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第21話『R.O.W〈ロイヤル・ワンズ・ウィザード〉』

 古代悪魔のベータボリスとダンプリングに関する問題を片付けたレンリエッタは一晩が経っても未だ拭えない疑問をひしひしと感じていた。ベータボリスを捕まえた時に杖から飛び出た糸…あれは紛れもなく糸魔法だろうが、なぜ使えたのか……どれだけ考えてもまるで分らなかった。

 なのでレンリエッタは出来るだけ忘れようとしながら朝の支度を終え、キッチンへ向かうとグリスがデイリーオウルズ新聞を眺めつつ、こちらへ挨拶をした。

 …エラフィンはまだ起きていない様だ。


「おはようございますお嬢様。さっそく昨日の事が新聞に載っておりますよ。」

「え?み、見せて…」

「どうぞ」


 どうやら早速昨日の事が新聞に載ったらしく、レンリエッタが借りた新聞に目を通すと見出しに『小説家ダンプリング氏の洗脳事件』と大きく書かれていた。

 レンリエッタは記事の内容に目を向けた。


『ヘリ―クッツーシリーズで知られる小説家ダンプリング氏の魔本による洗脳事件は二流街を中心に大きな被害を出した事で現在も捜査が続いている。王直魔法捜査組織〈霧籠の魔法使い〉の団長クライラ氏は今回の事件について古代悪魔の関与があったと発表しました。しかし既に悪魔は同組織のファロ大佐によって始末され、現在はダンプリング氏に対する詳しい取り調べと魔本の処分を中心に動いているとの事です。なお対象となる本はヘリ―クッツーシリーズの…』


「な、なにこれ……」

「どうやら悪魔の討伐は彼らの手柄として取られてしまった様ですね…」


 レンリエッタは新聞を読んで唖然とした。昨日はクソの役にも立たなかった霧籠の魔法使いがベータボリスの討伐実績を取り、あたかも熱心に捜査しているかのように書いてあるではないか。

 ダンプリングの罪状はまだ決まっていない様だが、今のところは大丈夫そうだ。しかし本は処分となり、二流街の書店や家庭から回収しているらしい。


「しかし我々も公になれるような人物ではないので、ある意味良かったと言えるかもしれませんね。」

「たしかに……でもなんだかなぁ…」

「さぁ、嫌な事は忘れて朝食にしましょう。今朝は何かご要望でもありますか?」

「うーん…じゃ、目玉焼きが良いな。」

「承知しました。目玉焼きと…あとはベーコンを焼きましょうか。」


 とは言え、レンリエッタ達は公に出せるような身分でも無いし名乗らず去ったので、こうなるが妥当だろう。少なくともダンプリングとジョシュは口外しないでくれた様だ。

 という事で気分を変え、朝食を待つ間レンリエッタは新聞を引き続き眺めた。

 やはり多くがダンプリング絡みの記事だったが、『サタン飛竜園でメリブラック種の人工孵化に成功』や『飛行杖アマチュアレースが開催』など興味深いものも見られた。


 それから少しして、ベーコンを焼く香ばしい匂いがキッチンに漂い始めた頃になってようやくエラフィンが姿を現わした。相変わらずアイボリー色の髪の毛を豪快に荒れさせ、ひどく疲れている様に椅子へ座り込んだ。


