広過ぎる
「どういう意味があるのですか。お父様」
世界情勢が この1台で決まる事を意味している事などパトリットが知る由も無かった。軍隊の移動もこの馬車を使えば簡単に戦場に迎えるが相手国も同じ考えをしてくる。情報も流れる。秘密裏に出来ない。
「ですが 浮遊魔法陣を描ける人が この世界に何人いるのでしょう。描けたとして僕と同じ事が出来る人など更に少ないと思いますよ。
個々で作ったとしても同じになる可能性も更に減る事となると思います」
魔法陣を描くにしてもインクで書くのと魔石を粉にして書くのでも性能が大きく変わるし、そもそも浮遊魔法の魔法陣を描ける奴が この世界に存在しているのか。俺以外にイーナスを見るも 両手を挙げて首をフルフルしていた。
だよな! そうなると1番に狙われるのが 俺か、イーナスも気が付いたみたいだ。
「ダメよ。これを人前に出しては」
「無理だよ。イーナスお姉さま! 既に冒険者に騎士も見ているし、この街の住人も見ているから 今更、隠せないと思います。それに ・・・ 」
「それでもダメ。そんな事にでもなれば、あなたが狙われるのよ。私が近くにいれば助けられても 家から1歩でも出てしまえば、捕まえる事も出来なくなってしまうわ。
行動範囲が広すぎるのよ。カイト君は」
「そうですか。見える範囲にいますよ。僕は常に」
「それは、私の範囲で無くて カイト君の範囲でしょう」
「そうですが その中には、魔物の魔獣も人間も感じ取れますから 問題が無いかと思いますが当然、隠蔽で隠れている者も探知魔法に感知魔法にも引っ掛かりますので問題が無いかと思いますが」
「優れすぎるのよ。カイト君は」
パトリットもカイトが天才肌だと分かるのであった。学園にいる時などイーナスは、いつも言っていた言葉を思い出した。自分が凡人でカイト君が天才だと 実際に見るまでは理解も出来なかったがカイトを見て納得するのであった。
根本から考え方が違う事を理解するのであった。皆が思い思いに妄想の中にいる。
「食事が冷めてしまいます。夕飯を食べながらでも構わないのでないのですか」
カイトが皆に席に着くように勧めると 既にメインの肉料理が席の前に出されており、見た事も無い肉が出されていた。キメが細かく、焼き具合まで完璧に仕上がっていた。それだけでクララとパトリットの口の中に涎が溢れ出していた。
イーナスもカイトにヤラレタと理解するのであった。全てを見通してメイドにも指示を与える処など真似も出来ないと その後、楽しいひと時を過ごした。当然、フレイア家族が泊まって行ったのは、今更である。
翌日、朝食を食べている時にカイトが聞いてみた。
「イーナスお姉さま、僕が受ける学園の試験とは どの様な問題が出るのでしょう。差し支えない程度で構わないのでお教え願えませんか」
「今のカイト君に必要はないわ。試験も魔法も実技も問題なく合格が出来てしまうわ。それでも魔法と実技に関してなら 学園を壊さない程度に抑えてね。
校舎には、私が結界を張っておいてあげるけど 程々でいいからね」
「また また 冗談だよな! イーナス」
冷たい目でパトリットを見る。
「冗談だと言ってくれよ。まさか、それ程にも優れているのか。カイトは」
「私に魔法を教えてくれたのも カイト君よ」
新事実を知った。パトリットも
「僕が教えたのは、文献に書かれている事をお教えしただけです。その後は、イーナスお姉さまの努力です。今でも魔力循環をしているのでしょう」
「カイト君だって 毎日欠かさずに行っているのでしょう。その証拠に」
「そうですね。どの様な場面でも生き残れることを考えますからね」
「それは、私も同じよ」
寝る間も惜しんでカイト君に追い付いて 隣を歩いて行きたいと思っているわ。
「そうですか。気持ちの切り返しの為に森に薬草採取でも行ってきます」
「森なら 私が付いて行ってあげるわ。魔物を倒して経験も積みたいから」
「イーナスが行くなら 私も付いて行ってやる。暇だしな! どうせ、薬草採取なのだろう」
「フレイアお嬢様には、無理だから諦めた方がいいですわ。私達に付いてこれないと思います」
「たかが薬草採取なのだろう。違うのか」
「僕は構いませんよ。パトリットお嬢様を中心に考えれば、いいだけです。イーナスお姉さまもその方が探しやすいでしょう」
「それもそうね。それで行き先は、何処にするの?」
「湖は、如何ですか。そろそろ、魚料理も食べたい頃合いだと思いまして 多くの薬草も樹勢しているとおもいます」
季節も冬に向かっているから 多くの実も卵も貯えだす頃合いだろう。
「ちょ・ちょっと待て 湖まで何日かかると思っている。明日には、王都に向かうのだぞ。
帰って来れないだろう。今日中に」
「そうですか、一直線に木の上を走って行けば、簡単に到着しますよ。イーナスお姉さまなら 空も飛べますのでそれ程の時間も係りません」
そうだった。この2人だけが規格外だった。普通に考えていた自分が恥ずかしい。
「決まりね。フレイアお嬢様を抱きかかえてあげてね。カイト君」
「分かりました。食事が終わり次第 向かいましょう。それでいいですか」
パトリットを見ると俯きながらも挨拶をするのであった。カイトは、何も思わなかったがパトリットは、男の子に抱きかかえられて走るという感覚が分からないでも致し、想像も出来ないのであった。
まさか、自分を抱きかかえた状態で木の上を走るなどと思わないでもいた。大きな悲鳴が木霊しながらも湖が見えてくるのである。その頃になると速度にも慣れてきたが 急降下で少しだけ、漏れてしまうのであった。