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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

所詮はゲームにおける確率の話に過ぎない

ポケモン実況とかフロム実況見るのってやめられないんですよね

この世界の住人には「レベル」というものが存在する。


レベルっていうのは、簡単に言えばどれだけ強いかを表す数字だ。みんな生まれたときから1だけ持っていて、この世界に蔓延るバケモノ共を倒すと手に入る力の残滓(経験値)が一定以上集まると数字が上がる。

俺達にとっては「息しないと死ぬ」くらいの常識で、数字が上がるほど足が速くなったり筋肉がついたりするから皆死なない程度に頑張ってレベルを上げようとする。


でも同時に、「レベル上限」とかいうクソッタレ極まりないものも同時に存在する。これも「何も食べないと腹が減る」程度には常識だが、これの所為で苦渋を飲んだ奴は数知れず。なんせ、レベルが上限値になるとそれ以上レベルが上げられなくなるし、ヒトによって上限値が違いやがるからだ。


そんなものがあれば、当然の様に格差も存在する。上限値が高い奴はどんどん出世していくし、良い待遇も与えられる。上限値が高いってのはつまりポテンシャルが高いって事だからな。目に見えてる当たりくじに投資しない奴がいたら、それこそバカだ。

まぁ、この上限値を自力で上げることができる"()()()()()"とかいう真の怪物の種族がいるけど、そんなのは俺には関係ないから割愛。


……あ?プレイヤーって何かって?そんなの遠い地からやってくる、バケモノ共の頭領たる"魔王"を倒す鍵を握る上位種族に決まってるだろ。

なんでも遠き地の泉にて生まれ、女神に示された道を歩む選ばれし者達、だったかな。強さはバラバラだし、俺より弱いままいなくなる事もあるけど、「死んでも女神の泉から再びよみがえる」ってところが俺達と決定的に違うかな。はは、神とやらも不平等だよな、こんな怪物作るんだからよ。


そんで、"魔王"を倒す鍵って言われてるからなのか、プレイヤーに気に入られると強くなれるんだぜ。【女神の慈愛】っていう課金(レア)アイテムをプレイヤーに使って貰うと、俺達のレベル上限を+10上げることができる。

プレイヤー自身の上限を上げる時に使う【女神の愛】っていう無償(ノーマル)アイテムとは違って簡単に手に入れることができないらしいけど、どう違うかなんて知らない。


で、決まってそんな貴重なものを使って貰えるのは重要なポジションの奴や顔のいい奴、元からレベル上限が高い奴ばっか。

俺達みたいな可愛くもないレベル上限値20のクソザコには、上位種族のプレイヤー達は見向きもしねぇんだ。



―――



「くァ……今日は暖かいな」


あくびをかみ殺しながら町を歩く。


俺の名前はダン。そんでここはどこかっていうと、女神の泉からそこそこ近い町ヨリミチ。ちょっと前までプレイヤー達で結構栄えてたんだけど、このあたりは俺でも倒せる俺以下のモンスターしかいないからすっかり寂れちまった。

今じゃあ俺より弱いプレイヤーがちらほらいるばっかりで、そいつらもレベル20になったらいなくなっていく。この町は農業しかしてないからプレイヤー達にとって居続けるメリット無いし、当たり前ではあるな。


「今日も狩りに行くか……」


俺はこの町に住みながらモンスター狩りで生計を立てている。もうレベルは上がらないけど、生きて行くには金がかかるから畑に群がる奴とかを倒して暮らしてる。レベル上限になってもう5,6年は経つ。上限になったときは絶望したもんだけど、今となっては何も感じない。


別にこの暮らしも嫌ではないんだよ。レベル5くらいの戦えない農民には感謝されたりするし、この辺で手に入る野菜やモンスターの肉もうまいし。もっと強いモンスターがいる所の野菜や肉はもっと美味いらしいけど、まぁ興味は無い。俺には手が届かない代物だ。


パトロールがてらブラブラあるいてたら、急にガタガタって音がしたから何事かと思ってそっちに走り出す。こういう急な騒音の時はだいたい農民がモンスターに襲われてるからだ。農民は弱いから1秒でも遅れると死んでしまう。ちょっと焦りつつも音の発生源へとたどり着いた。


でも今日は違った。



> プレイヤー:【 みかん 】Lv.12が救援を求めています。



女神の声(チャット)が空中で瞬いている。その下ではレベル7のモンスター、イヌドッグ1匹に足を噛みつかれながらバタバタと暴れるガキがいた。ガキはどうやら魔法使いのようで青いローブをいっちょ前に着こなしていたが、尻餅をついて暴れるガキからちょっと離れた所に杖が転がっている。魔法使いにとって杖は唯一の攻撃手段だというのに、まさかイヌドッグに襲われて驚いた拍子に手放したとでも言うのだろうか。


俺はここまでアホなプレイヤーがいるのか、と逆に感心した。女神の泉がある町ハジマーリからやってきただろうから、ある程度モンスターとの戦闘経験があるはずだし、レベルだって12だ。充分勝てる数字だし、その上イヌドッグはハジマーリ周辺にだって居る。

なのに、ここまで手も足も出ずにやられることがあるのか?