「お、おはよう…先生…」

「おはようございますエラフィン様。今朝はベーコンと目玉焼きですがよろしいですか?」

「…ん゛~…」


 やる気を全く感じられない返事にレンリエッタはいつもより元気が無いと察した。昨日の疲れが来たのだろうか、それともミシェンのように不機嫌になる期間があるのだろうか…

 とりあえずレンリエッタは刺激し過ぎないようにそっと新聞を渡したが、エラフィンはそれに目を通すと不機嫌の極みを体現した様な渋い顔になった。


「くっ……アイツ等め…手柄を全部取って行きやがったね…!」

「もし先生が名乗り出たら新聞に載ってたの?」

「そりゃ……いや、無いね。きっとどーのこーの言われて同じようになってたさ…だが腹が立つねぇ…」

「腹を立てるばかりではいけませんよ、まずは朝食でも摂って落ち着きましょう。」

「ふん、奴等と来ればいつも手柄を…」


 エラフィンはブツブツと文句を言いながらも髪の毛をブラシで梳かしつつ、念力魔法でポットを浮かばせると水を入れて火にかけ、コーヒーを作り始めた。もはや見慣れてしまった光景なのでレンリエッタは特に気に留めず、人数分の皿とカップを用意した…きちんと三人分、ちゃんとある。

 三人で朝食を摂るなんて此処に来てからは普通になったが、かつての生活を思い出せば実に幸せな事だった。

 ちなみに朝食を前にしたエラフィンは脂っこいベーコンを見てウッと顔をしかめていた…中年になると油ものはキツイのだろう。


「そう言えば……悪魔を捕まえた時に私の杖から出たのって糸魔法なの?」

「もちろんそうさ、ありゃ糸魔法に違いない。ほんと大したもんさ、知らずに使うんだから…」

「早くも才が出て来て私は嬉しい限りです…お嬢様はきちんと旦那様から魔法の才能を引き継いでいたのですね。」


 とびきり厚いベーコンをナイフで切り分けながら、レンリエッタは自身が使用した魔法が本当に糸魔法だったのか改めて聞いた。するとやはりエラフィンは違いないと断定して来たので、間違いないらしい。

 だがそれでは増々信じられなくなった。本によれば糸魔法の習得難度は数ある魔法の中でも高い部類なのだ。

 それを何も知らない、さらには自分のような若輩者が使えるなんて……やはり納得がいかない。


「うーん…でもなぁ…」

「土壇場で魔力が覚醒するのはよくある事さ、魔法は感情でも発動するんだから。」

「感情?それって嬉しかったり悲しかったりする?」

「ええそうよ。喜怒哀楽、その他にも信念や決心…あるいは禁欲なんかも魔法に大きく影響を与えるの。」


 エラフィンはレンリエッタに秘められた魔力があの場で覚醒したと考えた。魔力は生物に宿る生命エネルギーであり、それは感情や心によって大きく左右されるのだ…それは好い方向にも、当然悪い方向にも。


 有名な話に『雷の復讐者ガロス』の言い伝えがある。かつて平和な村で農民として生活していたガロス・オンデマンドは魔法など全然使えない若者だったが…ある日彼の妻が賊に殺された事で魔力が爆発的に強化されたのだ。深い絶望と共に復讐に燃えたガロスはそれまではまるで扱えなかった多種多様な電撃魔法の才を発揮して、賊とその一団、果てにはその家族までもが雷の餌食となった…

 しかし復讐を終えたガロスは途端に魔力を失い、そのまま力尽きてしまうのだった…


 この話は長きにわたって今も語り継がれている。感情と己の信念によって魔法は覚醒するが、それが失われた時……力が二度と戻る事は無いのだ…

 そしてこれらの現象は纏めて『感情爆発』と呼ばれる。


「へぇ~……じゃあ私は…捕まえたいからって決心したから糸魔法が使えたの?」

「うーん、どうだろうねぇ…糸魔法を使った時、何か感じなかったかい?」

「感じるって何を?」

「たとえば物凄い高揚感だとか、バーンッて爆発するような何かさ…」

「ううん、全然。」


 レンリエッタは思い返してみたが、特にそのような事は感じなかったはずだ。感じたとしても、それは魔法使ったという事実に対する唖然とした感情だ。

 少なくともエラフィンの言うような強いものは無かった…


「……ま、難しい事は後にしようじゃないの。」

「お嬢様、朝食が冷めてしまいますのでお早くにお召し上がりを…」

「うん…そうだよね。」


 結局、これ以上考えても仕方がないのでレンリエッタは糸魔法について一旦忘れることにした。それにせっかくのベーコンエッグを冷ましてしまうのは、これ以上ないくらいに愚かな事だろう。


