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ねこぐらし。~猫耳娘の転生生活~  作者: CANDY VOICE
第一章【ミケ、成長する】
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09 『クロの呪い』

「待ってミケちゃん! それはちょっと待って!」

「ほえ?」


 脱衣所で寝間着を脱ぎ、いざ浴場へ向かった私を、クロちゃんが引き止めます。


 顔を赤らめ、目を背けながら、バスタオルを巻き付けて来たのでした。


「た、確かにそうだよね……誰かが看板を突破して来るかもしれないもんね」

「それもあるけど……ミケちゃんって、その……いっさい隠さない子?」

「ほえ?」


 何を言われているのか分かりません。

 お風呂は裸で入るものでは?


「普段も隠してないの? 猫鳴館って、大浴場にみんなで入るけど」

「いつもは誰もいない時間に入るから」

「今は私がいるんだから、隠そうよ」

「え? 女の子どうしなのに?」

「女の子どうしでも恥ずかしいでしょ!」

「ほえ? え? そうなの?」


 病院にいた頃も、お風呂は大浴場で他の人と入っていましたが、その時も素っ裸でした。


 まあ、当時はギリギリ幼児の年齢でしたし、周りはお婆さんと入浴補助の看護師さんばかりだったので、「恥ずかしい」と思ったことはありません。


 流石に男の人に見られたら恥ずかしいどころの騒ぎではありませんが、今はクロちゃんと二人きりなので、良いかなって思ってました。


「ごめんね、私、ふつうのことなんにも知らなくって……」

「いや、人それぞれだけど……あまりにも当然のように裸になったから、びっくりしちゃって……」


 クロちゃんを見ると、胸元から腰までしっかりバスタオルを巻いて身体を隠しています。


 そうするのが普通なんだと知らなかったことが、裸よりも恥ずかしい。頭の耳と尻尾が、しなしなになります。


「いいや、ゴメン、ミケちゃん。今のは、私も間違ってた」


 落ち込んだ矢先、クロちゃんが意を決したようにバスタオルを脱ぎました。それでも胸の所に抱え持ち、恥ずかしそうに前だけ隠しています。


「猫鳴館のお風呂でも、全く隠さないお姉さまもいるしね……間を取って、これで。隠す隠さないどっちが普通かは、今度ゆっくり話し合おう」

「クロちゃんがそうするなら……うん、そうする」


 私も巻きつけられたバスタオルを解き、同じように持ちました。


 こうやって、ちょっとずつ私に合わせてクロちゃん。

 とっても尊敬できて、大好きです。


 気を取り直して、いざマタタビの湯、露天風呂へ!



「わぁ~~……ほわわぁ~~……」


 浴場に入った……もとい、出た途端、感動のあまりヘンな声が出ました。


 天井がないお風呂!


 流石に周囲は竹製の壁? 板? で囲われていましたが、こんなに開放的なお風呂は初めてでした。


 これは確かに、素っ裸で出ていたら、ちょっと恥ずかしかったかも知れません。


「クロちゃん! お湯がしゅわしゅわする!」

「炭酸泉なんだって。疲れがよくとれるよ?」

「たんさんせんっ!」


 手だけお湯に浸けて、しっぽをクネクネさせます。


 確かに手がきもちいい。それに、マタタビの香りが混ざっていて、湯気を浴びているだけで顔が熱くなって、頭がふわっとします。


 このお湯に全身を浸したらどうなるのか、ワクワクが止まりません。


「せーので入る? せーので!」

「かけ湯をしてからだよ。これは普通のマナーね」


 クロちゃんが手桶を持ってきて、ザパーとお湯をかけてくれます。


 それだけで、もうきもちいい、しゅわしゅわする!


 私もお返しに手桶を受け取り、クロちゃんにザパー。

 それから二人で、「せーのっ」で温泉に入りました。


「「はぁぁ~~~~……」」


 極上。


 もはや、口から出るのはため息ばかりです。

 肩からつま先までぜんぶ、あったかくて、しゅわしゅわして、きもちいい。


「これは稽古の疲れも吹っ飛んじゃうね」

「今度はペルシャちゃんも連れて来よ?」


 とろ~んととろけるような心地で、ペルシャちゃんを思いました。


 流石に今の時間は寝ているでしょうか?

 あの後、どのくらいお稽古したのかな?

 私はどうやったら、なかよくできるのかな?