俺が思わず足を止めて眺めていると、ガキが此方に気付いたようで必死に手を振りながら勢いを増して暴れ出した。


>プレイヤー:【 みかん 】Lv.12が救援を求めています。

>プレイヤー:【 みかん 】Lv.12が救援を求めています。

>プレイヤー:【 みかん 】Lv.12が救援を求めています。


ぴろぴろと急激に並び始める女神の声を見ながら、俺はこのプレイヤーのなさけなさに悲しくなった。


プレイヤーとそれ以外を見分けることは簡単だ。プレイヤーには頭上に常に名前とレベルが表示されているが、プレイヤー以外には無い。だからあのみかん、とかいうプレイヤーは俺がプレイヤーじゃないことは分かっているはず。なのにああも必死に俺に助けを求めて、プレイヤーとしてのプライドは無いのだろうか。


ここまでされておいて見て見ぬ振りは流石にヒトとしてダメだと思ったので、俺は仕方なくみかんからイヌドッグを引き剥がして拳で殴る。ぎゃん、と悲鳴をあげたイヌドッグは光の粒子となるが、もうレベル上限の俺にはその粒子は入らずに消えていく。

晴れて自由の身となったみかんはバタバタと杖まで這いずって、すっくと立ち上がると俺に対してペコペコと頭を下げてきた。正面から見てやっと女だと気付いたが、礼儀正しい奴だ。


「もうイヌドッグ程度にやられるんじゃねえぞ」


心から出た言葉をみかんに投げて、パトロールに戻ろうと背中を向ける。プレイヤーを救ったのは実はコレが初めてでは無い。でも前回救ったプレイヤーはレベルが5だった。レベルが低いのにヨリミチに来てしまったプレイヤーだったんだろうが、今回はレベル12のプレイヤーだ。せめてこの町にいる間俺の仕事減らすくらいはして欲しいもんだが。


>プレイヤー:【 みかん 】Lv.12がNPC:【 ダン 】Lv.20にパーティ申請しました!


「あ?」


突如として目の前に現れた女神の声に、すぐに後ろを振り向く。真剣な顔つきをしたみかんと目が合った、かと思うと彼女はあろうことか俺に頭を下げやがった。


パーティ申請ってのはプレイヤーだけが使える力だ。同じパーティに登録されてる仲間の居場所や体力が分かるし、自分の攻撃が仲間に当たらなくなって結構便利だ。ちなみにパーティ仲間にしか使えないアイテムもあったりする。女神の慈愛とか……。

そしてこれがパーティの最大のうまみだが、仲間が倒したモンスターの力の粒子が()()()()()。それを利用した寄生プレイ?っていう戦略もあるらしいが、今こいつにされた申請は明らかにみかんにしかうまみが無い。


俺にみかんの倒したモンスターの力の粒子は入らないのに、みかんには俺が倒したモンスターの力の粒子が入るんだぜ?プレイヤーにはレベル上限が実質無いようなモンだってのに。

頭が痛くなって思わず手で目元を押さえた。


「お前……」


明らかに俺が損する申請だなって言おうと思ってみかんの方をみて、つい言葉に詰まる。

みかんは俺の方をじっと見つめていた。

俺に断られるのが嫌だ、とでも言いたげな悲しい顔だった。


天下のプレイヤー様が、こんな辺鄙な町のレベル20の雑魚にする顔かよ。


プレイヤーは喋らない。俺達とのコミュニケーションは主に筆談か、やたらと豊かな表情とボディランゲージだ。プレイヤー同士は会話できるらしいけど詳しくは知らない。だからこそあの顔がプレイヤーにできる精一杯の意思表示だ。

ついみかんの戦いのショボさっぷりを思い出す。動きが単調な上に遅いイヌドッグ相手にアレだったのだ。これからどうやって強くなっていくのだろう。レベル差が10くらいないとモンスターを倒せないのでは無いか?そう考えると無性にこの「みかん」というプレイヤーが哀れに思えてきた。


「……まぁ、いいか。暇つぶしにはなるしな」


>NPC:【 ダン 】Lv.20がパーティ申請を受理しました!


しぶしぶと頷けばみかんは何がそこまで嬉しいのやら、満面の笑みでぴょんぴょんとその場を跳ね回った。ガキっぽい無邪気な喜び方だが、随分と大げさな奴だ。なんせ俺は今までプレイヤーの誰も見向きもしないような平凡な面したつまらない男だ。申請を受け取ったから何だというのか。

不意に立ち止まって何やら女神の教え(ウィンドウ)を触りだしたみかんを見れば、体力が半分を切ってた。魔法使いの体力は確かに他の職と比べれば低いが、イヌドッグ相手にそうも減らされるとは……。



>【女神の慈愛】を消費しました。

>NPC:【 ダン 】Lv.20のレベル上限が30になりました。



絶句。


俺が宙に浮かぶ訳のわからない女神の声をあっけにとられて眺めている間、みかんは俺の顔を覗き込みながら腹の立つにやつき顔で様子を窺ってきやがる。


……かつては夢にまで見て、それでも救いの手が差しのばされない事実に打ちのめされて絶望し、今ではすっかり諦めきっていた、レベルの上限解放がこれほどあっさり行われるものだとは思わなかった。あんなにも切望していたことが叶ったって言うのに、俺は素直に喜ぶことができなかった。


