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ねこぐらし。~猫耳娘の転生生活~  作者: CANDY VOICE
第一章【ミケ、成長する】
12/39

12 『想い、願い』

「ねぇ」


 繰り返し、問われます。


「ミケちゃんってなにができるの?」


 ペルシャちゃんは身体を起こし、鋭い目で私を睨んでいました。

 混乱と恐怖で全身が震え、言葉を発することができませんでした。


「私は、必要だって思ってもらえなかったよ? 自分のパパにさえ。がんばって日本語を覚えて、見た目も可愛さを保って、ようやく利用価値のある子だと思ってもらえた。なにかできるようになって、ようやく必要だと思ってもらえた。それまでは居ない子と同じだった。とっても辛かったよ?」


 激しい雨が窓を叩きます。


 その勢いにつられるかのように、ペルシャちゃんの興奮が昂っていくようでした。今にも、私に飛びかかってきそうな勢いです。


「ここで、何年も居ない子扱いされてて、辛くなかったの?」


 そこで体力が尽きたのか、ペルシャちゃんの身体がガクンと折れました。


 立ち上がってそれを支え、ゆっくりベッドに寝かせます。私自身も、ようやく落ち着いてきたようです。


 再び椅子に座った時には、身体の震えは止まっていました。それに、やけにすっきりとした頭で、言葉を探すことができていました。


「わたしの噂って、そんなに広まってるんだ?」

「一緒に稽古してるって言うと、お姉さま達はだいたい訊いてくる。どんな子なのかって。悪いけど前世の噂も聞いてる」

「うん、ほとんど、なんにもなかったんだけどね」


 自嘲気味に笑い、タオルを拾って桶に浸けました。

 硬めに絞って、ペルシャちゃんのおでこに乗せます。


「じゃあ、それってわたし、居ない子だと思われてないよね?」

「どうしてそう思うの?」

「やさしい人たちばっかりだから」


 間を開けず、はっきりと返しました。

 ずっとウジウジとして過ごす間、確かに感じていたことでした。


「わたしを気づかって、放っておいてくれたし。知らないところでそうやって噂して、ずっと心配しててくれた。それって、見守ってくれてたってことなんだと思う」


 ペルシャちゃんは目を閉じて、唇をきゅっと結んで私の言葉を聞いていました。


 どんなきもちでいるのか、読み取ることはできません。でも、伝えるべきことは、はっきりとわかりましたので、言葉を続けました。


「わたし、必要だと思われてるかは、わからないけど、できることは、あるよ?」

「なに?」

「まごころをつくして、想って、願うこと」


 ついこの前、猫神様からもらった言葉、そのままです。でも、もらったものは私のものですから、おすそ分けしてもいいですよね。


「ペルシャちゃんがどうやって生きて、死んだのか、きかないけど……その心が少しでも救われますように。いっしょにいることで、少しでも、きもちが軽くなりますように。私はペルシャちゃんの側いて、そう想って、そう願うことができる」


 ――とん。とん。


 なだめるように金色の髪を撫で、胸の下あたりを優しく叩きます。


 猫神様に見せてもらった、そのままでした。

 今はまだ、マネることしかできません。


「必要とか、そうじゃないとか、わかんないけど……わたしはペルシャちゃんといっしょにいたいよ?」

「どうして?」

「う~ん、理由はいっぱいあるな……この世界に来てから、自分からお友だちになろうと思った、初めての子だし。かわいいし。がんばり屋さんで尊敬できるし……クロちゃんと三人で遊んだらきっと、ものすごく楽しいんだろうなって、思ってるし……」


 ――とん。とん。


 一定の間隔リズムで、優しさで、手を動かし続けます。


 確かクロちゃんが、同時期に猫鳴館に来た、と言っていました。

 それなら、まだ一年も経っていないはずです。


 少女未満から少女になるまでの数年間。私が猫鳴館からたっぷりもらった優しさを、少しずつ、少しずつ分け与えるように、ペルシャちゃんの胸を叩きます。


 ――とん。とん。


 猫神様のあれは、どんな歌だったか。初めて聞いた歌でした。

 よくよく思い出しながら、ゆっくり歌います。


 ――ねんねん、ころりよ、おころりよ。

 ――()()()は、よい子だ、ねんねしな。


「私、女の子なんだけど……」

「あ、そっか。「ぼうや」って男の子のことだもんね……」


 だったら歌詞を変えるべきなんでしょうか?


「う~ん、何かあったいい感じの言葉あったかな……」

「いいわよ、もう……どうでもよくなってきた……」


 ペルシャちゃんが薄目を開き、瞳をこちらに向けて、唇を尖らせました。


「叩いてごめん。雨の日は、本当に私……ダメ……」

「明日は晴れるといいね」


 ――とん。とん。


 ペルシャちゃんが再び目を閉じ、安らかに眠り始めるまで、続けました。


 次に会う時は、なんて言おうかな。


 とりあえず、もうムリしちゃダメだよ、とか?

 誰かに叩かれたのは初めてだったから、ちょっと嬉しかったよ、とか?

 そんなこと言ったらヘンな子だと思われるかな?


 お姫さまみたいにかわいらしい、ペルシャちゃんの寝顔を眺め、ほっと息を吐きました。


 窓の外の雨は、弱まり始めていました。


 早ければ今夜にはきっとまた、キレイなお月さまが見えそうです。

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