浮気されたならやり返す
『私のことを愛してるって!婚約者様より!もう嬉しくって!結婚も考えてくれるって!この前誓い合ったのよ!』
とあるサロンの一室から聞こえてきた不快な声。その声の持ち主は私の婚約者と噂のある女。下位貴族ごときがまぁはしたなく大声で自分が不貞を働く女だと触れ回っているようなものだ。恥ずかしい女。そんな女に手を出している婚約者のことは蔑むことしかできない。
「あら、はしたないお声。ここも随分と敷居が下がったのですね」
私と一緒にいたとある方の一声で周囲はあわてふためいている。
「皆様早く行きましょう。こんな空気の場所にいるなんて不快よ、今日は場所を変えるわ。もうこちらに来ることはありませんから。キャンセル料は私のところへ請求を回してちょうだい。用意してあるものがあるならこのお部屋の方達に。大変喜ばれるでしょうね。もちろんお金は私が出すから」
踵を返し、今来ていた道を引き返す。サロンの経営者が追いかけてきて謝罪を繰り返すが、先頭を行くこの方は振り返ることもなく外へ出て乗ってきた馬車に乗り直した。
馬車が出た瞬間に
「はぁ…なんなの?あの不快な女。エルヴィラよく平気でいるわね」
エルヴィラはこの私。先程扉越しに聞こえた声の持ち主は私の婚約者の浮気相手と噂されている女。今私に話しかけてきているのはこの国の皇后陛下だ。
この馬車は皇宮のものではなく、このお茶会の参加者の一人である公爵令嬢の用意した馬車。目立つこの馬車が時をおかず皇宮に戻るとなれば騒ぎが起こるだろう。若き皇后の不興を買ったのだ、あのサロンはあと何ヵ月持つだろうか。
「噂は耳にしておりましたから」
別にショックなわけでもない。完全な政略結婚、次期侯爵になるであろう婚約者は昔から鼻につくやつだった。偉いのはお前じゃなく両親祖父母、先祖達だ。たかが令息、優秀な弟もいるのに、あたかも自分が当主のように振る舞う婚約者のことは前々から軽蔑していた。
「次期侯爵夫人には興味はなくって?」
馬車の持ち主の公爵令嬢にそう問われる。
「なれるかもわかりませんわ。彼の弟君のほうが芽がありそうです」
「それはそうね。陛下もそうおっしゃっていたわ」
「慧眼の持ち主である陛下ですもの。近い将来そうなるでしょうね」
そうなったら婚約者の弟に嫁ぐことはほぼ確定なのだが、如何せん歳が離れている。16の私に7歳はさすがに…それは婚約者の両親もわかっている。だからこそ婚約者に期待はしているのだが結果がついてこない。それなのに結婚前に堂々と浮気をしているなどと噂がたってしまえばますます当主の座は遠退いてしまう。
「エルヴィラも9つも下だとね…難しいわね」
「えぇ。ねえ様ねえ様と慕われておりますから。そのねえ様が妻になるとは賢い彼でも考えてもいないでしょう」
否、彼はわかっている。だからこそねえ様と線を引いている。結婚したとしても姉としてしかみることができませんと7歳の今から。賢い子だ。お飾りとして姉を妻として据えるのだから。
「それよりも今の婚約者よ。お父様やお兄様からもいい噂は聞かないわ。皇后陛下もですわよね?」
「えぇ。陛下なんていないものとして扱っているようよ。侯爵に苦言を呈しても親だからかかわされるらしいの。エルヴィラが私と仲良くしているからとたかをくくっているのよ。そんな男が次期当主なんて無理に決まっているじゃない」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。馬車の中で話は尽きることはないし、馬車を降りて皇宮の庭でお茶の用意が出来るまでの間もずっと話が尽きない。
「私が言うのもあれだけれど、そもそも政略結婚なんてものが古くさいのよ。そう思わない?」
「えぇ、それはもちろん」
