酒持参
屋敷のチャイムが鳴ると執事が御出迎えをしたのだが 驚いてカイトの処まで速足で来る。
「カイトさん、領主様がお目見えです」
「分かりました。僕が対応しますので姉達にスープのお代わりをお出ししてください」
少しの間をおいて
「今夜は、どの様な御用件ですか。パトリットお嬢様とクララお嬢様は、今現在 食事中です。もう少し待って頂ければ食事も終わりますのでお待ちになりますか」
「それは、良い時に来る事が出来た。今夜は、テスカトルが家に帰って来たので顔見世に参ったのだ。俺達3人分の食事も頼む」
この親父、図ったな! 酒などないぞ。この屋敷に
「心配するな! 酒は持参した。それと今夜、俺達も泊めてくれ 頼む」
親父とお袋がいない事をいい事に好き勝手に言いやがって お袋とは、新しいお母さんの事
「屋敷の方がいいかと思いますが このような小さい屋敷にわざわざお泊りしなくてもよろしいかと思いますが」
「父さんの言ったとおりだ。とても クララと同い歳に見えないな! 俺は、テスカトルだ。フレイア家で長男をしている。今後も世話になると思うからよろしく頼む。
それと父さんから聞いたのだが 冒険者に憧れていると聞いた。これでも冒険者をしている。ランクもAAランクだ。十分に君の役に立つと思うぞ。学園を卒業した時には、俺の仲間にならないか」
とんだ曲者が現れたな どんな事をしても俺を離す気が無いみたいだ。
「こんな処で長話も何ですので 今、食事の準備を致します。パトリットお嬢様と同じ席でも構いませんか」
「それで構わない。それと酒の肴も頼む」
自分達の両親が入って来ても食事に夢中でそれ処で無くなっていた。食材が無くなる、一歩手前までやって来るのであった。そんな2人の姿を見た途端に この前の記憶が過る。
「テスカトル、余り味わうなよ。お前の妹みたいにあ~なるぞ、我々も少し前にあのような事になってしまった。今回は、少し腹を満たしてきたから問題が無いと思うが」
多分、大丈夫だ。
「そうよ。私も醜い姿を露わにしてしまったのだけど あの美味しさを知ってしまうと辞められなくなるのよ」
生唾を飲み込むのであった。
「もしや、それは毒で無いのですか。大丈夫なのですか、その様な物を食しても」
カイトが入って来て皿に生野菜とソースを持ってきた。
「問題がありません。それにイーナスお姉さまは、ここの処 僕の料理を食べておりますので肌艶が良くなってきました。昔に戻ったみたいに」
イーナスの顔を見た途端に この前の食事会の時よりも肌艶が見違えるほどに艶やかに成っていた。
「クララお嬢様も話に聞いておりましたが生野菜が御嫌いだと とんだ嘘つきでした。何度もお代わりをするほどに生野菜を食べておられました」
「カイトさんの料理が美味しすぎるのです。家では、これほどにも美味しい料理など出てきません。
お兄様も食べればわかりますわ。私が言っている言葉を理解できます」
テスカトルが生野菜だけを食すると普通の生野菜だったのだが ソースのみを一舐めして理解した。多くの野菜を磨り潰して作られており、手の込んだソースだと理解する。当然、生野菜にソースを掛けて食べれば、いつも以上に野菜の美味しさを感じながらフォークが止まらなくなった。
金色に光り輝くスープが出てきて パンが添えてあるのだが一口、口にした時点で全ての色が変わって舞い上がる気分に成り、パンを一口、口にしただけで椅子に座っている事を思い出した。お酒を飲むことを忘れて食事に没頭するのであった。グラスには、2人分の酒が入っていたのだが忘れ去られて食事に夢中になるのである。
酒の肴として2人に出したのだが パトリットお嬢様とクララお嬢様も食べたいと言い出してお出ししたまでは良かったのですが口の周りが火傷するほどに辛かったみたいで一気にお酒を飲んで撃沈してしまった。2人分が減ってしまった。厨房内では、メイド達から喜びの声が聞こえてくる。
そんな2人を見てか、領主様とテスカトル様が恐る恐る、フォークに刺して食べると不思議な味を味わいながらも酒が思いのほかすすむのであった。
「カイト君、この肉は何を使用しているのかな。教えて貰えないか」
「これですか。グリーンドラゴンの小腸部分です。カラペーニョと炒めました。簡単な塩コショウだけです」
「家に帰って来てレットボアの肉を食べた時も驚いたが まさか、グリーンドラゴンもイーナスさんが討伐しているとは思いませんでした。さすが国が認めた。賢者様なだけはありますな!
家のパトリットにも見習ってもらいたい」
「グリーンドラゴンは、私で無くて カイト君がこの街に訪れる際に上空に飛んでいる物を撃ち落としたみたいですね。私達兄弟にとっては、当たり前の事ですわ。
それ程にも驚く事でもありません」
テスカトルの顔が驚きを通り過ぎて カイトを見詰めるのであった。何を思ったか、
「学園など行かないで 我々の仲間になってくれ、冒険者に憧れているのだろう」
ロレツが回ってなくて何を言っているのか分からなかったが理解が出来るのであった。
「今からこれじゃ~学園に行ったら どうなってしまうのかしら この子ったら」
本心から カイトが欲しくなったみたいだ。名誉と名声が目の前にぶら下がれば、誰しもが欲しくなるという物らしい。
「それでもカイト君を差し出す積りもありません。フレイアお嬢様に伝えてありませんがカイト君が学園に来たら 私達と共に暮らしてもらう積りです。クララさまも同様で構いません。何も女子寮だけが住まいで無いと思います。ので」
パトリットの親指が上を向いた。
カイトが肉を持って部屋の中に入ると その香りだけでイーナス以外の者達が口から涎が垂れさがって待ちわびるのであった。