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ねこぐらし。~猫耳娘の転生生活~  作者: CANDY VOICE
第二章【猫魔山】
18/39

18 『広く、遠く』

 お休み処で好き放題に休んだ後、お片付けをして再出発しました。


 お日さまはお昼の頃合い。


 猫鳴館は春と夏の間で、そろそろ梅雨入りかな? なんて言葉が漏れる季節ですが、猫魔山に入ってからというもの、日の高さまで秋のつつましさで、なんともヘンテコリンな気分です。


 緩やかな坂道を進むほど秋は深まり、足元は落ち葉で埋め尽くされていきます。


 頭の上では色濃い紅葉が萌え、まるでゴウゴウと炎が猛るよう。


 けれど、風が吹く度にざぁー、ざざぁーと涼しい音が辺りを包み、やさしい寒さが肌を撫でるのでした。


「ザク、ザク♪」

「ザクザク♪」


 歩く度に心地よい音が鳴ります。


 朝ごはん代わりのお菓子パーティで元気になったのでしょうか、シロちゃんのテンションが若干上がっていました。


 おまんじゅうの後に「これとこれも食べちゃお」と、羊羹やらどら焼きやら食べましたからね……お腹いっぱい、口の中が甘々です。


 あの休憩所の補充係が、お客さまより早く来てくれますように……ベンガルお姉さまの言葉を信じるばかりです。


「この坂が終わったら次の休憩所よ~? 二人とも、しんどくない?」

「はい、楽しいです! ね?」

「うんっ! あっ……はい!」


 半日一緒に過ごしたおかげか、「」のシロちゃんがチラチラしていました。


 本当は元気で甘えん坊な性格なのかな?

 妹みたいでかわいいです。


 病院でも猫鳴館でも、年下の子と関わることはなかったから、とっても嬉しい。私まで足取り軽くなってしまいます。


 そんな私たちを、ベンガルお姉さまがひたすら微笑ましく見守っていました。


「次の休憩所を過ぎたら傾斜が急になって、そこをちょっと登ったら頂上だから」

「本当にお気楽な道のりなんですね」

「猫鳴館は休むところなんだから、当然。今日は季節も良かったしね」

「はい、涼しくて、ちょうど良かったです。春や夏はどんな感じなのかな……」


 道や季節が変わると、違う景色が見えるでしょう。クロちゃんやペルシャちゃんと来るのが楽しみです。


 その時にはまた、シロちゃんも誘ってみようかな。二人ともすぐなかよくなれると思うのです……そうなったらいいな。


「わ、すごい」


 くるりと回り込むような坂道を登りきると、急に景色が開けました。


 上も下も、紅葉の炎に挟まれた広場です。まるで、ざぁざぁと涼しく燃える山火事のよう。


 猫鳴神社の境内より広い、どこまでも秋が広がっているような、雄大な景色でした。


 感極まって、シロちゃんといっしょに飛び込んでしまいます。


「シロちゃんすごい! 山火事だ!」

「山火事だぁー―っ!」

「……紅葉よ?」


 ヒラヒラと炎が舞い落ち、踏み出す度に舞い上がる広場を、二人できゃっきゃと走りました。


 それだけでも別の世界に迷い込んだような、フシギな感覚に包まれてしまいます。


「若い子は体力有り余ってるわね……」


 ベンガルお姉さまは、広場の脇にある休憩所に向かっていました。先ほどと同じような、小さなお団子屋さんのようなお家です。


 ひさしの下の長椅子にすとんと腰を下ろし、ふらふら手を振りました。


「私、休んでるから、二人で遊んできな。あっちに行くと展望台があるわよ」

「はーい!」

「はい!」


 二人で元気よくお返事して、指さされた方へ走り出します。


「ミケお姉さま! かくれんぼ!」

「うんっ! でも遠くに行っちゃダメだよ?」


 右も左も紅葉の木。その合間をすり抜けるように、かくれんぼしながら進んでいきます。


 大人しい子と思っていましたが、素は無邪気で明るい性格だったようです。それに悪戯好きっぽい?


 見失いそうでちょっと怖いなって思ったら、後ろからガバーっと飛びつかれました。


「みぃーつけたっ!」

「みつかったぁ!」


 そのままシロちゃんをおんぶしてぐるりぐるり。笑いながら落ち葉の絨毯に尻もちをついて、また二人で走り出し、木々の向こうへと飛び出しました。


「あ……」


 その先に広がっていた景色に、息を飲みました。


 病院と、猫鳴館と、これまで壁の中で過ごしてきた私の「広い」とか、「雄大」とか、そんな感覚が極小の世界観でしかなかったと思い知らされる、どこまでも突き抜けた情景。


 空は吸い込まれそうなほど広く、高台から見下ろす山峰は、自分というちっぽけな存在が押しつぶされてしまいそうなほど、遠く広く、どこまでもどこまでも続いていました。


「……どうして」


 そして何よりも、一瞬の内にして変わっていたのです。


 頭上は純白の天幕に覆われ、望む山峰は白銀の雪に覆われていました。


 振り返ると、燃えるような紅葉はそこに無く、雪を被った裸の木々がそこにありました。


 ほどよい冷たさだった風も、凍えるように冷たく変わり、袴を貫いて肌を突いてきます。


「……シロちゃん?」


 辺り一面が、真水に近い雪の香りと、しんと澄み切った静寂に包まれていました。


 呆然としながら、両方の手を握りました。

 そこにシロちゃんの手はありません。


 右へ、左へ、翻り、目を凝らしても、その姿を見つけることができません。


「シロちゃん……シロちゃん! シロちゃん!」


 遥かなる雪景色に、私の声が遠く遠く、木霊していきました。


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