一話 首無し地蔵
第一話
近所の土手の近くに首無し地蔵という頭の無い地蔵があるのですが、私が小さい頃は地蔵にはちゃんと首がありました。
私が小学生だった頃なので1990年頃だと思いますが、地元の暴走族が根性試しだと言ってその地蔵の頭を鉄パイプで打ち飛ばし、地蔵の背中に赤いスプレーで毘沙門天というチーム名を落書きした事で頭が無くなった地蔵なのですが、そんな地蔵の存在など忘れたまま数十年の時を経て、私は地元に戻って久し振りにその地蔵のある土手の道を車で通りかかった時、その場所の付近の景色が異様な感じに変貌していて怖かったです。
その地蔵の周囲には当時からイチョウの木や杉の木が植えられていて、当時は何も違和感など感じなかったのですが、今見ると周囲の木が地蔵を中心にバナナの皮を剥いたみたいにみんな外側に反り返っています。大体、杉の木って幹があんなに弓なりに反るものなのかって感心してしまうくらい、どの木も上に行くほど地蔵から逃げるように放射状に反っています。また、その地蔵の近くに昔よく遊んだ同級生の家があったので久し振りに見に行ったのですが、同級生の家はすでに無く、空き地になっていました。田舎で代々そこに住んでいるような家が無くなるっていうのは本当に稀です。ちょっと信じられない気持ちでその集落の中の細い道を走りながら見てみるとその集落の殆どの家が空き家になっていました。
普通に考えたら有り得ないんです。田舎とはいえ山奥の集落でもないし、当時は割と名の通った大きな集落がたった2、30年でこんなにも空き家ばかりになってしまうなんて。
静まりかえった集落で、その入口に花開いたように反り返った木々の中心に首無し地蔵。その異様な光景がちょっと怖かった最近の体験談です。
第一話