「私もお父様の手前理解しているそぶりは見せますが絶対に嫌ですわ。今度の留学は嫁入り先を探すか婿を探すかですから」
公爵令嬢は令嬢としては珍しく勉学の道を進んでいる。お父上の影響もあるが、女性としては珍しく本気の留学を予定している。
「もうこの国に優良物件は残っていないんですもの。人のものには興味はないし私よりバカな男に興味はないの。」
前者は建前、後者が本音だろう。
サーブしてもらったお茶が出てきて口をつける。話しすぎて喉が渇いていたのをわかっていたのか、1杯目はアイスティーだ。ありがたい。
「それでエルヴィラはどうするの?」
「どうもなにも…侯爵家に嫁入りは決まっていますからね…あのバカな婚約者には一度痛い目を見てもらおうかと」
「あらどうやって?」
「女狐をどうにかするのかしら?」
お二人の疑問に答える
「あらいいじゃない」
「そうよ、やられたらやり返す。それでこそ女よ!」
ここから私の計画が始まった。まさかあんな結末になるとは思いもせず。
*****
『話があるから明日君が皇后殿下とよく行かれるサロンへ来てくれ』
婚約者から来た手紙に書かれていた。まず人の予定を聞け、そしてあのサロンにはもう行っていない。サロンのオーナーは息をしているかしら?まぁそんなことどうでもいいんだけれど。
「皇后陛下に手紙を出すわ。遂にきたわと。」
「まぁ!パーティーですわね!」
「とびきりのお洒落をしていきましょう!」
侍女達の方が浮き足立っている。浴室の用意をしてきます!と一人、家令に伝えて参ります!と一人。私よりも盛り上がっている周囲に若干圧倒される。
「あの方へはどうされますか?」
「皇后陛下がお伝え下さるはずよ。あまりご負担をかけたくないの」
「エルヴィラ様のお願いでしたら何を置いてでも聞いてくださると思いますよ」
「だから困るのよ。あの方がでてきてしまったら…想像するのも恐ろしいわ」
*****
「お久しぶりでございます」
オーナーが出迎えに出てきた。やはり痩せこけたが仕方ない。私のせいではない。
「皇后陛下はお元気でしょうか?最近めっきりお見掛けしなくなりまして…」
「さぁ?どうかしら?あの御方のことをたかが伯爵の娘である私の口から申すことはできなくってよ」
「左様でございますか…」
その御方はあとでなんとも言えない微笑みを顔に張り付けてやってくるけれど今私が言うことでもない。
「それで?私を呼び出したあの男はどこに?」
「今すぐ案内させます」
あなたが案内しないからこの程度だと皇后陛下から見捨てられたことに気付いてもいないようね。
「お嬢様、私この度無事転職が決まりまして」
「あらよかった!早めにお知らせしてよかったわ」
案内に呼ばれたのはここの副支配人。この方には私も皇后殿下も世話になった。客が減るから早めに信用できる部下たちに知らせてあげてと手紙で伝えた。皆店仕舞いされる前に無事に転職できるようでよかった。
利益を優先して見境なく客を入れるようになったこのサロンを皇后陛下はプライベートで使うことはもうないだろう。
「裏口の準備はいい?」
「ええ。あの御方がいらっしゃるとのことで。私の部下が控えております」
「そう、とても気合いが入っていたから恐らく早く来られるわ。まぁ私も厄介な方の相手が短くなるならそれに越したことはないし」
3分くらいで終わってくれると皇后陛下の出番もなく終わってくれるからありがたいのだけれど。
「遅いっ!」
はぁ…頭が痛い。こんな男と婚約なんて我が家も落ちぶれたのねと思うしかないのか、侯爵家も教育に失敗したのねと思うしかないのか。
人の顔を見るなり遅いと怒鳴り付けてきたこの男が心底嫌だ。隣には不貞相手と思われる女。1人で来ることもできないのか?
