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第30話『変身タヌキの取り違え』

 波乱万丈ながら薬草探しと調合が無事に終わったレンリエッタは痛み止めの薬を数本分の瓶に詰めた。クリアブルーの綺麗な液体薬…見た目はあまり良く見えないが、本の通りに調合したので効果は……あるだろう、きっと。

 そう信じながらレンリエッタは瓶を一本ずつクライムポーチへと仕舞いこみつつ、エラフィンへ聞いてみた。


「いつもは売る側だけど、今回は買い取ってもらう側なんだよね?」

「ああ、それがどうかしたのかい?」

「いや…なんか変じゃない?薬なんて自分で作ったり店で買えば良いのに…って思って。」

「まぁ買い取る方はあくまでも薬を使うんじゃなくて、また売る…つまり転売が目的だからさ。遠くの地方や外国に薬を割高で売るのさ。」


 薬を買い取る店なんて妙な話だが、あくまでもその目的はさらなる売却である。個人での調合が合法化していない地域では薬の類は貴重なので高値で売れるのだ。

 エラフィンはあまりそう言った商売を好まないらしいが、偽造薬の販売よりかは良心的だとレンリエッタは感じた。

 今日は新しくできた薬品買取所を確かめに行く日なのだ。いつもは売る側だが今回は買い取ってもらう側……文字にしてみると、そんなに大差無いものだが、要するに店で売るのと店へ売りに行くの違いだ。


「忘れ物は無いね?売り物を忘れたんじゃ笑い話にもならないよ。」

「大丈夫全部入れたよ、ポーチもちゃんと持ってるし。」

「よーし、それじゃサタニズム街までひとッ飛びと行こうじゃないか!」

「おっとお嬢様、外は暑いので帽子を忘れずに持って行ってくださいね。」

「そっかぁ、ありがとうグリス、行って来まーす。」


 忘れずにグリスから麦わらの帽子を受け取ったレンリエッタはさっそく外へ出てみると、真っ先に蒸し蒸しとした暑さが襲い掛かって来た。この数日で春も随分と暖かみを増したものである。

 レンリエッタはジリジリと照り付ける太陽に目を細めた。


「うぅっ……あ、暑いなぁ…今日も…」

「今日は絶好の早夏日和って言ったところかしら、夏の始まりが来ようとしてるのよ。」

「出来ればもうちょっと後に来てほしいよ、あと…1ヶ月後くらいに…」

「なーに言ってんのさ、1月後はもう夏も同じさ、いいから早く杖にお乗りな。」


 レンリエッタがいつものように杖の後方へ跨ると、周囲の熱風をビュンッと浴びせるように杖は飛び立った。もうすっかり慣れてしまい、今では風が気持ちいいとすら思えるほどだ。

 絶好の早夏日和とはよく言ったものだ、空は真っ青に澄み渡り、巨大な雲が所々で浮いている…相変わらず日差しは強いが、風がある分地上より涼しかった。遠くへ目を凝らしてみれば、同じように杖で飛ぶ者や、フヨフヨと漂うように空を泳ぐ竜も見える…


「相変わらずの日差し…お肌が荒れちまうよ、クリームを買って来ないと…」

「……先生って、その肌でも荒れるの…?」

「もちろん!鱗張りでも荒れるもんは荒れるのよ、アンタだって日焼けしちまうよ。」

「日焼け?うーん……私はちょっとくらい日焼けした方が良いかなぁ…」

「若いってのは贅沢なもんだねぇ…」


 今まで日焼けらしい日焼けなどしてこなかったレンリエッタはちょっとくらい焼けても良いかなと考え、腕を伸ばして照らしてみたが……暑いだけなので止めた。結局、いつもの肌が一番良いのだ。



 早夏の空旅を終え、レンリエッタとエラフィンはいつものように水の出ない噴水広場へと到着した。今日は暑いせいかいつもより人々の活気が少なく、衛兵たちもどこか気怠そうに白いマントを靡かせていた。

