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私のメイドさん

この世の中で恥と外聞を捨ててでも拒否したい事象ってどれくらいあるのだろうか?


「絶対!ぜーーーったいに嫌です!」


そして、この淑女らしからぬ心からの叫びを何故我が親達は聞き入れてくれないのだろう…?


静かな夜の晩餐時に突然聞かされた婚約話。私は驚きと共に…その相手を知らされ絶叫していた。


12年生きて初めての大絶叫…人間ってこんなに大きな声を出せるのですね。


そんな事を怒る頭で考えていると、おっとりとした母がいつもながらのピントのズレた話をしてきた。


「リリちゃん?そう恥ずかしがらないで?」


あのですね?

お母様、この私の態度を見ておりますか?

どの辺が…どの辺が恥ずかしそうなのか、ご説明いただけますかね!

どう見ても最大嫌悪を出してますよね?え?そう見えない?目か頭を診てもらいましょう!本当に!!


「いや…そう言ってもなぁ?侯爵家からのご希望だぞ?そう簡単に断る事なんて…なぁ?」


あぁ、お父様…貴方はまだ私が心底嫌がってるのをおわかりなのですね?

でも…うん、貴方は昔から此処ぞという時の決断力が弱かったですよね…

知ってはいたけど、娘のこの最大限の抵抗を見て、親として奮起して欲しかった…。


「いい話じゃないか姉さん。いずれは何処かの家に嫁がねばならないんだから。侯爵家だよ?良い御縁じゃない。リアン様の何が嫌なのさ?」


えぇ、えぇそうね?

貴方はいつもあの方の味方でしたよね?

困る姉を見て見ぬふり。

自分の事しか考えていないのでしょう?


そりゃ貴方がこのハリエット伯爵家を継ぐのだものね?

自分が当主になった時に、強力な縁故があると便利でしょう。

でも…その為に嫌がる姉を売るのですか??


三対一…私は擁護して欲しい人達から裏切られ、今絶賛攻撃を受けている。


「あのですね?言わせていただいてもよろしいですか?ロブトリー侯爵家のリアン様とはそれはもう昔から交流がありましたよ?」


「そうね、あなた達は昔から仲良しだったわね〜」


えぇ…?

どう見たらそう見えるの…泣いていいです?


ロブトリー侯爵家…それは母の親友であるカナン侯爵夫人繋がりで親交のある家だった。

特に目立つ事ない伯爵家である我が家が、歴史の古い財力豊かな侯爵家と親交があるのは母のおかげ、それだけである。

私達兄弟は事ある毎に母と共にあの家に呼ばれ、子供同士は仲良くと無理やり遊ばされた。1つ下の弟であるマクスウェルはいい…リアン様と同性と言うこともあるし年下っていうのを武器に「お兄様!」と取り入る事に成功したから。


でも私はーー

「おい!行くぞ!ほら…どうしてお前はそう遅いんだっ?!」

ヤメテ、よして!痛い!引っ張らないで!

私は貴方と弟の冒険者ごっこなんかに付き合いたくはないのよ!部屋で紅茶を飲みつつ今流行りの恋愛小説を読みたいのに!!


「あ……あのっ痛いです……!」

勇気を出して抵抗してみても


「はあ?今なんか言ったか?」

「……いぇ……」

「ほら、さっさと行くぞ!マクスウェルが木剣を準備してくれているんだ!今日は皆で剣を持って探検するんだぞ!!」

満面の笑みで私を引っ張っていく彼をぼんやり見ながら私は心の中で助けを求めていた。


あぁ……私は探検ごっこなんてしたくない……助けて誰かっ!!


………

…………


幼い頃こんな事が毎回…毎回くり返されてきた。

それなのに!これの!どこをどう見たら仲良しに見えるんですか!?お母様!


「いいえお母様、私たちは仲良くありません。仲良くなどないのです!」


「でもぉ…この婚約はリアン様からのご希望とのお話なのよ?」


なんですって?あの方からの希望?