「お隣のお嬢さんは何故いらっしゃるの?」
「謝罪より先にそれか。こんな女だから婚約なんて嫌なんだ。彼女は俺の愛する」
「あぁ、お名前を伺うつもりはありませんので本題をお願いしますわ。時間もそんなにあるわけではありませんので」
どうせここでわーわー言って婚約なんて破棄だ!とでも喚き散らすんでしょうね。あー、やだやだ。ここのオーナーの口が堅いといいんだけれど、今の経営状況を考えたら微妙ね。騒がれても面倒だしどうしようかしら。
「聞いているのかっ!?」
「考えることがあるので聞いておりませんでしたわ。失礼。」
「本当にお前って女は…2度と顔も見たくない!我が侯爵家の門も2度とくぐれないようにしてやる」
あーら、有難い限りですわと答えようとした矢先、この部屋の扉が開いた。現れてしまったわ。
「あら、たかが長男なだけの貴方が門をくぐることも許さないですって?侯爵家はいつ代替わりしたのかしら?ねぇエルヴィラ、聞いたことあるかしら?」
「…皇后陛下におかれましては」
「貴女と私の仲よ、挨拶なんていらないわ。それより貴女の輿入れ先の侯爵家は代替わりされたの?この無能が当主でもないのに人の出入りを制限する権限でも譲渡されたのかしら?」
「それは…」
「あなたは何様のつもりなの?私に挨拶もなく口を開くなんて」
恐ろしい。挨拶なんていらないと私には言っておきながら目の前の男には挨拶もしてないなら口を開くなと…
思った以上に早く到着された皇后陛下は楽しそうにしながらも目の前の二人には不快そうな目を向けておられる。こんな呼び出しをされる前になんとかしてほしかったというのが私の本音ではある。面倒だからだ。私の両親や侯爵家側も皇后陛下の一声ですぐどうにかなったはずなのに、わざわざこんな茶番劇用意しなくてもよかったのではなかろうか。
「全ては侯爵家を乗っ取ろうとするこの女が悪いのです!私達は被害者です!」
「私も、侯爵家の方とは知らず好きになった殿方が愛のない結婚をされると知ってあまりに不憫で…決して疚しい気持ちがあるわけではなく」
「あら?私はこの男に聞いたのであってあなたには何一つお伺いしておりませんわ。口を開いていいなんて誰に言われたのかしら。やはり蛙の子は蛙、父もマナーがなっていなければ娘も同じなのね」
あー早く帰りたい。楽しくないこの場を『楽しそうだから私も行きます』と返事を寄越してきた皇后陛下らしい。元からこの男のことを好かなかったこともあるがまぁ口撃がすごい。あとこのおまけの女に対しても。私はいらなかったんじゃなかろうか?
「失礼いたしますっ!」
なぜか扉をバンっと開けてオーナーが入ってきた。どうした?なにがあった?皇后陛下がおられるのに何を考えているんだ?と戸惑っていれば、本当に想像もしていなかった人が現れた。
「妻とエルヴィラが揃って同じ場所に行っているとは。こんな面白いことを何故知らせてくれなかったんだ?仲間外れかい?」
「あら陛下。このようなところまで。執務はいいんですの?」
「お前とエルヴィラが秘密裏に動くなんてなにか面白いことがあるに決まっているだろう?だから女官長に聞いたんだよ、なにを企んでいるのかってね。まぁ企んでいたのは妻であるお前だけだったけれど。ほら、エルヴィラ、顔を上げなさい。お前は畏まるような立場じゃないだろう?」
「いいえ陛下、私は皇帝陛下の臣下でございますので」
「エルヴィラ」
膝を曲げ、カーテシーをしていた私の手を取ったのは一番来てほしくなかった陛下、その人であった。国のツートップがこんなところで揃うなんて誰が思っただろうか。皇后陛下は知っていたのだろうか?
「それで?エルヴィラは婚約者とどうしてこんなところに?まぁ呼び出されたのは知っているけれど、そこの女性はどうしたんだい?」
顔を上げてよいと言われていないまだ婚約者の彼とその連れは頭を下げたままだ。上げてよいと言わない陛下も皇后陛下もどうかと思うが。
「発言をお許しください」
「あら?許したくはないけれど」
「ほら、話が進まないだろう?やめなさい」
まぁとにかくこの状況は最悪だと言える。なんで揃った?なぜ多忙な陛下がこんなところに?