 日差しもジリジリと二人を照り付ける…


「ひーっ!暑いよ…ねぇ、焼けちゃう前にお店に行こうよ…」

「まったくね、付いておいで…店はこっちよ。」

「なんだラーム通りにあるのかぁ…」

「へへん、私がまともな店を使わせるとでも思ったのかい?」

「それもそうだよね…」


 強い日差しで焼かれぬうちに二人はラーム通りへと向けて歩き出した。てっきりまともなお店へ向かうと思っていたので、レンリエッタは少しガッカリした気分だ……しかし、自分の様な素人が作った薬を買い取ってくれるのはこういう場所のみだろうと渋々に納得した。

 ラーム通りも暑さのせいでいつもより落ち着いているし、路地裏の通りへ向かう者も多かった。夜のとばり通りは常に薄暗いのできっと涼しいに違いない。


「まったく…本当に今日の暑さは異常だねぇ……日傘を持って来れば良かったよ…」

「ねぇ、こういう時に使える魔法は無いの?日陰呪文とか…?」

「あるにはあるよ、氷魔法で冷気を作り出すのも良いかもね…けど生憎、そんな事に魔力を使いたくないの…だから我慢我慢…」

「魔法使いって案外ケチなんだね、魔力ケチ…」

「ケチったもん勝ちなんて、昔からよく言うだろう?」


 こういう時こそ便利で楽しい魔法の役目なのだが、エラフィンはみみっちい事に体力を使いたがらないので、そうともいかないようだ。よく見れば道行く人々の中には分厚いローブを着込んでも汗ひとつ垂らさない者も居る…おそらく涼んでいるのだろう。


 そんなこんなでジリジリジメジメとしたラーム通りを歩いた二人は、やがてひとつの店の前で足を止めた。

 ラーム通りでは珍しくない、カウンターを通りに向けたタイプの小さな店だ。レンリエッタは眩しそうに顔を上げて店名を確認した……『マディンズ・ポーションズ・ポーン』という名前らしい…やけにムカつく笑顔のマークが印象的であった。

 エラフィンは店を見た途端に思わず不満を漏らした。


「うげっ、なんだいこりゃ…なんともセンスのない店だねぇ。」

「そうかな?私は結構好きだよ、少なくとも…先生の店よりかは…」

「なんだって?」

「なんでもないよ、早く行こうよ。」


 不満を露にするエラフィンとは対照的にレンリエッタは少し乗り気で店のカウンターへと向かった。無人だったので横のひも付きベルをガラガラ鳴らすと、すぐに店主は現れた。


「アハー!ようこそどうもどうも!お客さーん!」

「うわぁッ!?」


 カウンターの下からニュッと出て来たのは、なんともケバケバしい若い女性のヘルドであった。白と黒のストライプスーツを着込んでおり、額には大きな黒い角が二本…それ以外は肌色も含めて人間らしかったが、あまりにも急な登場にレンリエッタは少し引いてしまった。