寧ろ……このみかんとかいう呑気で、弱くて、余りにも無知なプレイヤーに、激流みたいな怒りが湧き上がった。


「お前……っ、馬鹿、なのか?」


今すぐにでもぶん殴ってやりてぇ気持ちを必死になって抑えて、それでも漏れ出る怒りの所為で情けないほど震える声が口から出た。みかんは俺の態度が予想外だったのか、顔を強ばらせて驚きと怯えの混ざったような曖昧な表情を浮かべて、俺から一歩後ずさった。なんで俺がこうなったのかさっぱり理解できないらしい。

そうだろうな、プレイヤーが理解できるわけ無いんだよな、俺だってこの怒りがただの八つ当たりだってことは分かってる。それでも抑えることができなかった。


「このっ、このアイテムが……どんだけ貴重で……ッ、欲しい奴が、山ほどいる、ってのに……俺に使うとかっ、お前、イヌドッグに手こずるだけ、で、なく……お前ッ……!」


ちっともおかしくないのに口角が勝手に上がって、握りしめた拳がぶるぶると痙攣する。言ってやりたいことが山ほどあるのに、出力されたのはこれだけ。くそっ、こんな筈じゃなかったってのに。俺はただ、このめちゃくちゃ弱いプレイヤーを助けていつも通りの日常に戻るところだったのに。

みかんは俺の言葉をどう解釈したんだか、きょとんとした顔で首をかしげた後、やたらと優しげな笑顔で小さく首を振った。思考なんか読めねえけど、何か誤解されているような気がしてならない。


とはいえ、アイテムを使われてしまった以上俺に拒絶権なんてなかったし、プレイヤーが何を考えてるのかサッパリ分からないのはいつものことだ。上限が解放されてしまった以上町の顔なじみには質問攻めにされそうだし、いらない嫉妬や羨望が突き刺さりそうだ。


クソッタレが、ヘラヘラしやがって。誰の所為でこんなに動揺してると思ってるんだ!


「……後悔するぞ」


辛うじて絞り出した言葉に、みかんはぶんぶんと勢いよく首を横に振った後一瞬で女神の元へ帰還(ログアウト)しやがった。当然、それと同時にパーティは解除された。卑怯者!



―――



それからというもの、俺の人生はすっかり様変わりしちまった。


案の定知り合いには質問攻めに遭って、羨ましいだとか色男だとかいろいろ好き勝手言われた。

予想外だったのは、面と向かって罵倒してきたりする奴がいなかったことくらいだ。影でグチグチいわれてたりするんだろうか?


あと知らなかったんだが、レベル上限になっても力の残滓はしっかりと蓄積されていた。あの後一晩寝たら今までの分が一気に放出されてあっという間にレベル30になっちまった。ここまでくるとこの辺のモンスターは本当に相手にならない。モンスターによって倒し方をパターン化してたんだが、全部ワンパンになった所為で何も考えなくなった。


レベルは上がったがやることは変わらず、アレはもしかしたら夢だったかもしれないって思い始めた頃。数日ぶりにお目覚め(ログイン)したみかんからのパーティ申請が飛んできて、俺は逃げた。

そしたらどっかから湧いて出てきた知り合いだのプレイヤーだのが俺を押さえつけてきやがって、俺は半ば無理矢理レベル上限を上げさせられて、そんなことがもう1回起こって最終的に俺のレベルは42になり、ヨリミチ1レベルが高くなっちまった。もうお前らとは絶交だ。


もう家に籠もってやろうか、なんてことを考えてればみかんがどっかからレベル40くらいのプレイヤーに俺を紹介しやがって、奴らは「前衛足りなくて不安だったんだよねー」とかほざきながら俺をダンジョンに連行した。

まぁ、前衛ではあったけど死んだら後が無い俺はかなりプレイヤーに庇われてたな。毎回庇ってくるからちっともHPが減らないのに、保険とか気休めとか言いながらどんな攻撃でも気合いでHPを1残せるスキルをとらされた。そこまでする必要あんのかよ。

どうやらみかんが特別馬鹿な訳では無く、プレイヤー自体が馬鹿だったらしい。俺、結構プレイヤーのことをフィルターかけて見てたんだな。


そんなことを何度も繰り返されて、レベル上限に達する度にみかんが俺に女神の慈愛を使用した。ご丁寧にみかんの愉快な仲間達は俺のレベルと職業(俺は武闘家)にあった装備まで用意してくるもんだから、ひょっとすると俺はプレイヤーなのか?と思ったが俺は女神の元へ帰れないので俺はプレイヤーではなかったらしい。

あ、ちなみになんだが、流石に申し訳無かったから装備分の金は払ってる。偉いだろ?


……なんで逃げ出さないのか、って?

