気にいらない
カイトが精霊の宿屋の食堂で食事をしていると
「カイト、昨日は助かったわ。ありがとう。ダナンも血抜きが完璧だと褒めていたわよ」
この精霊の宿屋のおかみさんで名が “ ネネ ” といい、旦那が “ ダナン ” だと言う。
「お礼も兼ねてお金を支払っておくわ」
「宿泊料金に回しておいてください」
「新人冒険者だって言うじゃないか、大丈夫なのかい。昨日、ニーナから聞いたわよ」
「お金が無くなっても ここで朝食と夕飯を食べる事ができますから問題が在りません。それに自炊も可能です」
「道理で肉の解体が完璧だった訳か、将来は店でも開いて料理人か」
「俺の希望は、農民ですね。暇な時間を持てますから 暇な時間で色々とやりたい事もできます」
「また 大変な仕事を選ぶものだね。私も新人冒険者時代に何度か、体験したけど過酷な労働で筋肉のあちこちが悲鳴を上げたわ。あれだけは、絶対にやりたくないと思ったくらいよ」
「どんな仕事も要領良く熟せば、楽が出来るものです。農民と狩人だけでも生計が十分に取れます」
厨房から ダナンがケガをして出て来る。
「アッチチ~~ ネネ、済まないが氷を出してくれ火傷をしてしまった。ツイツイ素手で鍋を持ってしまった」
「本当に馬鹿な事をして すまないね。ちょっくら行ってくるよ。ニーナたちもそろそろ降りて来る頃だろうから」
「見せてもらえますか。火傷具合を」
「カイトは、回復魔法が使えるのかい」
「薬師でもあります。魔法を使う事無く、治療が可能です」
ダナンがカイトに手のひらを見せると軟膏を塗っただけでミルミル内に回復してしまった。
「あと3回分くらいしかありませんが差し上げます。お礼は、夕飯を期待しても構いませんよね」
「任せろ、旨い物を作ってやるから頑張って来い」
そのまま厨房に入ってしまった。
「カイト1人いれば、回復も病気も大丈夫って 事か」
「料理も薬の一環から覚えたにすぎませんが それなりに美味しいですよ。両親も認めておりました」
会話の最中に ニーナとシルビアが2階から降りてくる。
「ネネさん、おはよう! 私は大盛で シルビアは少なめにして 昨日は飲み過ぎてしまって」
「昨日も夜遅くまで騒いでいたみたいですが大丈夫なのですか。先輩方」
「お酒は私達の栄養源なの 子供のアンタに分かる訳が無いでしょうねぇ~」
「俺の両親も同じ事を言っております。お酒を飲む事に理解できませんが個人の自由でいいかと思います」
「本当にアンタと会話をすると頭に来るのよね」
「簡単な事です。俺自身を認めたくないから その様な答えが出てしまうだけです。気にするだけ損をします。
いない物だと考えれば済む事です。人は皆、孤独との共存です」
「ネネさん、エールを頂戴 飲んでいないとやっていられないわ」
「それでしたら 俺は、先に街を出て薬草採取でもしております。気が向いたら森にでも来てください。お待ちしております」
カイトが宿屋を後にすると
「はいよ。エール、お待ち! アンタは、カイトを認めたくないだけだろう。違うのかい」
「だって 私よりも年下の癖にレビィよりも優秀だなんて 気に入らないわ。年下ならもっと年上の私達を頼りなさいよ。可愛くないわ」
「カイトには無理ね。彼は、色々な面で優秀過ぎるわ。
ダナンも認めるくらいの真面目さよ。仕事が綺麗だと褒めていたわ」
「アイツは、ここでも何かを仕出かしたの?」
「昨日は、冒険者の方々が多かったから肉が不足してしまって カイトが持っていた。一角ウサギの肉を買い取らせてもらったのよ。その血抜きや毛皮の剥ぎ取りを見て 家のダナンが褒めるくらいに完璧だって言ったわ。
家のダナンが褒める何て 滅多にない事よ。あの年で感心しか出て来ないわ」
「ネネさんから カイトを見た感じって どんな感じなのですか」
「現役時代に彼と対等に戦場に立つ事は無理ね。彼が前で遥か後ろを歩いている程度よ。私とダナンなんて 先程、回復系が得意だと聞かされて更に驚いたわ。
魔法も1流、武器の扱いも1流、そして 回復まで行える人間がいる方が不思議よ。普通なら国の英雄になっていても可笑しくないほどの人物よ。
私が教えてもらいたいくらいよ。彼って何者なのかを」
もし 勇者だと言われてた方が納得できるわ。それだけの器を持っているわ。
「ネネさんに そこまで言わせるなんて完璧じゃない。私達程度じゃ~太刀打ちが出来ないって事でしょう」
「この街の冒険者が束で戦ってもカイトに勝てる奴を探す方がまずいないな!
この国のSランクのシエルジート・トリノだったら もしかして 傷を負わす事ができるかもしれないが そんな馬鹿な事をするとも思わない」
「その人なら昨日、冒険者ギルドに来て カイトに向かって師匠って名乗っていたわ。だから 無理だと思う」
珍しくシルビアが話の中に入る。
「昨日、聞いたのだけど! レビィが教えてくれた事だけど ギルガイア国の勇者様と賢者様の指導も行っているらしい。本当か、嘘かは、見ていないから分からないけど
ネネさんはどう思う」
「それって 去年にギルガイア国から使者で来られた。テレスティア様とミリィーナ様の事でないのか。その時にカイトもいたとか?」
「学生の身分で外交なんかもしていたとレビィが言っていた」
「レビィって 冒険者ギルドで回復師をしている子だろう。確か、ギルガイア国の王立学園に入学して 自主退学で帰ってきた子だろう。
彼女とカイトでは、歳が離れすぎているだろうに」
「学園内で カイトって有名人だったみたい」
「だったら納得できる。彼は優秀過ぎるだけだ。人との付き合い方を教えてやれば 更に完璧になるだろうよ。
その辺りをニーナが教えてやればいいだけだ。国王と会話をしたことも無い子供だ。まして 貴族との繋がりも持っていないだろう」




