主役はおいらだ!
ひだまり童話館の「びりびりな話」参加作品です。
よろしくお願いします。
僕たちはお空の学校に通っている。
日本の子どもたちは僕たちのことを見ると鬼だとか、コントだとか言うけれど、ちょっと違う。僕たちはお空でお天気のことを勉強している。
確かに頭には角があるから鬼みたいだけど、虎ガラのパンツを履いてるから鬼みたいだけど、違うからね?コントでもないからね?
「ピカーリ!」
ゴロゴロドンドン、騒がしい友だちがやってきた。
「うるさいな、ヨシ君」
「ごめんごめーん、チリッペは大きい音が苦手だったね。わざとじゃないんだ、つい嬉しくて」
ヨシ君はいつもこんな感じで、悪気はないんだけどなんかうるさい。
「嬉しい?何かあったの?」
「そうなんだよー。実はね、ここだけの話し“ひだまり童話館”がおいらのことを主役に選んでくれたんだよー」
何言ってるか全然わからない。ヨシ君って思い込みが激しいよね。
「どういうこと?そんなわけないじゃん。だいたい、ひだまり童話館が僕たちのこと知ってるはずがないんだから。僕たちの先生が文学フリマで素敵な童話の本を買って来てるって、童話館の人が知ってるとでも思ってるの?」
「そうだねー、きっと知ってるんじゃない?だって今回のお題が“ビリビリな話”だよ?おいらのことを知ってるから“ビリビリ”になったんだと思うんだよねー」
「そういうの自信過剰って言うんだよ。いい?“ビリビリ”じゃなくて“びりびり”だからね?君の雷のことじゃないよ、絶対」
ちょっと強く否定したら、それまで笑顔だった表情が抜けて急にどんよりと落ち込んだ。
ゴロゴロとヨシ君のお腹の辺りが変な音を立てている。
「よ、ヨシ君っ、落ち着いて」
「ううっ、だって」
ビリビリビリー!
「痛ってえ!」
電流がヨシ君のお腹から発射されて、僕の足へ直撃した。めっちゃ痛い。
涙目で足をさすっていると、今度はオロオロするヨシ君。
「ご、ごめんよー、つい」
「つい、じゃないよ!めっちゃ痛いんだからね!?」
あんまりにも痛かったからつい強い口調で言っちゃったら、またヨシ君のお腹がゴロゴロ言い出した。
「あっ、ヨシ君さすがだなあー、やっぱり雷ってかっこいいもんね。“ひだまり童話館”がヨシ君のことを主役に選んでくれたんだね、きっと!」
危ない危ない。
これ以上機嫌を損ねるとヨシ君の雷攻撃が止まらなくなっちゃう。
それでつい心にもないことを言ってしまったけれど、ヨシ君はあっさりと機嫌を直した。単純なやつだ。
立ち上がってニパっと笑う。
頭の大きなアフロの中で稲光がピカピカ光りはじめた。
とその時、背後から大きなドスの効いた声が僕たちを襲った。
「くおーら、お前たち!何をさぼっておるかあ!」
「「ひえっ」」
先生がやってきて僕たちのお尻を蹴っ飛ばしたので、僕たちは一目散に逃げだして自分の雲に乗り込んだ。
「あはははは、ヤン先生のあの顔っ、あはははは!」
「あははじゃないよ。あんな鬼の形相、怖かったぁ。さ、実習に行こう」
「うん、行こう!」
今日は海沿いの町に夕立と雷だ。
僕たちはいつも一緒に実習をしている。僕が大雨でヨシ君が雷で、ゲリラ豪雨を演出するんだ。
「よーし、今日もおいらの超絶カッコいい雷ボンバーアタックスペシャルが夜空に光るぜー!」
「その前に稲光だよ!カッコいいゴロゴロも頼むよ!」
「よっしゃあ!見てろよ“ひだまり童話館”おいらの雷を!」
“ひだまり”を売りにしている童話館に雷で参戦するヨシ君はどうなんだろうか。
ひだまり童話館のみなさん、ヨシ君は立派な雷様になるために鋭意修行中です。どうぞ温かい目で見守ってやってください。
そして、僕たちもうすぐ一人前になって、胸にぴりぴりマークが貰えるようになったら、また“ひだまり童話館”に出演させてください。
「なはははは、チリッペ、自信過剰~!」
ヨシ君が大笑いしながらドンドコ雷を落としている。
自信過剰はヨシ君だと思うけど、ま、いっか。
夜空をビリビリと引き裂くヨシ君の稲光に、自信過剰も良いんじゃないかと思う僕だった。