そうだな、確かに皆がいなくなった時間にでも逃げ出して、人の多いところで身を潜めていればみかん達に見つからず平穏な生活ができるかもしれないな。こんな愚痴零してる暇があるなら一歩でも多くあいつらから離れれば良い。

俺も最初の内はそう思ってたさ。レベルが上がるほど、レベルを上げるために危険なところに行かないと行けなくなって、結果死ぬ確率が上がるんだから。

この世界では生きたいならプレイヤーから離れて暮らした方が良い。


でも、プレイヤーに連行されてダンジョンに来たとき、うっかり思い出しちまったんだ。ガキの頃の、英雄になりたかった頃の気持ち。


今更何夢見てんだ、って言われるかもしれない。

けどよ、仕方ないだろ。

クソガキなら必ず一度は思い浮かべる、自分が魔王を打ち倒すなんて英雄譚みたいな冒険をしたいと願ったそれを、かつて無理だと嘆いて諦めた心躍るそれを。


たった一人のプレイヤーの気まぐれで叶っちまったんだよ。


嬉しくない訳無いだろ。


逃げ出す訳無いだろ。


感謝、してない訳、無いだろうが。



……みかんが目覚める頻度はそれほど高くなくて、レベルもあんまり上がってない。このままだと一生ヨリミチに住むぞって揶揄っても効果は無かった。

どんどんレベル差が開いていく俺を時折眺めに来ては、楽しそうに俺を連れ回して自慢して、調子に乗って、相変わらず弱いモンスターにすら苦戦しては俺に助けられて、満足げに笑って、女神の元に帰って行く。

プレイヤーの行動は基本意図が分からないが、みかんのすることは一層輪を掛けて理解できない。何の為に俺を強くしているのか全く分からない。以前聞いてみたときは「ギャップ萌え」とかいう訳の分からん言葉で誤魔化されちまった。


俺はいつか必ず、みかんがくれた物に匹敵するようなモンを返さないといけない。

なんだかんだかなり仲良くなったダンジョン仲間のプレイヤーに相談したときは気にするなと言わんばかりに笑いながら背中を叩かれたが、こんなにレアな物を与えられておいて何も返さない、というのは俺が納得いかない。

レアアイテム相応の借りを返したい、と訴えるとプレイヤー達は苦笑いで顔を突き合せ、無言で肩に手を置かれた。なんなんだこいつら。


まぁ、返したいと言ってもすぐに返せそうな物が思い浮かぶわけでも無く……。



そんな怒濤の生活が始まってから2ヶ月たち3ヶ月たち。とうとう俺のレベルは90になった。



―――



ヨリミチみたいな辺境の町でレベル90は余りにも目立つ。肩身狭く感じながら相も変わらず寂れた町を歩いていれば、もはや見慣れたパーティ申請が飛んできて俺はすぐに承認した。


>NPC:【 ダン 】Lv.90がパーティ申請を受理しました!


後ろから聞こえる足音に振り向けば、レベル46になったみかんが俺の元へと走ってくる。みかんの戦闘センスは本当に壊滅的で、レベル差でゴリ押せる雑魚相手にちまちま力の残滓をあつめた結果このレベルなのだ。俊敏なモンスターが怖いから、と言って未だにヨリミチに住み着いている。


「今日は何しに来たんだ、みかん。デートか?」


俺がそう言うと、みかんは真っ赤な顔で四肢をばたつかせて興奮しながら頭を縦に振る。ちなみにデートというのは唯の比喩で、別に付き合ってない。恋愛対象としてはみかんの見た目は俺にはちょっと幼すぎるし、挙動がいちいち気持ち悪いのでそんな関係にはならない。


周囲は何格好付けてんだとかって言ってくるが、本当にそういう目で恩人を見たくないし本当に挙動がキモいから友人止まりで勘弁して欲しい。絶対に恋愛感情は抱かない。ちなみに、本心は誰にも言ってない。



>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90のレベル上限は既にMAXです



「……お前なぁ、これ何回やるんだよ。そろそろ飽きろよ」


ピピッ、という耳障りな音と同時に女神の声が空中で瞬く。俺が呆れながらみかんのほうを見ても、クスクスと笑うばかりで全く反省も飽きている様子も無いことが窺えて俺はため息をついた。


そう、この世界においてレベルは100までで打ち止めなのだ。これはプレイヤー・プレイヤー以外で差は無く、世界共通のものらしい。そう、俺は現在最強と名高い魔王城最寄りの街タロスに住むプレイヤー並のレベルにまで到達した。つまり8個もの女神の慈愛をみかんから受け取ったことになる。


……こんな数受け取ることになるって前の俺が聞いても、絶対に信用しないで鼻で笑うんだろうな。


みかんはレベル上限がMAXになったことがよっぽど嬉しいらしく、先程の様にもう使わない女神の慈愛を俺に使っては使用失敗して楽しんでいる。やめろって一度俺が頼めば多分やめてくれるんだと思うんだが、伸びた髪を揺らして喜んでいる姿を見せられると流石にやめろとは言えない。

自分が上限に行った訳でも無いのにこんなによろこべるのは一種の才能なんじゃないだろうか?