 朝食を済ませ、軽いコーヒーブレイクも経てレンリエッタとエラフィンはいつものように広間へとやって来た。

 雑誌片手にソファへドカッと座るエラフィンへレンリエッタは(気持ち悪い)猫撫で声で話しかけた。


「ねぇ先生~?」

「ぅーん?なんだい気色悪い声出しちゃって、ベーコンが胃に当たったのかい」

「違うよ。ほら私って…もうムーキスを使いこなせるようになったでしょ?見ててよ。」


 レンリエッタは練習用の紙をビリッと二つに破り、テーブルに置くと杖を取り出して構えた。


「ムーキス!」


 そしてムーキスの呪文を唱えると、紙はググッと動いたかと思うとピッタリくっ付いて一枚の紙に戻った。この数日間でレンリエッタはムーキスを会得したと呼べるくらいには上達したのだ。

 その様子を見てエラフィンは特に驚きはしなかったが、軽く言った。


「凄いじゃないか。よくやってるね。」

「でしょでしょ?だからさぁ…その、そろそろさぁ…」

「そろそろなんだい?」

「…新しい呪文を教えてほしいなって!」


 レンリエッタはムーキスを上達したので次の呪文を教えてほしかったのだ。この数日間で行った(ダンプリングに関する事を除けば)魔法使いらしい事と言えば、ひたすらに紙を破いてくっ付けるの繰り返しだけ…なのでもう次の段階に行きたかった。

 それを聞いたエラフィンは少し考え…


「うーん…たしかに、これから魔法を積極的に使う事は多くなるだろうねぇ。」

「そうだよ。もしかしたら凄く悪い人に襲われるかも…」

「ははん!そうなったらアタシが守るだけさ、でも最低限護身用の魔法は使えるようにした方が良いねぇ…杖に魔力を込めるやり方じゃいつまで経っても上達はしないだろうし…」


 良い方向に物事が進んでいるのを察して、レンリエッタは内心でウキウキと心を弾ませた。次は何を教えてくれるのだろうか、炎を噴き出す魔法?雷を降らす魔法?全てを凍らせる魔法も面白そうだが…

 エラフィンは『うーむ』や『ふむふむ』と雑誌を読みながら考えていると……突如としてピーンと来たように顔を強張らせた…

 きっとすごい魔法を教えてくれるに違いない!そう思ったレンリエッタだったが…


「あぁーーーっ!!大変だ!!」

「うぇえ!?ど、どうしたの急に先生…何が大変なの…?」

「あぁなんてこった…すっかり忘れちまってたよ…だけど……あぁ!」


 しかし、様子を見るに違うらしい。

 エラフィンはせわしなく立ち上がると『どうしよう』だとか『まずい…』と言って部屋の中をウロチョロし始めた。あのエラフィンが慌てているとなれば、それなりの事態なのだろうとレンリエッタは冷や汗を垂らした。

 だがまずは何が起きているのか確認するため、左右に歩き回る彼女を止めて聞いてみる事に…


「先生!大丈夫?何があったの…?何を忘れてたの…」

「会合だよ……R.O.Wの会合があったのを思い出したのさ!それも今日!」

「ろ、う?それってなに…?」

「ロイヤル・ワンズ・ウィザードの略さ!つまり王宮魔術師たちが集まってくだらん話をするのが今日だってのをたった今思い出したのよ!」

「えぇー!?」


 レンリエッタは愕然とした。

 なんと王宮魔術師達の会合が今日だと言うではないか…持つ肩書の中では唯一職業と呼べるものを疎かにするとはなんともアレだが、そんな大事な用時ならば行かなければならないのだが…

