錬成空間
「まだ 10歳の子供に薬草の知識があるだけで受からせてくれる問題など無いのだぞ。私でも無理だ、何より計算が付いて行けない。数字を見ただけで頭が痛くなってしまう。
クララですら 2桁の計算が出来るようになったばかりだと言うのに」
イーナスが深い溜息で答える。
「何だ。イーナス、その態度は」
「カイト君は、魔法陣も描けるのです。薬師の資格よりも難しい。古代文字を理解しながら作成ができる子供が今更、薬師の資格で落ちるとでも思っているのですか。
私でも分からない。古代文字まで理解して今回のアイテムバックを作成しているのです。今現在も作成中です」
「ちょ・ちょっと待ってくれ 今現在も進行中の作成ってアイテムバックを作っているのか。それも10歳の子供が」
「フレイアお嬢様もカイト君に勉強を教わった方がいいですよ。このままだと進学が出来なくなってしまいます。私ですら卒論の本が見つかって カイト君からの意見を聞いている位ですので」
「ちょっと待て イーナスが教わるだと教師に間違いを指摘する貴様が か!」
「フレイアお嬢様が私を天才と呼びますが 私などカイト君の足元にも及びませんわ」
扉を叩いて カイトが中に入ってきた。
「イーナスお姉さま、声が大きいですよ。僕の部屋まで声が聞こえてきました」
クララの前までやってくる。
「初めまして カイト・ゴアボイアと申します。食事会の際に何度か、お見掛けしましたが声を掛けそびれてしまいすいませんでした。試験に受かりましたら あとの4年半、よろしくお願いいたします」
クララの前で片膝を付いて挨拶をした。どうしていいのか分からずに挨拶をするのであった。
「よろしくお願いします」
「パトリットお嬢様、イーナスお姉さまが失礼いたしました。許してやってください。僕を思っての事だと思います」
カイトの顔を見た途端に クララが一目惚れしてしまうのであった。
「挨拶も済みましたので この辺りで失礼いたします。作業が残っております。ので!」
「1つ、聞いても構わないか。カイト!」
「何でございましょう。パトリットお嬢様」
「イーナスが満点合格と言っているのだが そんな事が在り得ると思うか」
「問題を見てみないとわかりません。僕の知識など平民の知識と変わらないと思います。それに安易に試験を手抜きして落ちると言う事も可能かと思います。学園に行く事も良く思っていない自分もおりますので
一様、全力を尽くす積りではあります」
「面白い事を言ってくれるな! 最近、読んでいる本を見せてくれ」
カイトがアイテムバックから イーナスから頂いた本を取り出す。
「フレイアお嬢様、見ても分からないわよ。カイト君に差し上げた本は専門書よ。一般の人が見ても理解できないわ」
イーナスの言葉を聞いて 尚更、意味が解らなかったが中を見た時点で目が点に成っていた。
イーナスがカイトに渡した本は、古代文字が書かれており それに連立するように数字のみで書かれている物であった。一般の学生でも見る事が無いというほどに高度な本でもあったのだ。
特に魔法陣学を進む生徒が読む本でもあった。が 意味を理解する者など ほんの一握りしか存在しておらず、学園内の教師ですら読める者など存在もしておらず、研究機関の研究者が読む本でもあった。
「これは何の本だね。私が苦手とする。数字ばかり書かれているのだが」
パトリットが開かれている本を確認してから
「この本は、魔法陣学の基本を教えてくれる本です。数字が角度で文字が古代文字です。そして 連立するように数式で書かれていて 古代文字の意味も書かれているのです。
色々と参考になります。この本のお陰で進むのが早く済みました。今回は」
「君は、これが理解できるのか。・・・」
「その本の論文がこれ! カイト君が私に渡してきた物よ。私も卒論を魔法陣学にしようかと思って 私程度では意味も理解する事など無理だからね。カイト君にお願いしたの」
イーナスから手渡された書類に目を通すと またしても目が点になるのであった。
クララも本の中を見たが理解不能であった。
「僕からも1つ、教えて貰いたい事があるのですがお教え願えませんか」
「何だ!」
「錬成空間という魔法が 存在しているみたいなのですが どの様な魔法なのですか。教えてください」
「空間と言うくらいだから 異空間魔法の一種だと思うが聞いた事も無い魔法だな! どんな時に使われるかで分かるのだが誰が使用するものなのか、教えてくれ」
「薬師の方が使うみたいなのですが 僕の村には、薬師自体が存在していなくて 昔からのやり方で薬を作っておりました。僕も作っているのですが効率が悪くて 何か、いい方法が無いかと思っていた処、錬成空間が書かれている本を見たもので挑戦してみたいと思いまして聞いてみましたが やはり、分かりませんか」
「薬師か、屋敷に1人いるから聞いてみるといい。明日も暇だろう、迎えを寄越すから屋敷にイーナスと来るといい」
「明日ですか。明日から1週間ほど この街から離れます。1度、家に戻って本や身の回りの物を持ってこようかと思っております。今回も本と着替えしか持ってきておりません。服も新しく作り直さないといけないと思いますし」
「服屋なら紹介が出来るぞ。貴族向けのいい店を知っている」
「とんでもない事です。お高い店などに行ける訳が無いではないですか。自分で作ります。魔法糸と魔法陣で」
「魔法糸って イーナスのローブもそれで作ったのだろう。私にも作ってくれ」
「それは構いませんが パトリットさまの魔力量だと1ヶ月以上かかりますが構いませんか」
「カイト君、説明不足よ。フレイアお嬢様は、御自身の魔力で糸を編まないといけないのです。編んだ糸をカイト君が服に仕上げてくれます。私のローブも全魔力を使って3日も掛かったから フレイアお嬢様なら4ヶ月以上は、魔力欠乏症を苦しむ事になると思っておいてください。
魔力欠乏症ほど苦しい物がありませんからね。魔力回復ポーションも存在しておりますが使いすぎると効かなくなるのでご注意ください」
別の用途で作り出す事も可能だけど 長持ちがしなくなるし、少しの綻びで魔法糸が切れてしまうんだよな 言わないでおこう。
面倒事が増えそうだ。