最近はダンジョンに行っていない。何故ならいつも共にダンジョンに行くプレイヤー達がタロスに居るからだ。なんでも新しく鉱床が発見されたとかで、ミーハーなプレイヤー達は我先にとこぞって採掘に向かったそうだ。みかんはレベルが足りないし、俺は関係無いので行っていないが、今はかなりのプレイヤーがそこに集まっているらしい。


ダンジョン攻略も楽しいが、こうして町でのんびり過ごすのも良いものだ。ってか、いつぶりなんだろうな。町で何の目標も無く、ただ周辺のモンスターを狩るだけの生活は。俺のレベルが上がりすぎた所為か、周辺のモンスターがめっきり減ってしまったそうだが。


1回のびをしてから、みかんを横目で見て外へと歩き出す。


「まぁデートといってもどうせやること無いし、さんぽにでも行こうぜ」


みかんは嬉しそうに笑いながら俺の後ろをついてくる。余りにも従順な行動に、脳裏にプレイヤーが使役していたイヌドッグがよぎる。一応その映像を振り払ってから外に出ようと――



>【啓示】条件達成:"試練"が解放されました



「……なん、っ!?」


ビーッ、ビーッ、と凄まじく不快な爆音が周辺一帯に鳴り響く。住民は何事だと家から飛び出し不安げに辺りを見渡し、みかんすらも何が起こっているのか分かっていない緊張した面持ちで俺の顔を見た。

住人の動揺をよそに、鼓動が早くなりそうな音はけたたましく鳴り続ける。



>【WARNING!】ヨリミチ地方の魔王石が活性化しています!

>【WARNING!】ヨリミチ地方の推奨レベルが急激に引き上げられます!

>【WARNING!】ヨリミチ地方の推奨レベルが"10"から"85"に引き上げられました!



空中に浮かぶ女神の声は見たことも無いような大きさで、本能に訴えかけてくるような真っ赤な光をチカチカと音に合わせて放っていた。

どれもこれも知らない言葉ばっかりで、何が起こっているのかさっぱり分からない。ただひたすら、これから良くないことが起きるって居るのはこの場に居る全員が分かってた。


なんだよ、推奨レベル85って。魔王石って何だよ、魔王は城にいるんじゃないのかよ。



>【WARNING!】ヨリミチ地方の魔王石が活性化しています!

>【WARNING!】ヨリミチ地方の推奨レベルが急激に引き上げられます!

>【WARNING!】ヨリミチ地方の推奨レベルが"10"から"85"に引き上げられました!



うるせえな、何度も光らなくても見えてんだよ!早くこのうるさい音を止めてくれ。さっきまで晴れてたくせに、なんでこんな急に強風が吹き始めるんだよ。おかしいだろ全部!


「どうなってんだ……何か分かるか、みかん?」


みかんは心臓の辺りを手で押さえて、緊張した面持ちのままこくんと頷いた。ここまでみかんが恐れているのは珍しいから、俺もつい怯えそうになる。しっかりしろ!俺はこの町唯一のレベル90だ、俺が動揺するわけにはいかない。

なのに、ビーッビーッという鳥の鳴き声を何重にも重ねたような不協和音はずっと続きやがる。この音が悪い、大丈夫だ、俺がしっかりしないと……!



>【WARNING!】魔王石の結界:ヨリミチのワープホールが破壊されました!

>【WARNING!】魔王石の結界:ヨリミチのワープホールは使用不可能です!

>【WARNING!】魔王石の結界:ヨリミチへの転移魔法は使用不可能です!



「わーぷほーる……使用……?あれもプレイヤー関係なのか、みかん!?……みかん?」


みかんの方を見ると、真っ青な顔でブルブルと震えながら両腕をぶらんと垂らして、その場に立ち尽くしていた。ぞわ、と嫌な物を感じてばっと町を見渡すと、プレイヤーを中心として混乱の波がさざめき始めていた。


不安を捲し立てる者、家へと逃げ込む者、どういうことだと仲間と怒鳴りあう者。プレイヤー・非プレイヤー関係無く、増幅させられた不安と恐怖が相互に作用し暴動にまで発展しそうな勢いだ。

このままだと不味いが、落ち着けって叫ぶことしかできない。くそっ、みかんの反応が予想外でうろたえちまった。なんとかしないと……!


なんて、気持ちが通じたのか。


ぷつん、とあの嫌な音が突然女神の声と共にかき消える。


だが、終わったのか、なんださっきのは虚仮威しか、なんて誤魔化す暇も無く。この空気に全く似合わない軽快なラッパのファンファーレが響いて、綺麗な女性の声が降りてきた。



『我が子達よ、試練が訪れました』



「……女神」


誰かが呟いた。



『悲しく苦しいそれを、必ずや乗り越えねばなりません』



何言ってんだ、こいつは?

教えろよ。

おい!



『大丈夫、私は犠牲を忘れることはありません。私が付いております。どうか、手を取り合って、打ち倒すのです――魔王を』



>【試練が訪れました】レイドボスモンスター:"魔王"ベルゼヴヴが現れました

>【試練が訪れました】レイドボスモンスター:"魔王"ベルゼヴヴが現れました

>【試練が訪れました】レイドボスモンスター:"魔王"ベルゼヴヴが現れました


>推奨:Lv.85以上 30人



「なんだよッ、あの、バケモンはよ……!?」


その場に居る奴らの中で、唯一俺だけが絶望していなかった。

その場に居る奴らの中で、唯一俺だけが動くことができた。

その場に居る奴らの中で、唯一俺だけがそれを正しく認識しちまった。


轟音の産声を上げながら、ドス黒い土煙と共に地上へと現れたその()()は、一見畑から出てくるいもむしみたいな形をしていた。

だがそれは余りにも巨大すぎて、木々がまるで雑草のような大きさになっていた。生理的嫌悪をもたらすような鳴き声と1つだけの目、数多の触手、中の赤黒い内臓が透けて見える醜悪な見た目は他の何とも比較にならず、俺すら吐き気を催し恐怖を引き出された。他の奴らは泣いて逃げ出して気絶して、まさに地獄絵図だった。


「なん、なんだよっ……このっ、クソッタレがァァァァァ!!!!!」


そしてそのレイドボス、とかいう訳の分からん存在は、確かにヨリミチの町へとまっすぐ、全てをなぎ倒しながら向かって来ていた。このまま奴を放置すれば、ものの数分で奴はここへと辿り着いてしまうだろう。

そうなったら、ここに住んでる奴らは……どうなる?