 エラフィンにそんな気は無いらしい。


「は、早く行かないと!大事なことなんでしょ!?」

「いいや!絶対に行きたくないんだ……あんなクソッタレ共が集まる所なんて…うぅ!考えるだけ吐き気がする…」

「そこまで言わなくても…でも行かないと駄目なんでしょ?」

「まぁね…無断欠席はめちゃくちゃ怒られるんだ…しかも王に…」

「それは…キツイね…」


 当たり前だが王国嫌いなエラフィンは王宮魔術師という肩書も、それを持つ他の連中も嫌いなので会合には行きたくないと駄々をこね始めた。だが無断欠席は王に怒られる…もっとも、怒られるだけで済めばの話だが…

 あのエラフィンが葛藤するあたり、結構怖いのかもしれない。


「困った…うーん…せめて代わりに行ってくれるやつが欲しいんだけどねぇ…」

「……まさか私に行けなんて言わないよね?」

「おお!レンリエッタ!アンタは…いや、だめだ…アンタをあんな所へは行かせられないね…」


 てっきりレンリエッタは『代わりに行って来い』と言われるかと思いきや、そういうわけにもいかない様だ。エラフィンはしばらく考え、悩んでから苦しそうに言った。


「…レンリエッタ……代わりに行って来てくれる?」

「え、えぇ…無理だよ私なんて……王宮魔術師と話をするなんて…」

「いいや、アンタは居るだけで良いんだ、どうせ奴等の話なんて私にとっちゃ虫の羽音みたいなもんだから……けど、もしレンが行けば…あ、あいつと会う事になっちまう…」

「あいつって?」

「……ファンクスモントの当主さ…あいつも王宮魔術師なんだ…」

「えっ…」


 ファンクスモントの名を聞いてレンリエッタは思わず固まった。その名を耳にすれば、嫌な感情が次から次へと沸き起こる…

 ファンクスモントはレンリエッタの家族を殺して王に忠誠を誓った奴らなのだ。

 エラフィンはレンリエッタと彼を会わせたくないが故に苦しくてたまらないのだ……しかし、だったら自分で行けよなんて言い返す度胸も無かった…


「リグドールス・ファンクスモント…アイツとは犬猿の中でね……しかもそれだけじゃない…あいつも居る…!」

「まだ居るの?どんな人なの…?」

「……ク、クライラさ…」

「クライラ?それってたしか今朝の新聞に載ってた…」


 しかも会わせたくないのは一人のみならず、もうひとり居るらしい。

 その人物の名はクライラと言うらしいが……その名を聞いて、レンリエッタは今朝の新聞を思い出した。その名が載っていたはずだ、霧籠の魔法使いの団長として…


「クライラは霧籠の魔法使いの団長だ、つまりトップ…しかも私が嫌いで、それに…うぅうう…それに…!」

「そ、それに…?」

「いうよ……はぁ……私の双子の妹なんだ!…あぁ!言っちまった!」


 そう言ったエラフィンはブルブルと震えながら、重く息を吐いた。

 クライラ…本名はクライラ・ファングステン…つまりエラフィンの双子の妹である。

 それを聞いたレンリエッタはどうすれば良いか、いまいち反応に困ったが…真っ先に出た言葉は感想だった…


「い、居たんだ…妹…」

「居たさ。かなり昔に絶縁したけどね…」

「なんで絶縁しちゃったの…」

「アイツは昔から私の才能を僻んでてね、事あるごとに私を貶めようとしたのさ。まぁ上手くいったことは無かったけど…」


 曰く、クライラは昔からエラフィンの魔法の才能を恨めしそうにしていたらしく、若い頃は頻繁に潰し合いをしていたらしい。昔から喧嘩ばかり、今でも数年に一度…会ってはもちろん喧嘩ばかりしているとのこと。

 絶縁したとは言っているが、あくまでもエラフィンがそう言っているだけで相手は全く知らない様だ。…密かにレンリエッタはベリーとメルキンを想像して『アレも絶縁してくれればなぁ』と思った。


