッタか!俺はハイントール、かの有名な吸血鬼殺しとは俺の事だぜ!」

「………そうなんだ。」

「待て…なんだその反応は…まさか知らないのか!?」

「うん、知らない」


 どうやら、このハイントールという男は有名なスレイヤーらしい。しかしレンリエッタからすればただの赤いスレイヤー以外に感想は出てこないのである。

 ハイントールが納得できなさそうな表情を浮かべていると、その後ろから笛を吹いていた女が声を掛けた。彼女は頭上に輪が浮かぶ…リングヘルドである。


「ハイン、認めなさいよ。アンタは自分で思ってるほど有名じゃないのよ。」

「なんだと?じゃあお前はどうなんだよ。おいレンリエッタ、こいつ知ってるか?」

「もちろん知ってるわよね?スレイヤーの中でも弓の名手と名高い私の名は…」

「……し、知りません…」

「なんですって?」


 自信満々に振舞う反面、やはりレンリエッタはその女性の名も知らなかった。弓の名手とは聞いても、スレイヤーなど直接会ったズニョポン以外は全く持って知らないのだ。

 それを聞いて彼女はキーッと顔を赤くすると、ドシドシ歩いて遠くへ行き、ピーピーと笛をやかましく吹き始めた。ハイントールは愉快そうに笑っている…


「だーっはっはっは!やっぱりアイツも大概だな!」

「でも…結局誰なの?先生は知ってる?」

「ええもちろん。ジクルートだろうね、酒に酔うとやかましくなる事で有名な奴さ。」

「おお!当たりだ!アンタは随分と界隈に精通してるらしいな!じゃあ、あの人が誰なのかも分かるよな?」

「ズニョポン…ズニョポン・サプコフスキ…知ってるさ、世界一有名なスレイヤーの一人じゃないか」


 自身の名を呼ばれ、ズニョポンは静かにこちらを向いたが…特に気に留めず視線を村へと戻した。エラフィンが関わっていなければ案外物静かなのだろうか…

 ちなみに以前使用していた斧は見当たらず、代わりに無骨な黒い大鎌を背負っている。


「しかし…なんで此処に居るんだい?」

「それこそ俺だって知りたいさ。こんなシケた依頼に来るなんて…」

「そういうアンタはどうなんだい、吸血鬼スレイヤーがカエル退治ってのも変だと思うけどねぇ」

「なーに、点数稼ぎさ。あのジクルートと…そこのチビのダイミンもな。だがあの人はしょぼい点数稼ぎなんてしないとは思うんだけどな…」


 確かに妙な話である。ズニョポンは最強と謡われるスレイヤーの一人…それがこのような小さな村のカエル退治にわざわざ出向いて来るとはおかしなものだ。

 ハイントールのような点数稼ぎで無いのは確かだが…理由は本人のみぞ知るのだろう。


「さて、私達は一旦村長に話を付けないとね…行くよレンリエッタ。」

「うん。」


 詳しい話はさておき、エラフィンとレンリエッタはひとまず村長と話すことにした。

 エラフィンが古ぼけたドアの横に吊るされたベルを鳴らしてみると、ひしゃげた気持ちの悪い音が鳴り響き、中からカツンカツンと杖を突く音が聞こえて来た…

 そしてガチャリとドアを開き、出て来たのは門番と同じくトカゲの老人…鱗が尖り、目は鋭く、歯も剥き出しだったのでトカゲというよりワニに近かった。


【これはこれは……もしかして…スレイヤーの方ですかな?】

「ええそうよ、私は監督役のナメラ。こっちが…」

「レンリエッタです…スレイヤーの免許は持って無いけど…」

【誰でも手伝ってくれるなら歓迎ですぞ、よくぞ来てくれましたな。今年のウチョロッグは一段と凶暴なので頼もしい限りですぞい。】


 村長は見た目こそ恐ろしかったが、レンリエッタを歓迎してくれるぐらいには懐の広い人物であった。少々軟膏の匂いがキツイ気もしたが、この村自体あまり良い匂いはしなかったので気にならなかった。