この町で唯一あいつに対抗できる俺にできることは何だ



「……おい、みかん!」


降り積もった未知への恐怖が決壊して暴れ出す住人から一度目を逸らして、みかんの方に顔を向けた。みかんも呆然としていたけど、俺の声に反応して顔をあげた。その目には怯えを確実に孕ませてはいたが、はっとしたかと思うと何かを決意したみたいに頷いた。


「……は、なんだ。お前、プレイヤーみたいな顔できたんだな」


あ、いつもみたいな頼りなさそうな顔にもどっちまった。ぽこぽこ叩いてくるけど、レベル差があるから1ダメージにもならない。

本当に、こいつ弱いなぁ。死んでも生き返れるプレイヤーの方がずっとこの地に生きる俺達よりも早くレベルが上がるのが普通だってのに、こいつはまだ弱いんだ、俺よりずっと弱いんだ。

本当に仕方ない奴だ。


「緊張がほぐれたらしいところで……お前に、頼みたいことがある」


真面目くさった顔で頷かれると、ちょっとむず痒くてやりづらいんだけどな。そんなに杖を強く握ったって、魔法が強くなるわけでも無いだろ?


本当に、このみかんって奴は最初っからさいごまでプレイヤーらしくない奴だった。

いつまで経っても弱いし、こんな辺境の町の地味な雑魚(モブ)に貴重なアイテム湯水のように使ってさぁ。俺は知ってるんだぞ、女神の慈愛の代わりにもっと強いものを自分のために手に入れることができるって。自分が強くなる為にそういうのを使わないとか、本当に馬鹿で、あ、ダメだ。そんな状況じゃないのに勝手に顔が笑っちまうよ。


だからこそ。


「この町の皆を、北のフタツメの方に避難させてくれ。この町で2番目にレベルが高いのはお前だ、頼む!それと……悪いけど、お前の課金(レア)アイテム全部ドブに捨ててくる」



>NPC:【 ダン 】Lv.90がプレイヤー:【 みかん 】のパーティから離脱しました。



何か反応を返される前に、みかんに背中を向けて勢いよく走り出す。武闘家は足が速い。それもレベル90ともなれば、プレイヤーですらなかなか追いつくことは難しい。みかんの魔法使いみたいな足の遅い職業なら、尚更。


見慣れた畑をひとつ瞬きの間に通り越し、みかんと出会った場所を一歩で走り去る。草原を越え、木々を避け、あっという間に辿り着いてみせれば、このバケモンのでかさとその強さを肌身で直接感じることとなった。


「Guoooooooooaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」


「はっ……これが魔王だ、ってか」


ベルゼヴヴとやらはたった一人で近付いてきていた俺にとっくに敵対心を抱いていたようで、背筋が凍りそうな声で大きく唸ると身体から生えている触手をしならせ、即座に俺へと叩きつけてきた。凄まじい早さではあったが、機動力がウリの武闘家(オレ)ならば見てから避けることも容易い。


「ガバ照準(エイム)がよ、当たるわけ……ッ!?」


ぼぎょん、なんて聞いたことの無い音に思わずそちらを見やれば、地面に人一人飲み込みそうな程大きなヒビが生まれていた。魔王名乗ってたらこんなデタラメみたいな攻撃も許されているらしい。


「まずい、目線を外して……」


ゴリ、



「が  は ッぇ" ヴ」



熱い


おれの 腹 折れ ?


どうな って る


あ 人間ってこんな 


ボールみたいに


飛べるんだな



……




抵抗(レジスト)成功!:気絶 → NPC【 ダン 】Lv.90


「……ッだぁッは!!!気絶しかけっ、げほっ……デタラメが……!!」


今すげぇ危なかった!!魔王の攻撃の威力にきを取られて、2本目の触手を左の脇腹にもろに喰らってしまった。HPが一気に半分以上も持っていかれた。なんだよ、この装備は何十回とダンジョンを往復してようやく手に入れた貴重な素材ふんだんに使って大量に金払って作ったんだぞ?それなのにこれかよ、ふざけやがって。


だが不幸中の幸いって奴なのか、俺が吹き飛ばされたのは頼んだ避難地とは逆の、南の方角だ。ちょっかいを出してきた俺をとっとと殺したいらしくて、魔王は進行方向を俺の方に変えた。よし、最初の計画よりずっと不味い状況だが、作戦は成功したようだ。