私への嫌がらせの一環!?ひっっ…


「有り得ませんわお母様…私とあの方は…」


話が合わない性格も真反対。

大人しい私と活発なあの方とじゃ…

上手くいく訳がないのです。


「でも断れないんだろう?じゃあ嫁ぐしかないじゃないか。姉さんも駄々こねないで諦めて良縁が来たと喜びなよ。」


〜〜〜!!!コイツ!他人事だと思って!


「もういいです!皆っ…皆勝手にすればいいのですわ!なら私もそうさせて頂きます!」


穏やかな夕食が一変、この突拍子のない婚約発表で荒れたダイニングを私は乱暴に出ていった。


後ろから静止の声も聞こえたけど、

無視よ!無視!



「もう終わりよ〜私の人生は終わったのよー!!」


クッションを抱きしめながらシクシクと泣く私の前に、静かにカップが差し出された。


「まあまあ、お茶でも飲んで、落ち着かれたらどうですかお嬢様……リリ?ほら、泣き止んでー?なにがあったか教えてみー?」


「エッタ!聞いてくれる!!私はっ私はもう終わりなのよー!うわぁーーん!」


「おぉう!よしよし、このマリエッタ様が聞いてあげるから話してみ?」


私はクッションを投げ捨て隣に座ったマリエッタに抱きついて泣いた。


マリエッタ…彼女は我がハリエット伯爵家に長年務めている執事の娘だ。

マリエッタ・ボートル 17歳。

私より5つ上の彼女と私はいつも一緒に育ってきた。

私専属のメイドとして仕えてくれているが、私は彼女を頼れる姉としてまた友として心から信頼している。


この気さくな関係も2人だけの秘密だ。

そしてメイド兼姉兼友な彼女はとても不思議な人でもあってーー


「あーね、成程。リリが毛嫌いしてる、あのお坊ちゃまと婚約することになったと…」


「…絶望だわ…もう私の人生は終わりよ」


「早いなぁ〜人生の終わりが。まだ10年ちょっとしか生きてないでしょーに」


「でも!あの方と私が上手くやっていけると思って!?性格も考え方も何もかも違うのよ!それに…私の言葉も聞いてやくれないし…交流のしようがないのよ…」


「うーん。確かに…で?リリはどうしたいの?」


「婚約が無くなればいいけれど…」


「だぁってそれは無理なんでしょー?」


そっそんな…わかってるけどトドメを刺さなくてもいいじゃなぃ…


私はまたウワッと泣き出すと彼女の腰に抱きつきグズり始めた。

彼女のお仕着せは私の涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


「はいはい、ごめんてー。でも現実は見てかないとね?現実を見ず明日に掛けて『明日カラ頑張ルカラ…』が1番の現実逃避で生産性もなくどーにもならないんだからね?あと悲しいからと泣き暮らしても駄目よ。どーにもならないから」


「……そんな…はっきり言わなくても…」


「でもお任せあれ!こーゆーお話なんて私たぁくさん知ってるんだから!読んだ読んだ、たらくふ読んだわー。」


「???」


「このままいくとアレね、バッドエンドパターンだと愛なき結婚をした2人はギスギスした結婚生活を送り、心と体を病んだ貴女は子供を命を掛けて産み暫くして儚くなる…エンドか、または旦那様になったあの坊やが別宅に愛人囲って本宅には帰ってこなくなり孤独に生きていく…エンドとかかしら?あーヤダわジメジメした終わり方!キノコ生えそうね。私ハピエン主義なのよね〜」


バッドエンド…?ハピエン主義…?なんの事かしら…。


でも子供産んで儚くなるとか…孤独に生きていく…とか!冗談じゃないわ!!