 しかしながら、村長曰く今年のウチョロッグはかなり凶暴らしい…年によって凶暴度合いを変えるとは、()()()らしくない…


「それで、いつ仕事を始めるんだい?見たところまだ始まって無さそうだけど。」

【もう少しばかり…夕暮れと同じく始めようと思ってな…村の外に作った誘導装置でおびき寄せて一気に退治するつもりですぞ。】

「誘導装置ってのは…一体どんなものなんですか?」

【奴らの好物…ナギリムシの鳴き声を出す鐘を使ってな、おびき寄せるんじゃ。奴らは一匹でも居ればどんどん増える…だから一気に潰す必要があるんじゃい。】


 夕暮れ時に作戦は始まるそうだ。

 ウチョロッグの好物である『ナギリムシ』の鳴き声を録音した残響鐘を鳴らし、やって来たところを一気に叩くとのこと。ウチョロッグは単一生殖も可能なほどの生命力を持つのでこの作戦で一気に潰す必要がある。

 ちなみに報酬は一人当たり70ケイルとのこと……カエル退治に高給を望むつもりは無いが、命を張るにしては安いと言わざるを得ないだろう…もっとも、命がけに値段など無いのだが…


【決行の時まではどうぞゆっくりしてくだされ。もしよろしければ、そちらの美しい鱗を持つ方はワシとお茶でも…】

「いいや、結構。私達は私達でゆっくりさせてもらうから、大丈夫。」

【うぅーむ、残念じゃ…】


 お茶はともかく、作戦開始の夕暮れまでレンリエッタとエラフィンは他のスレイヤーと共に待つ事となった。

 しかし…レンリエッタは待つことになるなら、せめて本の一冊でも持って来れば良かったと後悔した。なんたって眺めれば目に入る光景は家屋、泥、家畜の3つくらいである…退屈と言う他ない…

 今頃グリスは何をしているのだろうかと、レンリエッタは心配そうに考えた。


「グリス…怒るかな…」

「その時はその時さ。もし何か聞かれたら遠くの方まで探しに行ってたと言えば良いさ、嘘じゃないだろう?」

「う、うん…そうだけど…何かお土産でも持って帰った方が良いかな。」

「だったら食い物はやめておこうかね。チョコレートを買った時なんて額に入れて飾ろうとするんだから。」


 今頃は家でひとり寂しく待っているであろうグリスに対してレンリエッタは少々の罪悪感を抱きながら、しばしの時間を待った…

 陽が沈むころにはカエル達との激闘が待っている……そう思うと、ひどく寒気がするように体中がぶるぶると震えるような気がした。


つづく…

今回のワンポイント


【リーズヘルドについて】

著:アビゲイル・シンロード(種族学者)

『ヘルド族の中でも古株と称される種族、それこそがリーズヘルド族(旧名ディノピシオン)である。彼(彼女)らを一言で表すならば、爬虫類という言葉が最も似合うだろう。うろこ状の皮膚を持ち、トカゲ型とヘビ型、そしてサンショウ型が存在する。なおトカゲ型は男女ともに存在するが、蛇型は女性のみ、サンショウ型は男性のみ存在する。彼らの見た目からビーストヘルド族の近縁と考える者は多いが、実際には彼らは現在のスムース・ヒューマン型ヘルド族が生まれる過程で分断した竜人族の末裔である。そのため乳腺を持たず、胎生ではなく卵生。異種ヘルドとの混血は不可能であり、この点はビーストヘルド族も同じだ。しばしば彼らは純血主義だの、冷淡だのと言われるが、実際のところリーズヘルド族は本能的に争いを嫌い、その大半は平和主義者である。彼らは魔法創生時代から存在する超古代種族であり、優れた古代魔法の使い手が多い。原始的な魔法はもちろん、霊薬などを生み出した種族なのだ。特に君帝戦争時代においては『賢なる種族』として叡智の上立者【イージーツ(或いはレイドオルド)】の門徒としてヴァルハの修復に貢献したとの記録が残されている。なお、現在のクランクス王国内のリーズヘルド全体における魔法使いの割合は約3割程度である。(輪歴318年調べ)』

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