 一方でエラフィンは彼女を見て、どこか疑問に思ったような表情を浮かべたが……すぐに顔を戻した。


「本日はどんなご用件~?お薬の売却?それとも贋作をお探しでぇ?」

「が、贋作?違うよぉ……私は薬を売りに来ただけで…」

「あらあら~、こーんなにちっちゃいのに偉いわねぇ~、後ろの人はお母さん?」

「いいや、師匠よ。ところでアンタ、昔の知人にそっくりだけど……別人よね?」

「さ、さぁ~?わたくし、貴女の様な人知りませ~ぬから!」


 どうやらエラフィンは店主が知り合いに似ていたらしく、疑問に思っていたのだが他人の空似らしい。店主は額にバツの悪そうな汗を流していたが、きっと別人だろう。


「ささ!それはそうと、お薬拝見しても…いいでちゅかぁ?」

「う、うん…えっと…ちょっと待ってね…(わたし、この人苦手かも…)」

「むふふん、焦らなくてもオッケィ!」


 レンリエッタは預かっていたポーチから瓶を一本ずつ取り出し、カウンターへ並べ始めた。一本目を置いた瞬間に店主は「痛み止めねぇ~」とすぐに見抜いていた。

 しばらくそうやって一本ずつ並べ、最後の22本目を並べる頃にはレンリエッタはもう汗だくだった。


「これで最後…22本です。」

「ガッチャ~!そんじゃ、22本で…一本当たりの値段を…として…」


 店主は器用にも片手で木製の器具をパチパチと弾き、何やら計算し始めた。おそらく計算器の類なのだろうが、数字も何も書かれていないのでよく分からない。

 しかし店主は少しすると、手を止めてレンリエッタの方を向いた。


「ザッと全部で735ルゾン!ってところかしら。」

「735?うーん…それってどのくらいなのか…」

「ま、妥当な値段ってところよ。この通りにしては随分と良心的じゃないか。」

「むひゅひゅ~、わたくし子供には弱くてねぇ~…ちょうどうちの双子ちゃんも貴女と同じ…いや、ちょっと上くらいなのよ~。」

「そうなんだ。(双子って…まさかね…)」


 双子という言葉を聞きレンリエッタは一抹の疑問を抱いたが、無事に薬を買い取ってもらい、代金の735ルゾンを手に入れた。1ケイルにも満たないが、材料から揃えた自分の薬で得た報酬なので特別な気分だった。

 レンリエッタは忘れずに財布の中へお金を仕舞いこんだ……金貨との共同生活は堅苦しそうだが、小銭くんには頑張ってもらおう。


「ばいなら~!また来てねぇー!」

「は、はい…また来ると思います…さよなら…」

「やっぱりこの通りは変人が多いねぇ…レンリエッタ、妙な奴が居ても関わろうとするんじゃないよ?」

「はーい。それにしても…ひぇ~、やっぱり暑いや…」


 面倒事も無く、取引を終わらせたレンリエッタとエラフィンは広場へと戻る事にした。こんなに暑いのではどこかで涼みたいものだが…


「まぁ、こんな暑さだし…どこかで涼むかい?」

「うん!もちろん!ねぇ、どこ行く?」

「そうだねぇ、やっぱり暑い日はアイスクリームに限るねぇ、パーラーに行こうじゃないか!」

「わーい!アイスクリーム!」


 エラフィンの提案により、氷菓子パーラーへ向かう事となった。レンリエッタにとってアイスクリームはまだまだ知らない味が沢山あるので今日は何を頼もうかとウキウキになってしまう。


 しかし、考える事は皆同じこと……パーラーは客でごった返しとなっていた。やはり皆も暑い日はアイスクリームが食べたくなるものなのだ。

 仕方ないので二人は店の中で食べるのは諦め、テイクアウトする事に。客が多いのでレンリエッタは味の要望を聞かれると、列から外れて近くの日陰で待つようにと言われた。


「やっぱりみんなもアイスクリームかぁ…」


 レンリエッタは日陰に隠れつつ、ジーッと周囲を眺めていると……そこへ一人、いや一匹の子供が近付いて来た。茶色い毛皮が暑くるしい、獣人の子供だった。


「ねぇ、悪いんだけど…ひとつ頼まれてくれない?」

「え?た、頼まれるって…何を?って言うか、あなた誰…?」

「そんなのどうでもいいって!ちょっとの間、このネックレスを預かっててほしいの!」

「ネックレス?…ってうわぁ!?」


 獣人の子は頼まれてくれと言うなり、いきなりレンリエッタの首へネックレスを掛けて来た。キラキラした葉っぱ型の石が特徴的なネックレス…

 驚いて後ずさるのも束の間、獣人はレンリエッタの被っていた帽子を奪うと自分で被り、にへにへと笑った。

 気味が悪い…


「あ、あの…何を…?」

「いやー!ごめんね!悪いんだけど、ボクの身代わりになってよ!」

「は?身代わり!?それって…うぎゃ!?」


 すると次の瞬間、目の前の子供はドロンッと煙に包まれたかと思いきや……驚くことにレンリエッタの前にもう一人のレンリエッタが現れた。服装も同じなので鏡を見ているかのようだ…唯一の違いとしてはネックレスをしているのと、帽子を被っているというものだけ…