「リリは…うーんそぉねぇ〜逃走して市井へエンドも考えたけどアナタは生粋のお嬢様だからなぁ〜ハングリー精神とかなさそーだし?純粋培養っ子だから市井なんかに下りたらあっちゅー間に騙されて娼館エンドになるかもだし…腕が立つ!とかもなさそうだから冒険者になって未知なる世界へエンドも無理だしなぁ…」


あぁ…もう何を言ってるかわからないけど、怖い事を言ってるのだけはわかる…わかるわ…!


「可能性的に言えば、リリが悪役令嬢ポジになる可能性もあるかぁ?仲の悪い婚約者同士ギスギスした所にヒロインちゃん(笑)が出てきて『私っ…私イジメられました!クスン…』とかやられて…あのお坊ちゃま単純そーだからなぁ〜コロリと騙され卒業パーティーで断罪エンドなんて…やー無いとは言いきれないな!婚約破棄後に他国の王子様スライディングルートとかもあるかもだけど無かった場合悲惨すぎるし…断罪後の救済ルートがない場合は、修道院エンドが王道だしなぁ〜」


「しゅっっ修道院!?」

なっなんで修道院??!私何もしてないのに…俗世から離れ出家しないといけないの!?


「可愛いリリが修道院行きも娼館行きもヤダなぁ〜困ったねぇ?」


「いっ嫌よ……なんで私何もしていないのに……」


「そうならない為にも!何か対策を練らないとねぇ〜?1番いいのはアノお坊ちゃまとリリが婚約し仲良くなる事だけど、今のままじゃ無理よねぇ?」


「………。」


「ねぇリリ?あのお坊ちゃまの何が嫌かな?」


「何が……って言うと?」


「ほら、例えばさ?顔が無理!とか体臭が無理!とかだともうどーにも出来ないじゃん?生理的に受け付けないってやつ?」


「あー……なるほど?」


「そーゆーのじゃないなら、まぁあのお坊ちゃまにも救いはあるわけで。」


「体臭は特に……?お顔も……別に、整ってらっしゃると思うわ」


リアン様の御髪はサラサラの白金でとても綺麗だし、瞳は澄んだ水色……将来を確約されているような顏ではあるけれど……


「私はあの方とは性格が……本当に合わないと思うのよ……」


あの話を聞かない一方的な態度……あんな性格の方と一生を共にするとか!

考えるだけでも恐ろしい。

好きでも無いやりたくも無いことに散々振り回される生活……ブルリと背筋が震えた。


「性格が合わないから嫌だと……それで合ってる?」


「まぁ……はっきり言うと……そうね。」


「うーん。あのお坊ちゃま、王様ジャイアンっぽいからなぁ〜まぁでもあの性格が治ればリリ的にまだ我慢できる?」


「まぁ……うん。そう…ね?」


「お坊ちゃまもリリもまだ子供!12歳ならまーだ性格も治しようがあるってもんよ!」


えぇ?性格を治す……?

あの人の言うことを聞かず、振り回すあの方の性格を?


「大丈夫!ポンコツ系男子を素敵な紳士に調きょ……ゴホンっ!導く話もたくさん読んだんだから!転生悪女が掌で男を転がす系ストーリーも履修済みよ!合わせ技で解決してみましょう!!任せて!」


なっ何だろう……いつにも増して訳がわからない!


我が家には少し変わったメイドがいる。

マリエッタ・ボートル(17)


彼女はたまに聞いた事のない単語を話し白熱する。

私にはまるでわからないんだけれど……

楽しそうにはしゃぐ彼女を見てると、不思議とささくれ立った気分が落ち着くから……まぁ好きにさせようかって思ってしまうのだ。


彼女が任せてと言うのだから……

「とりあえず、思春期を拗らせて素直になれない気持ちが明後日に飛んじゃってリリの前で残念になってる可能性もあるから……とりあえずテストしてみましょう!」


……テスト??なっナニ?その満面の笑みは!怖いわよ流石に!





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