「つまりリグドールスっていう人と、そのクライラっていう人に私を会わせたくないんだよね?」

「ああそうさ…それ以外の奴らはまぁ……うん、特に無いね。私の事を嫌ってはいるだろうけど。」

「他の……ねぇ、王宮魔術師は全部で何人居るの?」

「今は私を入れて7人…時代によって違う、歴代最少は3人で最大は12人だったかしら…そんで、みんな異名を持ってるのさ。」


 現在の王宮魔術師は全部で7人。『最上級魔術師』の称号を持つ者から王が直々に選んで抜擢するのだが、欠けては補充…というものでは無いのでその人数は安定しない。

 そしてエラフィンを含めて全員異名を持つ…普通は【上立言語聖書】という古代聖書から選ぶのだが、そうでない時もある…なんだか、いい加減である…


「先生の異名は?」

「私はズバリ、暴力の魔術師…ってやつさ。実は気に入ってるよ、私らしいだろう?」

「うん…たしかに、暴力って感じがよく似合うよ…他には?」

「リグドールスのクソ虫は静寂の魔術師、クライラは無情の魔術師さ…他には探求だとか、叡智だとか…あと黄金ってのもあったねぇ…」


 エラフィンの異名は『暴力』の魔術師。リグドールスは『静寂』そしてクライラは『無情』だ。

 他には『叡智』、『探求』、『生命』、『黄金』が今のラインナップである。この中で一番最初に消える確率が高いのはもちろん暴力だ、なんたって何度目か分からない無断欠席寸前なのだから。


「それで……ど、どうだい?」

「えぇ~?どうしようかなぁ……行ったら、なんか良い事ある?」

「よしよしスペシャルをしてやるよ。それに新しい魔法も教えてやるさ!」

「ええ!ホントに!?やるやる!!」


 前者はともかく、新しい魔法と聞けば二つ返事以外にする事は無い。レンリエッタは目を輝かせながら頼みを承諾した。

 となれば、そのままGO!というわけにもいかないので、二人は身を隠すための準備を始めた。もちろんグリスには黙って行く事になる…その点は少しだけ気が引けるが、レンリエッタの気持ちに変わりはない。


「当然だけど正体を奴等に知られるとマズイ…特にリグドールスに対してはね…表面上、ヘイルホーン家は断絶した事になってるの。」

「でもレンリエッタっていう名前は大丈夫だよね?」

「まぁ大丈夫だろうね…けどあんまり言いふらしたりするんじゃないよ。それと人間だって事もだ、もし何か聞かれたらフィンクルランド生まれだと言っときな。」

「フィンクルランド?それってどんなところ?」

「気にしなくて良いさ、ただの片田舎よ」


 まずレンリエッタを含むヘイルホーン家の者は全員死亡した事になっているので正体を知られると厄介どころでは無いので身分を隠す必要がある…しかしレンリエッタという名を持っているのでその点は大丈夫だろう。

 またエラフィンの弟子という身分で行くことになるが、もしも生まれを聞かれた際は『フィンクルランド』生まれと名乗るようにとエラフィンは言った。フィンクルランドというのは語るも寂しい片田舎なので、誰も捜索しようとはしないだろう。


「念のため顔を隠した方が良いね…そうだ、たしか昔使ってた頭巾があったね…」

「そこまでする必要あるかな…」

「念には念を入れるべきさ!アンタの顔は母親そっくりだからね、もしもの場合に察しが付いたらマズイだろう?」

「そっかぁ…」


 次にレンリエッタは顔を隠すために白い口布付きの頭巾が与えられた。

 エラフィンが昔、蛇人間の姿になってしまった時に使用していたものだが、現在は隠さず堂々としているので不要になったものだ。被ると香草の独特な匂いがして、なんとも気分を削いでくる…