あとはどれだけ俺が魔王をヨリミチから離せるかの勝負だ。


「来いよ魔王。プレイヤーでもない、唯の瀕死の人間一人、殺せないとは言わせねぇぞ?」


俺も英雄ごっこに高揚してるのかもしれない、なんとなくクサい台詞で魔王を手招いてみせる。こんなとこみかん達に見られたら1週間は揶揄われるだろうな。


「Gaoooooooo!!!!!!!」


気色の悪い動きをしながら全身を震わせてこっちに襲いかかってこられると、挑発に乗ったみたいに見えるな。木を雑草みたいに踏みつけて、雑魚モンスターを虫みたいに轢き殺しながらこっちに何本も触手を伸ばしてくる。もう油断しない、数が多いと避けるのが難しくてかすっちまうけど、直撃よりも何百倍もいい。


付かず離れず、行ったり来たりを繰り返す。触手の猛攻が止んだら慎重を期して拳を突き立てる。俺一人じゃあ微々たるダメージだけど、勇敢(愚か)にも魔王に牙を剥いたモンスターでは1ダメージも入ってないのを見るに、傷を付けられているだけマシらしい。


魔王もナリは遅そうだけど、身体がデカいからみるみるうちに町から離れていく。もう何分経ったのかちっとも分かんねえけど、町から少しでも離れてから死ねたらいいな、って思う。


ああそうさ、俺はハナから生きて帰れるとは思ってない。ここで死ぬと思って、ここにいる。俺が自己犠牲とか本当、らしくねぇなって思うけど……仕方ないんだ、この町では俺が()()()()()()()()んだぜ。仲良い奴がいる、仲悪い奴もいる、そんな奴らがあの町には沢山いる。みんな魔王より足が遅いから、こうするしか生かす方法は無い。

それに、あの町を失うわけにいかない理由がある。


「本当ッ、信じられない話だけど、さァッ……!」


津波のように襲い来る触手にジャンプで飛び乗り、口から吐き出してくる腐食液っぽいものを回避しながら触手に当てる。魔王は自分で自分にダメージを与えて苛立ってるみたいで、大きく嘶いて攻撃の手を強めてくる。おいおい、俺が悪いってのかよ?


「あの町にはっ、雑魚にも勝てない、プレイヤーがいんだよ……!」


>防御力低下! 5% → NPC【 ダン 】Lv.90


回避しきれない量になった腐食液を浴びてしまって、その部分の装備がふやけてしまった。あーあ、あの鍛冶には乱暴に扱うなって言われてたんだけどな。

HPはそろそろ3割を切る。自分でも結構耐えられてるほうなんじゃないか?


「薄々わかってんだ、プレイヤーの世界は、()()()()()()()()ってこと位!!」


今まで誰にも言ったことが無いことが、痛みと死への恐怖と焦りとでぐちゃぐちゃになった感情のままに口から滑り落ちてくる。

腐食液の所為でかすり傷すらも侮れないダメージ量になってきちまった、残りHPは2割。


「でも俺にはここしか無いから……っ、借りを返すにはっ……いや違う、()()はこれじゃない!!」


自分でも()()()()()()()()()()()()()()だと思っているから、誰にも言わずに居た事を勝手に喋ってしまう。俺もこんな英雄みたいな状況に酔ってるのかな……はは。



俺はみかんに恋愛感情を抱いていない……けど、俺はみかんが好きだ。

ああそうさ、好きだよ彼女が。まっすぐと俺を見るその目の所為だ。

正直言って好きにならない方がおかしくないか?ああも尽くされて特別な感情が湧かないわけ無い。


でも俺はコレを恋愛感情、なんてそんななまっちょろいもんじゃ無いことも分かってる。

俺のこれはそんなものよりもっとタチが悪くて、自己中な感情だ。


だからみかんを傷付けてしまうってのを重々承知で今ここにいる。



「あいつを俺の近くに縛り付けるには、みかんが俺を()()()()()()()()()()にはッ……コレしか無いんだよ!!!」


エゴしかない激情を拳と共に魔王に八つ当たりみてぇに叩きつける。どうやら弱点に直撃(クリティカル)したらしく魔王は小刻みに震えながら触手を波立たせる。気持ち悪い動きだな、俺と同じくらい。


「Giaaaaaaaaaoooooooooo……!」


しゅるり


「っ、え」


>行動不能! → NPC【 ダン 】Lv.90


嘘だろ、突然地中から触手突き出して拘束とかありかよ。30人推奨の意味が今、やっと分かった気分だぜ、反吐が出る。


動きを止めて満足したのか、あざ笑ってるのか、喜んでるのか。とっとと殺せばいいものを、魔王は鳴き声をあげながら触手と無駄にでけぇ身体を震わせている。まぁ、俺としては時間が稼げるならいいけどさ。


いつの日も悪は滅びる運命か。俺も結構時間は稼げたようなものなんだから、此処でくたばっておくのが一番丸く収まるかもしれない。せめて一人のプレイヤーの心に残るようにって戦っては居たけどこんな不純な動機だと死にもするか。まぁ、悪くない人生だったとは思う。


うわ、横から触手にひっぱたかれんのかよ。こんな拘束のしかたで横から殴るとか、首飛ばす気満々じゃ――






「あ、?」


目の端に映る、北からやってくる謎の集団。

中にいるのは、見慣れた色のローブを着た少女。

ひとたび魔王が触手を振るえば、瞬く間にチリと化しそうな弱っちぃレベルの……



>発動!【スキル:首皮一枚】:NPC【 ダン 】Lv.90


「……あ、あああ、あああアアアアアアアアアア!!!」


何で逃げてないんだとか、なんで来たんだとか色々言いたいことあれど今魔王に後ろを振り向かせるわけにはいかない!!!くそったれ、なんで拘束外れないんだよ、クソッタレが!!