 驚くべき光景にレンリエッタは目を皿にした。


「え?え!?なに!?なんで!?どうやって…?」

「あはははは!そんじゃ、後はよろしくねー!」

「あぁちょっと待ってよ!帽子返してよ!それにこのネックレス…!」


 そして化けた方のレンリエッタはよろしくとだけ伝えると、足早にその場から立ち去ってしまった。

 帽子を奪われてしまい、その上よく分からないネックレスを押し付けられてしまったレンリエッタはしばらく唖然としたまま立ち去る彼女の後姿を眺めた…


「……な、なにあの子……どうしよう、帽子…それにこのネックレス…意味が分からないよ…」


 レンリエッタは今しがた起きた出来事を理解できず、何度も頭を抱えた。

 しかし悩んでいるばかりではどうしようもないので、ひとまずエラフィンを待とうと決めた。きっと凄腕魔法使いのエラフィン先生なら何とかしてくれるだろう…


 しかし、エラフィンを待っていると…突如として謎の存在が後ろからレンリエッタの腕をガッシリと掴んだ!


「うわぁあ!?」

「まったく!ようやく見つけた!女の子に化けるなんて…!」

「えぇ!?だ、誰!?」


 腕を掴んで来たのはまたしても獣人だった。しかし今度は大人だ、妙な装束を着込んだ黄色い毛のキツネ顔の獣人がレンリエッタの腕を掴んでいたのだ。

 もちろん抵抗するものの…大人の力には敵わない…


「ちょっと待って!私は…!」

「もうその手には乗りませんからね!さぁ一緒に来なさい!」

「違う違う違う!わ、私は違うからー!さっきの…」

「あぁもう!少しは黙りなさいな!チャルフィック!」

「んぐむっ!?むぐぐぐー!!」


 キツネが【チャルフィック】と呪文を唱えると、瞬く間にレンリエッタの口は糊でくっ付けたように開かなくなってしまった。必死にエラフィンへ助けを求めたが、むぐむぐと言葉が出ず、レンリエッタはされるがままに引きずられて行く…

 その間にもキツネは言い聞かせるように話した。


「まったく…今回で3回目…もういい加減に堪忍して!先生だって授業があるのよ!」

「ぐむむむ!!んー!!(せ、先生?)」

「すぐに終わるから平気よ、全然痛くないから!」

「(い、痛くない…?まさか…)」


「予防接種なんてあっという間よ!さぁ行くわよ!!」

「(予防接種!?イヤーッ!!)ぐぐぐむむーッ!!んぐぐぐ!!」


 予防接種と聞き、レンリエッタは全力の限りで抵抗し始めた。注射には苦い思い出がたくさんあるのだ。

 皮膚が普通の人間より頑丈なので、とびきり大きな針を刺された事があったし、採血の時なんかは腕の悪い看護師に当たって悲惨な目に遭ったのだ…二度と注射などしてなるものか!

 しかしながら、そんな思いっきりの反抗も虚しく…慣れたようにキツネ先生はレンリエッタを肩に抱えると、どしどし歩いて行くではないか…


「むごーっ!!」

「あぁもう!暴れないッ!ちゃんと我慢出来たらケーキを買ってあげるからね!」

「んぐ………ぐむーッ!!」

「まったくもう!」


 ケーキと聞いてレンリエッタは一瞬気を許したが、すぐに己を取り戻して抵抗を再開した。しかし、やはり敵う事もなく…肩に担がれたまま運ばれて行く…


 しばらくして、レンリエッタが連れて行かれた先は大きな建物だった。レンガ張りの外観はどこか威圧感を醸し出し、天井の方はガラスのドーム状となっている…

 そして建物の前には白いシャツに黒いズボンやスカートをはいた少年少女が数人…ガヤガヤと聞こえて来る話し声たち…レンリエッタが確信せずとも、その答えは入り口上部の重厚な金属板に記されていた。

