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ねこぐらし。~猫耳娘の転生生活~  作者: CANDY VOICE
第一章【ミケ、成長する】
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06 『必殺!? 猫神様式おもてなし術!(前編)』

 殺しちゃダメですよ!


 当然のツッコミを入れますと、猫神様は「ふふん」と笑って答えました。


「殺すのです。必ず。お客様をメッタメタに」

「メッタメタに!?」


 三人で耳かきを授かった翌日のこと、私は猫鳴館の正面玄関に立っていました。


 そこそこ長く猫鳴館で生活しているのですが、初めてのことです。


 その上、猫神様と並んで……これ、お客様から見たら、私の方がその、そう見えません? 脚がガックガクで尻尾もギッチギチに身体に巻き付いています。今にも気絶しそうです。


 それもこれも、なんやかんや。


 見習い未満から「見習い」になったため、それ相応のお仕事をすることになった私です。


 おもてなしのお稽古をするだけが見習い猫娘のお仕事ではありません。一人前の猫娘に付き添って、お手伝いをしながら勉強するのもまた、見習い猫娘としての大事なお仕事なのでした。


 まさしく、「見て」「習う」。


 それでもまさか翌日に早速、それも最高位の猫娘である猫神様のお手伝いをすることになるとは……いきなりすぎなのでは?


 これならまだ、気まずいけどペルシャちゃんと一緒の方が良かった……クロちゃんが一緒だったらそれ以上の望みはありません。


「あの、クロちゃんやペルシャちゃんは?」

「それぞれ、他の猫娘についていますよ」

「どうしてわたしなんかが、猫神様のお手伝いを……」

「これ、ミケ」


 ペシッ、と頭を叩かれてはいないのですが(身長差で猫神様にはムリなのです)、そんなきもちになって、ピーンと尻尾が伸びました。


「私のかわいいかわいいミケのことを、「なんか」とは何事ですか。二度と言わないでくださいね?」

「ご、ごめんなさい……でもわたし、なんにもできません……」

「そんなことは、ありえません」


 きっぱりと、猫神様は言います。


「まごころをつくして、お祈りするのです。これは誰にでもできることです」

「お祈りする……?」


 お客様前であらぬ失態を犯さぬよう、神様にお願いするってことでしょうか?

 この世界の神様って、それは猫神様なのでは?


「とりあえず、私のマネをしていなさい」

「は、はひぃっ!」


 猫神様が土間の前に正座したので、それに続きます。

 緊張でカチコチのガタガタ、舌も上手に回りません。


 猫鳴館の正面玄関は、五百年の格式と懐深さをそのまま形にしたような場所です。


 豪勢な飾りつけはありませんが、それが逆に気品高く、上質な「わびさび」な雰囲気に包まれています。


 それでもって、とにかく広いです。数十人が一度に押し寄せても大丈夫なくらい、とにかく広いです。広すぎて自分がちっぽけに感じて、余計に不安になります。


 まだ朝日が昇る前にも関わらず、正面玄関の門扉は開かれています。


 まっすぐ前を見ると、前庭を抜ける石畳の道があり、その向こうに外門があり、さらに向こうは春のお山まで遠く突き抜けています。


 ああ、今日も良いお天気……と現実逃避気味に眺めていると、ゆらり。遠くの景色が揺れて、人影が現れました。こちらへ歩いて来ます。


「いい、いらっしゃいました!」

「まだ……このまま待ちなさい」


 猫神様は落ち着き払ったまま、静かに座していました。

 私はもう逃げ出したいきもちでいっぱいです。


 ただでさえ、お客様の前に出るのは初めてなのに、猫鳴館が主、猫神様がお相手する特別なお客様です。神様と崇められるお得意様に違いありません。


 粗相があったら、生死以上のなにか、想像もつかないとんでもない罰を受けること間違いなし。


 一歩一歩、お客様が石畳の道を歩いて近付いて来ます。

 その度に意識が遠退きそうになるのを、必死で引き止めました。

 目の前がクラクラして、まともに前が見えません。


「ようこそ……お待ちしておりました」


 お客様が敷居を跨ぎ、広々とした土間に入られました。

 猫神様がうやうやしく頭を垂れたので、私もそれに続きます。


「ああ……あの……」


 低くしがれた声が、頭の上から聞こえました。


「すみません……ここは、どこでしょうか? お嬢さんたちは、何者ですか?」


 猫神様が頭を上げ、お客様を見上げます。

 私も失礼のないよう注意を払いながら、所作をマネました。


 困り顔をした、人の良さそうなお爺さんが、ふらりと立っていました。


「まあまあ、長旅でお疲れのことでしょう。まずはご休憩なさって下さい。どうぞ、こちらへ。お茶でも飲みながら、お話いたしましょう」


 するりと立ち上がる猫神様。

 私もそれに続きました。


 お爺さんは長い白髪と顎髭を撫で、不思議そうに私たちを見ていました。


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