異世界人
イーナスに連れられて行った子供達が目の前に見た光景は、見た事も無いほどの庭と大きな屋敷であった。近くに大きな城が立っており、貴族の屋敷だと誰でもが分かるのであった。
イーナスが玄関の扉を開くとメイドが3人待機しており、その内の1人が鐘を鳴らすと各場所から速足で玄関ホールに集まり出して イーナスを出迎えるのであった。
「お帰りなさいませ。イーナス様」
「私が帰るまで この子達の面倒を頼むわ。それと逃げ出した子は探さなくていいわ」
「国王陛下様がお話をしたいと書状がありますが どういたしましょう」
イーナスが周りを見れば、既に影が消えており 多くの馬車が此方に向かっている事が分かる。
「随分と早い動きね。そんなにも必死になると苦労しそうだわ」
「何の事ですか。意味がわかりません」
「自分達の仕事をしていればいいのよ」
その場から イーナスが消える。と 少しの間が開くと多くの馬車が庭内に入って来る事を執事達も理解した。そして イーナスの言葉の意味も
子供達を押しのけて屋敷に入ってきた貴族が
「イーナスさまが御帰りになったと聞いた。今は、部屋か」
彼の行動で子供達が驚き、泣きじゃくると
「この子供達は、イーナスさまがお連れした子供達です。その様な態度だと爵位が無くなっても知りませんよ。
ミレイユ男爵」
執事の言葉を聞いて 後ろを振り向くと子供達が驚き、泣きだしていた。どうしたらいいのかも分からないでいるとメイドが喝を1発、入れただけで泣き止み、彼女の指示で付いて行ってしまった。
「イーナス様なら もう 行かれてしまいました。行き先は知りません。国王陛下にもその様に説明をお願いします」
「待ってくれ、それでは 俺の立場が」
「大丈夫です。3日以内に知らせが来ると思います。イーナスさまが人里に出てきたのです」
イーナスの執事が言う通り、3日目の夕刻にイーナスの行方が判明した。ウィストリア教国のキャストという街に滞在していると判明するとパトリットが飛び出していった。3か月かかる距離を2日で走り抜け、威圧をばら撒きながら門の前に来た時は、門番の衛兵も驚き 震えあがったという。
彼等の胸倉を掴んで
「イーナスは、何処だ」
と 彼等に問い詰めるも既に気を失っており、その場に居合わせた多くの住人まで震えあがってしまい。中には、気を失う者まで現れるほどであった。
イーナスが戻ってくるまで ニーナと少し話をした。
「ニーナ、君は異世界人だろう。こんな事をしなくても多くのスキルを持っているのに」
「どうして カイトさんは、そんな事が分かるのですか。誰にも話していないのに」
カイトの目を見た途端に時折、瞳の色が金色に変わる。角度とか光に当たるとかで
「俺のスキルだよ。神の眼を持っている。イーナスも君の存在に気が付いている。
イーナスは、心の眼の持ち主だ。俺もイーナスも心眼で君を見たから 子供達をイーナスの屋敷に連れて行った。君のこれから先、困った事が起きた時の事も踏まえて 逃げ出して助けを求められる場所を作るために」
「だったら 教えてください。私は、何のためにこの世界に来たのですか。私は、私は、元の世界で多くの人の死を直面してきました。多くの人をこの手で この手で失ってしまいました。助けられなかったのです。
私は、私は、何をする為に また 生き返ったのですか。昔の嫌な記憶を残したまま」
「簡単な事だ。同じ過ちを2度と繰り返さない為に 神があなたに手を差し伸べたのでしょう。
この世界には、魔法があります。薬師の知識もあります。ニーナ自身が望めば、何でも手に入る世界がここに在る。先の未来は、君が決めればいい。簡単な事だろう」
イーナスが戻ってくると
「ニーナ、私達にあなたの未来を決める権利は持っていないわ。少しだけ お手伝いをしてあげるだけ、その先は 自分自身で決めなさい。
私もカイトも少しだけ 力になるでしょう」
「あなた方は、本当に何者なのですか。どうして そんな事まで分かってしまわれるのですか」
「あら、カイトに聞いていないの 私は、ロダンスウォール国の賢者よ。カイトは元、私の弟で 今は彼よ」
イーナスの発言を聞いて驚くのであった。
「イーナス、何も自分から白状しないでよ。後で驚いた顔を見たかったのに」
「その内に フレイアお嬢様も走って来るでしょう。あの街もにぎやかになるでしょうね」
「フレイアお嬢様って 誰ですか?」
「ロダンスウォール国の戦乙女って 聞いたことある」
「噂程度で聞いております。何でも単独で魔物の巣窟に乗り込んで笑いながら全滅させる。凄い人だと」
「その人が 私の相棒なの」
聞いた途端に汗が吹きだして止まらなくなる。カイトが触れると汗が出るのが止み、綺麗に戻る。生活魔法のクリーン魔法で元の状態に
「前から思っていたけど それ、辞めた方がいいわよ。全ての女性があなたに惚れてしまうわ。私の敵を作る積り
見て御覧なさい。ニーナの目がハートになっているわ」
「そうかなぁ~ おもしろいのに」
ミントはカイトの隣で寝ているが ミルクは、明るくなったから空に舞い上がり飛び回っていた。が
『パパ、鶏肉を取ったから 後で料理して』
大きなワイバーンを銜えてホバリングしている。ミルクの大きさを見て更に驚くのであった。体長が30メートルを超えて ワイバーンが小さく見えたからだ。
ワイバーンを地面に落とすと 元の小さな姿に戻り、飛び回っている。
ニーナの口が パクパクと動き出す。
「何か、驚く物でも見たのか。ニーナ」
「も・もしかして ミルクって 神獣様なのですか」
「違うわ。私の娘よ。現に私には、ママと呼ぶし、カイトには、パパと呼んでいるでしょう」
「けど しゃべりますよ」
「そう、ミントも会話ができるし、ガウェインも会話するわよ」
「ガウェインって 誰ですか」
ミントを背もたれにして寝ていた。ガウェインが起き出して 浮遊してニーナの前にやってくる。
『我の事だ。小娘』
ミントの尻尾にいつも付いている。武器が喋りだして更に驚くのであった。
「え? え? え? これってミントの武器で無かったの?」
『我は、主様の武器だ。まぁ~滅多に呼ばれる事も無いから ミントにくっついている』
『私がカイトさまの武器を持つ事に何の抵抗も無いわ』
「え? え? え? 本当にミントも喋った」
ニーナの頭の中が混乱の渦に巻き込まれる。カイト達を見ると本当に異世界に来たと実感も沸く、実際に自分も猫の姿をしているし、子供達の中には、犬もいたし、狼にトラもいた。人間の方が少なかった記憶がある