 『マクスロッド魔法学校』……此処こそ、エラフィンが少し前に話していた魔法学校だった。レンリエッタは思わず心を躍らせてしまった。


「(えー!!学校!?ど、どうしよう…ちょっと楽しみかも…)」

「さーて!医務室で先生が待ってるわよ!」

「(って!そんな事言ってる場合じゃないよ!)んぐぐぐ!!」

「あぁもう!また暴れて…観念しなさい!」


 だが注射が待っているとなれば、そんなワクワクも消え失せて焦りがやって来る。レンリエッタがバタバタと暴れ、それを宥める教師の姿を見て、周囲の生徒達はくすくすと笑っていた。


「ねぇ見て、クリッツってばまたウビィ先生に運ばれてるわよ。」

「まったく…毎回懲りない奴だよなぁ。」

「あはははは!今回はニンゲンみたいな女の子に変身してるー!」

「ほーら!みんなに笑われてるわよ!もう抵抗は止めなさい!」

「(違うのに!私は違うのにぃ…!)」


 レンリエッタは生徒達に笑われるという屈辱感をじわじわと味わいながら、学校の廊下を運ばれた。どうやら話を聞く限り教師の名はウビィというらしく、注射を押し付けて来たのはクリッツという生徒らしい。

 こんな事になるなんて今日はとんでもない厄日である……そんな風に考えていても、着々と注射は近付いているのだ。


「むんぐぐー!!」

「こらこら!暴れちゃダメだって!もうすぐよ…」

「んぐぐー!!……ぐむッ!?(あ、あれは…!)」


「でね、CWPで偶然レンリエッタと…」

「そうなんだ、へぇ~…」


 その時だった、道行く生徒の中にレンリエッタは見慣れた顔を二人発見した。特徴的な左右非対称の角…イカサマ商売双子のコギアとミミクだ!

 レンリエッタは藁にも縋る思いで必死に喚いて暴れ、彼女等に存在をアピールした。


「んぐぐむむむぐー!!ぐむむ!!」

「あぁもう!!なにをそんなに暴れて…こらッ!」


「…うん?あ!見てよミミク、レンリエッタがウビィ先生に連れて行かれてるよ。……うん?…レンリエッタッ!!?」

「な、なんでこんなところに…?」

「なんかよく分かんないけど…とりあえず助けないと!」

「う、うん…!」


 必死のアピールに、二人はきちんとレンリエッタの存在に気付いてくれた。

 慌ててコギアとミミクはウビィの下へと走って行き、彼女を止めた。


「せんせ!ウビィ先生!ちょっと待って!」

「はん?何か用かしら、今はちょっと忙しいから後で…」

「違う違う!その子!レンリエッタでしょ!何してるの!?」

「先生…レンリエッタをどうするつもりなんです…?」

「え?レンリエッタ?この子はクリッツでしょ?ネックレスだってしてるし…」


 さすがの教師も生徒に制止されたとなれば止まらざるを得なくなり、医務室の前でどうにかレンリエッタは一旦解放された。今のレンリエッタにとってこの双子は神の遣わした使者と言っても過言ではないくらいに頼もしく思えた…


「むぐぐ!ぐむんむむむ!」

「先生、とりあえずレンリエッタの口を開放してあげて…」

「う、うーん……そんなに言うなら…」

「ぶはぁっ!はぁー!はぁー!!二人とも…ありがとう!!ホントにありがとう!!」

「あぁやっぱり!この情けない声はレンリエッタじゃん!先生、この子クリッツじゃないよ!」

「なんですって!?」


 レンリエッタはようやく口を開放してもらうと、真っ先に二人へ感謝の言葉を絞り出した。情けないくらいの震え声とヨレヨレとした表情から、二人はすぐにレンリエッタを本物と認識してくれた。