頭を下げたまま婚約者である男がまぁべらべらと喋り出す。婚約者のくせに自分を蔑ろにするこの女が悪い、隣の彼女と結婚したいのになんせ侯爵という身分が2人の愛を邪魔するから側室や愛妾として認めさせたくて呼び出したと陛下達の前で話す。私のことはお飾りにして実務を押し付けるつもりだったのだろう
「それで?そこの女は?」
彼女の言い分は先程とほぼ同じだが、寂しそうにしていた彼を支えたい愛したい、それに侯爵夫人という身分が必要であれば精一杯努力するとのことだ。結局妾で収まる気はないということだ。皇后陛下は笑ってらした。恐ろしい。
「お前達の愛とはなにもかもを失くしても揺るがないものなのか?」
「はい!私はこの女性とだけ愛を育めると」
「そうか。じゃあそうしなさい」
陛下のそのお声に目の前の二人は頭を下げながらも目を合わせて喜んでいた。よく喜べるな。
「では今すぐにでもお前は侯爵家から出たらいい。侯爵は優秀な弟が継げばいいしお前達も侯爵家というしがらみから解放される」
「ですが、それでは」
「なにもかもを失くしても揺るがない愛なのだろう?身分なんていらないじゃないか。エルヴィラはそのままお前の弟の婚約者となる、いやもう妻か」
「弟には婚約者が…」
「そんなもの向こうの家を説得してしまえばいいのだ。エルヴィラはどうしても侯爵夫人という身分でいてもらわなくてはならないのだから」
目の前の2人はなんのことかわかっていないが私と陛下達にはわかる。
「愛おしいエルヴィラに不自由なぞさせられないじゃないか」
そう、私は今や公にはしていないが陛下のお手付きなのだ。それも皇后陛下公認の。
「なっ!エルヴィラ!お前、そんなこと」
「私のエルヴィラに向かってお前などという呼び方はやめていただこう」
たった今さっきまで形だけでも婚約者だった男が私の名前を呼んだだけで陛下の護衛に取り押さえられている。皇后陛下も微笑んでいる。
「エルヴィラを推薦したのは私です。愛のない結婚は貴族として仕方ありませんが、愛を育める相手がいてもいいと思いませんこと?ねぇそちらのお嬢さんもそう言っていたでしょう?それが陛下にとってはたまたまエルヴィラだっただけなのだから」
たまたまではない。
『后と一緒にいるそなたを見て好ましく思っていた』
と連れていかれた寝室でベッドに押し倒されたときに言われている。
皇后陛下がなぜ愛妾を自ら勧めたのか、理由はまだ詳しくは聞けていないが、陛下のことがお嫌いでとかではないらしいので安心はした。
それよりも目の前の男、一応婚約者ではあるがこの話の流れだとおそらく白紙になるだろう。でも私はどうなる?陛下の側室や愛妾に上がれるとしてもある程度の身分と既婚というステータスが必要だ。先程の流れだとこの男の弟?