 レンリエッタは今すぐこの頭巾を脱いで洗濯したくなったが、そんな暇も無かった。


「うぇえ~…この匂い…ちょっときついよ…」

「悪いが魔法除けが付いてるせいで臭い取り呪文が使えないんだ、我慢しとくれ」

「ハァ~」


 それと念のため、レンリエッタは(ちょっと緩い)白い修道着も渡された。こっちもこっちでかなり変な匂いがしたが、幸いにも匂い消し呪文のおかげ匂いは取れた。

 二つとも身に着ければ、立派な教徒だ。付け角をしなくとも、これで人間だと察せられる事は無いだろう…たぶん。

 エラフィンがふむふむと頷きながらその様を眺めていると、グリスが都合悪く部屋へとやって来た。


「何やら騒がしいので来てみましたが…何をしてらっしゃるのですか?なぜお嬢様は上立信仰教団の服を着てらっしゃるのですか?」

「えーぇっと…グリス、これは…」

「昔の服が出て来てね、せっかくだからレンに着せてやってたのさ。」

「そうそう…先生が着せて来たの…」

「なるほど、そうでしたか…しかし意外ですね…エラフィン様が宗教家だとは…」

「まぁ昔は色々な事に挑戦してたからねぇ…」


 疑問に思うグリスを、エラフィンは上手く言い包める事に成功した。

 そしてレンリエッタは少しばかり姿見の前でくるくると回りながら己の姿を見ては「こういう道もあったのかなぁ」と少し複雑な気分になった。昔は宗教に興味は無かったが、こちらの世界のものとなれば少しだけ興味も出て来る…


「さぁーてっと……レンリエッタ、ちょっとばかり外へ出掛けようじゃないか。」

「えっと、うん…」

「おや、どちらへ向かわれるのですか?」

「あぁーっと…そうだね、毎日毎日サタニズム街じゃ飽きるだろうし…ちょっとばかり海に行って来るよ。」


 もうそろそろ時間もヤバいので、エラフィンはレンリエッタを送りに街まで飛ぶことにした。グリスには悪いが嘘をついて海に行くと言って出るので、レンリエッタはちょっと心が痛くなった。

 何も知らないグリスは「お気を付けて」と言い、二人を見送るのだった…


 ビュンッと風を切りながら杖で飛ぶ道中、エラフィンはレンリエッタに一枚の封筒を渡した。少し前にレンリエッタが姿の見えない郵便屋から受け取った手紙だった。


「よしレンリエッタ、城に入る時や何か疑われた時はこの封筒を見せて私の使いだと言うんだ。」

「うん…分かった……はぁ、緊張して来たなぁ…」

「大丈夫だよ、どうせ大した事じゃ無いし…まぁ王には会うだろうけど、アイツもそんなにイヤな奴じゃないよ、少なくともアンタに対してはね…」

「そ、そっかぁ…王様にも会うんだ…」


 王宮魔術師の会合となれば、当然ながら王にも会う事になるのだ。

 クランクス王国を束ねる現王…その名をウェルアイム……レンリエッタは余計にドギマギと胸の中で緊張の糸を編みながら、風に吹かれて街へと向かうのだった…


つづく…

今回のワンポイント


【ロイヤル・ワンズ・ウィザード】

『通称ROWとも呼ばれる王宮魔術師達の事である。なおこの肩書が使用されるのはクランクス王国のみならず、その他魔法武装国においても使用される。彼らは王が直々に選んだ選りすぐりの魔術師であり、一般的に国の有事に魔法特務員として活動する他、王より個人的な依頼を引き受ける事もある。任命候補の最低条件として『最上級魔術師』の称号を得る必要があるため、生半可な者は同列に立つ事すらも許されないのだ。また魔術師たちはそれぞれで異名を持っている。現在のメンバーは『暴力』『叡智』『探求』『静寂』『無情』『生命』『黄金』の7人…彼等は普段、互いに干渉しあう事は殆どない。ちなみに今まで最多のROWメンバーを輩出した家系はファンクスモント家の11人であり、その次に多いのがヘイルホーン家の7人、そしてカースマン家の5人である。』

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