 ウビィ先生は「え?え?」とキョロキョロしながら慌てている…


「もしクリッツなら変身解除呪文で変身が解けると思いますよ。」

「それもそうね……どれ…シガン!!」

「……?」


 ウビィは【シガン】の魔法を唱えると、キラリッとした光がレンリエッタを包んだが……特に何も変化は起きない。するとキョトンとした顔を浮かべるレンリエッタとは裏腹に教師はめちゃくちゃに焦った顔を浮かべて言った。


「あぁなんてこと!!この子、クリッツじゃないわ!」

「だから言ったじゃん!違うって!何度もぉ!」

「あーあ!どうすんの先生…クリッツと間違えてレンリエッタ連れて来ちゃって…」

「本当にごめんなさい…あぁどうしましょう!本物のあの子はどこに…!」


「悪ガキをお探しなら此処に居るよ、飛んだ悪い子がね!」

「あッ!先生ー!」


 その時だった、レンリエッタ達の下へエラフィンが現れた。その片手には変身が解かれた獣人の子…もとい、クリッツが悔しそうな顔で担がれていた。

 あまりにも周囲の視線を集めていたが、エラフィンは気にすることなくドスンッとクリッツを床へと落とした。


「ぐえー!ウ、ウビィ先生ぇ~…」

「あぁクリッツ!」

「まったく…人の弟子に化けるとは良い度胸してるじゃないか…だが腕は良いが振舞いに問題があるね。バレバレだったよ。」


 こんな状況でレンリエッタはどうすれば良いのか分からなかった。安心すれば良いのか、驚けば良いのか、それとも学校に目を輝かせるべきか……だが、とりあえずレンリエッタはエラフィンの下へと向かい、彼女から帽子を受け取ると、ネックレスをウビィ先生へ返した。


「まったく!!人にネックレスを押し付けるなんて!」

「ご、ごめんなさいぃ~…うぅうう…」

「先生、ありがとう…私もうちょっとで予防接種されちゃうところだったよ…」

「なんだって?予防接種?……もうちょっと遅く来れば良かったかもねぇ…」

「んもう!!何言ってんの!!」

「あはははは!冗談よ、冗談…」


「あぁ~…ミミク、もしかして私達って…」

「うん、完全に蚊帳の外だね。授業に遅れちゃうし、早く行こうよ。」


 というわけで全て収まって大団円…クリッツは医務室へ強制連行され、いたーい予防接種を受けることになり、レンリエッタとエラフィンは騒動を聞き付けた校長先生により、部屋へと通されることになった。

 ひょんなことから学校へとやって来たレンリエッタ……初めて目にする魔法学校は不思議に満ちているが…果たして、一体どのような出来事が待ち受けているのだろうか…


つづく…

今回のワンポイント


【獣人族について】

著:アビゲイル・シンロード(種族学者)

『ヘルド族の中でも特に異質とされるのが獣人と呼ばれるビーストヘルド族である。彼らの詳しい出自については現在も謎に包まれているが、一説によれば君帝戦争末期に種の上立者【クエンディル・アラナスト】が私兵として生み出したという説が有力である。ビーストヘルド族の主な特徴は動物型の頭部、全身に毛皮を持ち、四肢の構造が特異である点が挙げられる。種類は大きく分けてイヌ型、ネコ型、ネズミ型の3つであるが、その他にも少数ながらイノシシ型やクマ型も存在する。なお竜人族および蛇族とは明確に違う種である。彼らが歩んだ歴史というのは決して光に満ちたものではなく、差別と暴力に溢れたものであった。ビーストヘルド族は非種族差別を受け、クランクス王国を含む数多の国で基本的な権利を持つことが出来ず、半ば奴隷も同然の扱いを受けていたのだ。ホーンヘルド族に比べて魔法の才能が低く、体力は勝るものの、平均知能が低い事も差別意識に拍車を掛けていた。現在でこそ表立った差別は無いものの、潜在的に忌避意識を持つ者は存在しているのだ。なお魔法の才能は低いとされるが、一部の種族のみ偏った魔法に超越した才を持つ者が現れる事もあり、歴代のROWメンバーにも獣人が在籍していたこともあった。』

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