「場所を変えるか。今日はもう面倒だし明日だ明日。時間を空けるからそこの2人は両親も連れて城に来い、時間は追って沙汰を下す」
なぜか私はそのまま陛下達とこの場をあとにした。
翌日、城で目が覚めたのはもう陽も昇りきった時間だった。女官達がやってきて支度を手伝ってくれる。
昨日の今日のことと言えば皆堰を切ったように喋りだした。要約すれば元となった婚約者は女の家を継ぐことになったらしい。「貴族ではいられるんですよ?いいご身分ですね!」と言っているが、侯爵家の長男とたかだか男爵では差がある過ぎる。平民でなかっただけいいとも思うが、あの男がうまくやっていけるとは思えない。
「エルヴィラ様はこのまま次期侯爵夫人だそうですよ」
「え?あの子はどうするの!?婚約者とうまくいっているのに私が邪魔になってしまうなんて…」
そこは皆の関心事項だったそうだ。彼の婚約者はそのまま第2夫人になるそうだ。相手の家はそれでよかったのかと問えば、皇后陛下からの格別の御引き立てがあるそうだ。第2夫人といえども寵愛は彼女にあるのだから確かに悪くはない。それに皇后陛下と直接口にしてはいないが陛下からも引き立てて頂けるなら絶対に第1夫人でなくてもいいということだろう。そもそも第1夫人となる私が陛下の愛妾として城にいるのだから1とか2ではなく彼女だけが正式な妻なのだ。
「エルヴィラ!」
「陛下っ」
陛下と言ったのは私ではない、女官だ。身支度中の令嬢の部屋にノックもなくいきなり入るのは陛下といえども許される行為ではないと注意されている。この方と陛下は随分と近い間柄なのだろう、ちゃんと聞いている。
「この者は昔から私付きだったのだ。皇帝になっても頭の上がらぬ存在だ」
「陛下にもそのようなお相手がいらっしゃったんですのね」
嫌味でもなんでもない、喜ばしいことだと思った。大変な地位にいる者は時に孤独との戦いだとなにかで読んだことがある。気を許せる相手や叱ってくれる相手がいることは幸せなことだと思う。
自分の目の色の宝石を買おう、皇后とエルヴィラ揃いで何か作らせようではないかと思い付きでとんでもないことを申すが、女官達はいいですねと誰も止めない。
そして部屋の扉をノックする音、今度は誰かしらと思えば皇后陛下がいらっしゃった。私まだへアセットしているんですが…
「あら?陛下もいらっしゃったんですの?」
「あぁ。あの面倒な案件も終わったところでエルヴィラが目覚めたと聞いたからな」
「どうせ昨夜も無理をさせたのでしょう?かわいそうなエルヴィラ、こんな欲を持て余した獣に見初められてしまうなんて…」
「お前が紹介したのだろう?私好みの令嬢が友人にいると。すぐには会わせず窓から様子をうかがうことしかさせてくれなかったではないか」
「あら?そうでしたか?忘れてしまいましたわ、ほほほほほ」
なにこれ?皇帝と皇后の漫才?聞いてるこっちは笑えないんですが?なーんて思っていたらへアセットも終わって解放されてしまった。もう少しドレッサーの前にいさせてほしかったのに。
「お茶にしましょう。城下のお菓子を持ってきたのよ」
「エルヴィラは私とランチだ」
「いいえ!疲れているときこそ甘いものです!」
「体力をつけねばならぬのだからきちんとした食事をだな」
周りが笑ってることに気付いてください!なんて私の立場では口を挟むこともできない。ぶっちゃけお茶でもランチでもどちらでもいい。むしろ一緒に済ませてしまえばいいじゃないか。
「いっそ夜会を開こうではないか!あのバカ息子と縁が切れた祝いの席を儲けようではないか。そこでエルヴィラのことも公表してしまえばいい。堂々と一緒にいられるようになるぞ」
「あら、エルヴィラの新しい婚約者はまだ少年ですわ。あちらのお家とよく話し合ってからでないとエルヴィラにも迷惑がかかりますわ」
「…そうだな、まずはあの男が完全に侯爵家から追い出されたのを見届けて、エルヴィラが一度あの家に入ってからだな」
「そうですわ。そのあと盛大にエルヴィラが陛下の愛妾となったと夜会でもなんでも催したらよいのですわ」
あはははは、おほほほほなどと大笑いしているが、当事者のことを無視している。
「でもエルヴィラ様、よかったですね」
女官に耳打ちされた。たしかにそうかもしれない。ただ浮気したあの野郎をちょっと痛い目みせてやろうくらいに思って浮気相手を探していたのに、あれよあれよと陛下のお手付きとなって愛妾として迎え入れられた。次期侯爵夫人の座もお飾りとはいえ確定している。
「えぇ、とてもよかったわ」