「ミケちゃんがそう思っててくれて、良かったよ」


 クロちゃんがこてんと首を傾け、私の肩に乗せます。


「いつもごめんね、わたしが、もうちょっと……」

「もうちょっと、なに?」

「上手にできたらなって、クロちゃんみたいに……色んなこと」

「私、そんなんじゃないよ?」


 いつもより少し低い声で、クロちゃんは言いました。


「そうなの?」

「上手にできなかったことの方が、多いよ。特に友だち関係は」

「ほえ~~……想像できないな……」


 辺りは夜の静けさに包まれていました。


 ちょろちょろと、湯口からお湯が出てくる音だけが、心地よく流れています。


 マタタビ成分を含んだお湯と湯気が、ぬくぬくと身体を包み、頭がふわふわ。


 そんな中、私の肩に頭を乗せたまま、クロちゃんは言葉を続けました。


「失敗したんだ、私。幼馴染の男の子がいてさ、中学の時、そいつが勇気ふりしぼってデートに誘ってくれたんだ。それなのに私、その日に死んじゃった。目の前で」


 その瞬間、呼吸を忘れました。


 クロちゃんも、頭がふわふわして、色々と緩んでしまったのでしょうか。


 靄がかかった頭を必死に回して、返す言葉を探しました。

 でも、まったく見つかりません。


「クロちゃん、九カ条……」

「うん、さっきミケちゃんの聞いちゃったからね、これでおあいこ」


 お湯の中で手を動かし、クロちゃんが小指と小指を結んできました。


「それに、前々から居心地悪かったんだ。ミケちゃんってずっと病院暮らしてて、そのまま十歳くらいで死んじゃったんでしょ?」

「え? どうしてそこまで知ってるの?」

「お姉さま達が噂してるの、聞いちゃった」

「あ……」


 どうしてクロちゃんが私を気にかけてくれるのか、ずっとフシギに思ってました。


 その謎が今、解けました。


 私がお姉さまたちの間で、良くない意味で噂になっているのは、知っていましたから。それを聞いちゃったら、クロちゃんの性格上、放っておけないのは理解できます。


 それでも、そこまで詳細な噂が出回っているとは……女子の世界、おそるべしです。


 苦々しく笑うようにして、クロちゃんは続けます。


「女の子って噂好きだから、九カ条の一個目ってなかなか守れないよね。名前はともかく、前世はどんな人生だったとか、本当は何歳だとか、気になるじゃん? ほら、猫娘って年取らないし、猫神様みたいな、見た目は子供なのに中身は大人とか、たくさんあるし」

「そうだよね……」

「私さ、幼馴染のそいつの勇気とか、好意とか、台無しにして死んじゃったからさ、怖いよ。また同じ失敗するんじゃないかって。でもやっぱり、一人じゃ何もできないから。失敗しないように、この世界では慎重に慎重にやってるだけ。なんでも上手になんて、できてないよ」

「……そっか」


 こてん、と、首を傾け、クロちゃんの頭に頬を乗せました。

 最後までなんと言っていいか分からず、お湯の中で、強く小指を結び返しました。


「ごめん、なんか……重い話しちゃって。でも、いつかしなきゃって思ってたから。私だけミケちゃんの死に方知ってるの、ズルじゃん? それとも、こんなこと聞きたくなかった?」

「ううん、クロちゃんのこと知れてうれしいよ?」


 ぬくぬく、しゅわしゅわ。お湯の感触がきもちいい。

 でもクロちゃんの肌に触れている部分の方が、もっときもちいいのでした。


「マタタビのせいだね」

「そっかぁ……マタタビのせいか」


 なら仕方ない。

 さらにきもちよくなるべく、私はお湯を跳ね上げました。


「待ってミケちゃん! それはちょっと待って!」

「待てない! クロちゃんしゅきぃ~!」


 クロちゃんに思いっきり抱き付き、ムリヤリ頬擦り(スリスリ)

 タオルもどこかに飛んでいったので、ここから先は秘密です。



 ほどほどにお湯を堪能して、深夜の内に宿舎へ戻りました。


 私もクロちゃんもマタタビ成分をたっぷり浴びてほろ酔い気分。二人ともフラフラした足取りで、何度も肩をぶつけて笑い合いました。


 本館を抜ける頃には肩をぴったりくっつけて、ぎゅっと手をつないでいました。


「クロちゃん」

「なーに?」

「ペルシャちゃんも、いっしょなのかな?」

「う~ん……そだね」

「そっかぁ……」


 無事、誰にも見つからずに宿舎について、それぞれの部屋に戻る直前、指を一本ずつ解いて、最後に小指を解く前に、私はクロちゃんに約束しました。


「わたし、ペルシャちゃんとなかよくできるように、がんばるね」

「うん。ミケならできるよ」


 自分の部屋に入ってお布団に潜り込むと、すぐ心地よい眠気に包まれます。


 明日はもっと、がんばろう。


 そんでもって大寝坊して、クロちゃんと一緒に叱られました。


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