表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

十二話 龍穴

第十二話です。

1990年頃まで、集落の中の通りの十字路の端の方には馬頭観音の石柱やら三又の木の枝やら、何かしらが立っているものでした。その中でも我が家の近所に、四角い牛乳パックくらいの太さで高さが1mちょっとくらいの角材のような細長い石柱が立っていて、その由来は村の長老みたいな爺さんしか知らないといった具合の非常に古い石柱でした。その爺さん曰く、その石柱は『龍穴の目印』だそうで、龍穴っていうのは、幽霊だとか妖怪とかが湧いてくる穴みたいな場所なので、あの目印の石柱には近付くなとの事でした。しかし、そこは悪ガキだったのでなんにも無い田舎道にポツンと『手頃な』石柱が立っていたら遊びに利用しない手は無いでしょう。

当然の様に村の子供たちは、かくれんぼや缶蹴りの鬼がその石柱の上に顔を伏せて数を数えたりして遊びに利用していました。

そんなある日の事、その日もその石柱を使ってかくれんぼをして遊んでいると、鬼をやっていた一人の友達が慌てた様子で急に「ちょっとタンマー。タンマだからオメーらちょっと来てみぃ。」と言い始めました。

その友達の只ならぬ様子に私たちもかくれんぼを一旦止めにして友達と石柱の元へみんなで駆け寄ったのですが、すると友達は「おっかねぇよ。この石、マジでヤベーわ」と言って、見ると両腕が鳥肌でブツブツになっていました。

友達曰く、かくれんぼの鬼だったのでその石柱に頭を付けて10数えて後ろを振り返ると、すぐ横の家の向こう側の通りを生垣の向こうから向かいの家の生垣の向こうへと『裸の下半身』が走り抜けて道を渡って行ったと言うのです。『裸の下半身』はヘソから上が無く足だけのような『走る生き物』で、裸なので毛は見えてもイチモツは見えなかったのでおそらく女だったとのこと。

友達はそこまで話すと手がブルブル震えてしゃがみこんでしまいましたが、その時、私的にはそれの何が怖いのかあまりピンと来ず、どちらかというと自分も見てみたいという興味のほうが勝り、その『見かた』をもう一度よく聞いてから同じ動きで石柱に顔を伏せて10数えて後ろを振り返ってみました。

すると、ビンゴ。

本当に友達の言った通り、二軒の生垣の間を、道を渡るように裸の下半身が凄い勢いで駆け抜けて行くのが見えました。それを見た瞬間、もの凄く怖かったの同時に、肉付きの良い長くて真っ白な足、しかも毛もハッキリ見え、そんな足がまるでジョイナーの足のように高く力強く前へ前へと駆け抜けて行く『女の』足を見た瞬間、10歳にも満たなかった私の心に初めて絶望や罪悪感といった感情を知り、その鮮烈な美しさに故郷のボロさを思い知らされて、気をしっかりと引き締めていないといつでも泣き崩れて小貝川に身投げに走ってしまいそうなくらい、私の心は完全に魅了され憑りつかれてしまいました。これはホントの悪霊だったんじゃないかと思います。

この日の石柱の『現象』は翌日には学校で噂になり、2、3日の間に二つ三つ隣の集落の大人たちの間でも噂になり、次の週くらいには年寄りから大人まで一日中誰かしらが裸の下半身を見るため石柱に頭を付けて10数えてるような観光名所となってしまいました。

それでも私たちは『地元の子供』だったのでほぼ毎日優先的に、観光客をどけて『石柱遊び』をして、一日一回は裸の下半身を見て「こえー」などとはしゃいでいた訳ですが、そのうちに私たちの初期メンバーでもあった『マッピ(まさる)』という奴が、「これってもし10秒じゃなくて他の秒数にしたら違うのが見れたりすんじゃね?」と言い出し、確かになんで今までそれに気がつかなかったのかと、「マッピ、オメ天才じゃね?」などと言いながら、1秒から順に振り返りを試してゆくことになりました。

すると面白かった。

1秒で振り返るとネズミほどの小さな裸の下半身が猛スピードで駆け抜けて行きました。2秒で振り返るとドブネズミくらい、3秒で振り返ると猫くらいと、秒数を伸ばしていくほど裸の下半身が大きくなり、8秒か9秒くらいの大きさがほぼ普通の人間サイズで、今まで見ていた10秒のサイズは明らかに普通の女サイズよりデカかったという事が分かりました。

ここでまたマッピが言いました。「これよぉ、30秒とかにしたらどんくらいデカくなっと思う?」

しかし、さすがにいきなり30秒にしてとんでもない化け物が出て来たら怖いという話になり、とりあえず15秒で試してみる事になり、先陣を切ってマッピが15秒数えて振り返ってみたのですが、振り返った瞬間、マッピは目を見開き、口の両端から細かい泡が出て倒れてしまいました。私たちは急いでマッピの体をゆすったり名前を呼んだりしていると、マッピはすぐに目を覚ましましたが、目を覚ますなり四つん這いになって地面に生えている雑草を掴みながら必死に逃げようとしていました。

「なんだっつんだよオメー、だいじだが逃げねで訳を言え、訳を。」

「だいだ、ありゃだいだ。」

「なにがだよ、そんなにデゲーのが出だのがよ」

「ちがーよ、上だ、上が出だ。しかも、こっちさ来てる。」

さすがに私もこれは見てみようとは思えませんでした。

それから3年もしないうちに集落の中の道は消防車が通れるようにと拡張工事が施され、その際に邪魔な石碑などは全て撤去されてしまいました。あの『龍穴』の石柱も今となってはどの辺りに立っていたのか分からないくらい道が広く整備され、あの生垣のあった家々も空き家になり一帯も大部分がソーラーパネルとなってしまったため、地元民でも検討も付かないです。

第十二話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