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十四話 石碑一つ

第十四話です。

隣の集落に昔から有名な、今ではググれば幾らでも名前の出る著名な文豪の生家がある。

私は、その文豪の曾孫だか玄孫だかの子孫と同い年で、幼い頃からそいつと一緒に遊んでいました。

いくら文豪の家系とはいえ、当時の子どもの遊びは時代なりにゲームボーイだったり挟み将棋だったり、ごく一般的な普通の子どもの遊びで私たちと一緒に遊んでいました。

ただ、そいつが私たち普通の子どもと何が違っていたかと云えば、そいつは近所でただ一人ゲームボーイのテトリスで毎回あっさりと9-5面をクリア出来る奴だったというくらいで、その他は普通に馬鹿な事を言ってみんなを笑わせたり、用水路に落っこちて泣いたりする普通の子どもでした。

でも、そいつは中学に上がるとテストの成績は毎回学年トップで、私がいつも2番。中学校生活の3年間、全部その順位でゾロ目になったのは学校の創立以来初めての事だと言われたのを覚えています。そいつはそれくらい頭は良かったけど、端から見ても『普通』の面白い奴でした。

しかし、親の方針だか何だか、そいつは地元の県立高校には行かず市外の私立高校に行ってしまい、私は市内の高校に入って同じ高校の連中とバンドなど組んでしまったためそいつとは全くの疎遠になってしまいました。

私は私で彼女が出来たりバンド活動で東京と下妻を行き来してCDを出したりと高校生活を死ぬほど謳歌して、いつしかそいつの事など思い出しもしなくなっていました。

その後、既に東京でミュージシャンとしての生活をしていた20歳の時、成人式があるというので地元の下妻市に久し振りに戻ってきたのですが、文化会館で行われた式の後、私はフッと思い出して、そいつの姿を探しました。当然、昔からの知り合いも多くいたので、知ってるやつに片っ端から『アイツは何処にいる?』と聞いて廻ったのですが、『そういや見てねーなぁ』というやつが大半。そして『いや、来てねぇだろ』って言う奴や『知らねぇ』って奴もいました。

そうしているうちに、私はいきなり強く腕を引っ張られました。腕を引っ張ったのは『ヤー子(弥生)』(仮名)。着物を着ててもすぐ分かるキツネ顔。高校時代の所謂セフレでした。

『ちょっと来いよ。』

『ヤー子かよ、あんだよ、引っ張んじゃねーよ。』

『いいから、あいつの事は話しすんじゃねーよ。』

ヤー子の話によると、そいつは高校を出てすぐに自殺したとのこと。

家が有名な名家という事もあって、徹底的な箝口令が敷かれ、同じ集落の人でさえ殆ど知らないんじゃないかとのこと。ヤー子の家は昔からの近所の噂話が大好きな情報通の一家であったし、そいつの家から500m程しか離れていない近所でもあったので風の噂でそいつが自殺した事はすぐにヤー子の耳に入ってきたそうである。しかし、流石にヤー子もこの話だけは余所に漏らしちゃいけないと察して、今まで自分から誰かにこの事実を話したのはこの時が初めてだと言っていたし、そいつが何の理由で自殺したのか等の詳細な情報も流石に入ってきていないと言っていました。

私は、そんな話を聞かされて東京に戻ったものの、当時はまだインターネットもそれ程普及しておらず、況してや地元でも厳重に隠されているような情報など知る術など無かったので次第にこの事は忘れてしまっていました。

その後、私は2010年に音楽業界を引退して地元に戻ってきた際、フッとそいつの事を思い出して知り合いや近所の人たちに聞いてみたのですが、皆、口を揃えて『いや、知んねどなぁ』と言うばかり。これは箝口令なのでしょうか?それとも隠蔽が完了しているのか。

確かにこの周辺の集落は今や子どもも若者もいない、ほぼ限界集落と化しているのでネット上に何らかの情報を残しているような人もいないため、いくらネットで調べてみても全く何も見つからない。

こうしたネット過疎地の情報閉鎖って凄いもので、例えば、ついこの前の2023年9月某日、近所の橋の上から母親と幼い子ども二人が貧困を苦に小貝川に身を投げて溺死した事件がありましたが、こんな全国ニュースになってもおかしくないような事ですらこの田舎町では『世間に知られたら可哀想だから』という理由で箝口令が敷かれ、ネットニュースにも新聞にも一切出ず、このうちの一人の子どもが通っていた学校のクラスでは『○○君は体調不良でしばらく休みます』と言ってそのままフェードアウトで居なくなったそうです。

田舎の箝口令って怖いんです。

そいつの消息も全く分からないままですが、今でもそいつの家は文豪の資料館みたいになっていますし、市内の至る処に記念碑などの石碑が夏の陽射しを浴びて如何にも熱そうに、何かを言いたげに建っています。

第十四話

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