何にせよ俺はまだ生きてる、生きている限り魔王の目線の先(ターゲット)は俺のままだ!!

まずい、あいつらが近付いてくる。俺のレベルの半分にも満ちてないくせに!!


「馬鹿野郎共が!!!なんで逃げてないんだっ、早く帰れよ!!!って、げふぁ」


>発動!【スキル:首皮一枚】:NPC【 ダン 】Lv.90


「……ッ、ぅあ"ーっ、くそ」


俺の拘束は解けない。ああもう、頭を横に振るんじゃねぇよ、戻れよ!

なんでか俺はまだ生きている。なんで耐えてんのか、自分でも分からない。俺の知らない何かが俺を無理矢理HPを1だけ残して生かしてる。

……たしかこのスキルの発動条件って、女神の気まぐれ(低確率)じゃなかったか?本当に、気まぐれやな女神様だことだ。だったらあいつらが死なない程度に俺を生かしてくれ。具体的に言えば、あいつらが魔王に気付かれる前にびびって帰るまで……ぐふぇ


>発動!【スキル:首皮一枚】:NPC【 ダン 】Lv.90


「……」


3度目の発動。

本当に、女神というものは気まぐれが酷いらしい。プレイヤーが嘆くのも分かる。なんせその気まぐれで俺に残業を強いてるんだからよ。だが、あいつらは帰る様子がまるで無い。

おい女神様よ、約束が違うじゃねえか!あのままだとあいつら呆気なく死んじまうよ。なんのために俺がここで頑張ったと思ってんだ、8個も慈愛貰ってんだから今更俺に慈悲を与えない、なんて言うなよ!!


あっ、また触手が、流石にこれは……耐えられなさそうだよなあ。






まぁ、結論から言えば俺の首は飛ばなかった。

というか、プレイヤーが見ているところでは女神の規律(システム)が発動して四肢が欠損したりしないらしい。女神っていうのは随分とプレイヤーにだけ過保護なモンだな。


それとみかん達も死ななかった。気付いてなかったけど、みかんたちのもっと後ろの方から勢いよくダンジョン攻略仲間とか、いろいろ強そうな見た目したプレイヤーが山ほど現れてものすごい勢いで魔王のHPを削っていった。30人どころじゃ無い、40,50,60……町ではまず見ないような数のプレイヤーが同時に戦うのは初めて見たな。縦横無尽に動き回って、虹色の光が放出されて。物語の英雄の戦いって、あんな感じなんだろうな。


俺は、魔王の一撃をもろに食らって……さっさと意識でもなんでも無くなっちまうもんだと思ってたんだが、どうしてかまだ意識があった。HPはしっかり0になってるくせに、これも女神の気まぐれか?だったら女神に感謝しておいた方がいいかもしれねえな。


まさか逃げずにこっちに向かってきていたとは思わなかったし、ってか町での別れが最期だと思ってたから盛大に格好付けて出てきちまったじゃねえか、恥ずかしい。強いプレイヤーが来るまでの時間を稼ぐだけ稼いだら、あとはさっさと退場するもんだと思ってた。アレだ、俺の事は良い先に行けー、ってやつ。王道の英雄じゃなくても格好良いよな、それも。


あぁ、泣くなよ。みかんってこんな大粒の涙こぼして泣けたんだな。本当にびっくりしたから思わずそのっま口に出したら、顔真っ赤にしてぽかぽか殴ってきた。おいおい死体を殴るなよ、丁重に扱ってくれ。

悪いな、俺は結局は主人公(プレイヤー)にはなれなかった。折角みかんがここまで貢いでくれたってのに、あともう一回の攻撃を耐えることもできなかった。流石に俺が女神の気まぐれを4回も受け取ることはできない、って訳だな。いやそもそも1回受け取れただけでも貴重、なんだろうな。


なぁ、いつまで泣いてるんだよ。俺が死ぬことは、所詮はこの世界(ゲーム)における女神の気まぐれ、って話に過ぎないだろ?こんな辺境の、顔が良いわけでもない執着心が強い男捕まえてないでさっさと次行けよ、次。それともお前はこういう顔が好みだったのか?


……あ?俺?俺はもう良いよ。満足したよ。ここまでお前に思われてるって知れたんだ、あんなみみっちいことしなくても、お前の中に俺がいるなら、其れで満足だ。


なぁ……お前はさ、もしもこの世界(ゲーム)崩壊する時が来る(サービス終了する)としてさ。お前は……この世界でも結構どうでもいい存在の、おれのこと おぼえ





>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています

>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています

>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています

>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています

>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています

>NPC【 ダン 】Lv.90が死亡しました……

>アイテム使用失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90は既に死亡しています



>蘇生失敗! → NPC:【 ダン 】Lv.90はプレイヤーではありません




>アイテムを入手:【隻眼龍の籠手】

>アイテムを入手:【隻眼龍のブーツ】

>アイテムを入手:【モグラガード+++】

>アイテムを入手:【修道者の鉢巻き】

>アイテムを入手:【一途のチョーカー】

>ここには何も無い。






>ここには何も無い。

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