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十七話 赤いバッグ

第十七話です。

数年前、段ボールに入った小綺麗な赤い皮のトートバッグが私宛に宅急便で届いたことがありました。

差出人も聞き覚えのない人。当然というか、私は詐欺にでも引っ掛かったと思い暗い気持ちになりました。

そんな段ボール箱を開ける事にも少し悩みましたが、箱の重さからしてもカラのトートバックには間違いなさそうだったし、差出人が同じ市内の住所を手書きでキチンと書いていたので、私はその箱を開けてみました。

すると、おそらく赤いバッグらしき物を包んでいるのであろう赤色が透けた大判のプチプチがあり、その上に一通の白い封筒が置いてありました。

状況がまだ飲み込めないままにも、私はとりあえずその封筒を手に取って中にあるであろう便箋を探っていました。

封筒から出てきた便箋は2枚。

『拝啓 お元気でしょうか 。

角田 美樹(仮名)です。覚えていますでしょうか。

高校のとき、ノブ君(仮名)の家に泊まったとき、帰るときにノブ君のお母さんが貸してくれたバッグ、ずっと返しに行く機会が無くてごめんなさい。

気が付けば、あれからもう20年も経ってしまいましたね。本当にごめんなさい。

私、この前、乳がんになってしまいました。余命宣告で、あと半年も生きられないと言われ、部屋の片付けをしていたら、このバッグが出てきました。

返すのが遅くなってしまい本当にごめんなさい。

あの日は本当にありがとう。私の人生で一番楽しかった思い出です。

お母さんにもありがとうございましたと伝えてください。』

そう、高校時代と言われればなんとなくその名前を思い出してきて、私はバッグを取り出すよりも先に急いで部屋に行ってクローゼットの奥から高校の卒業アルバムを探し出しました。卒業アルバムを隅々まで見ていくと、確かに彼女の名前がありました。さらにその顔も忘れはしない、当時唯一、話をしていて緊張を感じた異常なほどキレイな同級生だったのでハッキリ思い出しました。

しかし、どれほど思い出してもその角田さんが私の家に泊まったという記憶が私には無いんです。

高校生活の3年の間に、私の家、部屋に泊まった女というのは5人しかいなかったはずです。当時、私の通った高校というのは女子高から男女共学になった初年度だったため、一年の時など全校生徒1,200人に対して男子が7人しかいなかったため、大奥以上のとんでもない状況で、日曜日など多い日には一日に6人と事を済ませた事もありました。毎日がそんな状況下だと当然ひとりひとりとゆっくり高道祖のホテルに入るほど金銭的な余裕も無く、多賀谷城公園のトイレだったり大宝神社の裏山などでサクッと事を済ませて次に行くというのが当たり前な感覚になってきて、例えば土曜の夜に高道祖ホテルに入って一緒にホテルのテレビでめちゃイケを観るくらいの仲になるのが『そこそこお気に入り』の群であり、さらにそこから自宅の自室に泊めるような子は年に2、3人しか出ませんでした。

その5人は時間差を作ったり、私の家に住み着いたり至極苦労した覚えがあるため流石に今でも全員覚えていますが、その中に角田さんがいなかった事だけは確かだと『思っている』んです。さらに、角田さんを抱いた事も無いと記憶しています。

高校の三年の間に、恐らく1,000人以上と関係を持っていると思います。そんなだと睡眠中に、抱いた事の無い人との行為の夢を見るという事も多くなります。多くの女の体を見てきているので、記憶による補完と復元で夢の中での角田さんとの行為が異常なほど鮮明に見えた『記憶』になっているだけだと思っています。

私は、段ボール箱から赤い皮製のトートバックを取り出し、その日の夜にそれを母に見せました。

すると母は『あら懐かしい。これ、もうだいぶ昔にどっかに行っちゃっていくら探しても出てこなかったのよ。どこにあったの?』と言って驚いていました。バッグは確かに母のものでした。

私は少し鎌を掛けて、『これ、誰かに貸してそのまんまになってたりしなかった?』と聞いてみましたが、『えー?貸した? そうだっけ?覚えてないわぁ。』と首を傾げるばかりでした。

令和5年 2月 4日

角田さんが亡くなりました。

第十七話でした。

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