四話 旧家
第四話です。
子どもの頃、実家は江戸時代に建てたっていう古民家でした。二階建てでお手伝いさんという住み込みのオバサンが二人いた大きな家で、一階に一部屋、二階に二部屋の開かずの間もありました。でも、生まれたときから慣れていましたので、開かずの間くらいは別に恐くもなんともありませんでした。
当時はなんとも思っていませんでしたが、古い家なりの怪奇現象は沢山ありました。
一階の表座敷という大きな和室の天上近くにはダイジングウサマという大きな神棚があったのですが、年に何度か夜になるとネコみたいな軽い動物が家中を走り回る音がする夜があって、翌朝になると床やテーブルの上などに人型の10センチくらいの白い足跡がびっしり付いていて、その足跡を追っていくとダイジングウサマの神棚に続いているという事が年に何度もありました。家族もみんな慣れていて「ああ、またダイジングウサマが降りてきたなぁ」なんて言って笑っていましたが。
また、その家のトイレは渡り廊下を渡った先の別棟、トイレだけの建物があったのですが、たまに渡り廊下の先とトイレの建物が深い霧に覆われている事があって、建物に入るといきなり黒い人影が立っている事がありました。これも慣れていたので別に夜に行っても「うわぁ、またいるよ」くらいにしか思わず、子どもの頃にはわざとその影を突っ切ってトイレに入って行く事さえありました。
さらに、その家の風呂場は広いタイル貼りで土間から薪で湯を沸かすタイプの風呂だったのですが、風呂に入っていると風呂の底を爪でカリカリする音が聞こえて来ることがありました。ある晩、父と風呂に入っているときにその音が聞こえてきて、なかなか止まなかったので父が「うるせえなぁ」と言って風呂の底を拳でゴンっと叩いたら風呂の底の下からハッキリとオッサンの声で「おーう!」と聞こえて、父も私も慌てて風呂から出た事がありました。その時も別に恐くはなく、父と一緒に「風呂釜の神さんが怒った」と言って二人で大笑いしたのを覚えています。
もう30年くらい前に家を建て替え、新しい家ではそういった現象は全く起きなくなりました。
ちなみに、家を建て替える際、以前の家を取り壊した時に、例の開かずの間が崩れたときに大量の日本刀が崩れ出てきました。戦時中、私の曾祖父の代に金属が国に没収されてしまうのを拒んだ近隣の人達が家宝だかなんだかの日本刀を我が家の納戸に隠し入れて、その部屋を封じたのだろうとのことで、その秘密は祖父にも知らされておらず知らなかったとのこと。その時出てきた大量の日本刀はどれもサビが深く美術品としての価値は最早無さそうだったので、祖父が適当に磨いでナタや竹切り等の農機具として生涯愛用していました。
第四話