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7人の魔女  作者: みぎきき
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1人目の魔女2

目が覚めるとお母さんとお父さんが泣いていた。


「もう大丈夫よ」


そう言ってお母さんとお父さんは私を抱きしめる。


「おばあちゃんは?」


私の問いかけにお母さんとお父さんは黙ってしまった。


「おばあちゃんはどこにいるの?会いたい‼︎」


私が何度も言っているとお母さんは

「おばあちゃんはお星様になって月の女神様のお側に行ったわ。もう会えないけれどおじいちゃんと一緒に私達のこと見守ってくれているの…」


と涙ながらにそう言うと、手で顔を覆い隠し泣いてしまった。

私はそれを見てただ静かに涙を溢した。



_________



私が目覚めて次の日にはおばあちゃんのお葬式が行われた。

おじいちゃんの時は最期に顔が見れたのにおばあちゃんの棺は最後まで閉まったままだった。


土に棺が埋められていくのを見守っている中ふと思った。

顔が見れないならおばあちゃんはもしかして生きているんじゃないかと。

そう思ったら居ても立っても居られなくて私は走り出した。私を止めようとするお父さんとお母さんを振り切っておばあちゃんの家を目指す。


村を出ておばあちゃんが大好きな小さな花畑を通り過ぎ、この大きな木の先におばあちゃんの家がある。

きっとおばあちゃんはこんなに焦った私を見て驚くけどいつものように迎え入れてくれる。


きっとそうだ…みんな嘘をついたんだ‼︎

おばあちゃんはちゃんとここに居る‼︎



「え…」



森の少し開けた場所におばあちゃんの家がある。

花が大好きなおばあちゃんは家の周りに綺麗な花をたくさん育てていた。だからここは花のいい香りがしていたのに。


目の前に広がる光景は私を現実に引き戻した。


おばあちゃんの家は黒い屑となり、たくさんあった花は全て消え、焦げたような臭いが微かに香る。


「嘘だ‼︎嘘だ‼︎嘘だ…こんな…の嘘だよ…」


"狼に襲われると何も残らない"

肉屋のおばあさんが近所の人と話していたのを聞いた事がある。

狼は血の臭いに寄ってくるから襲われた死体や血のついた物は焼かなくちゃいけないって。

そうしないと狼がまたやって来てしまうって。


おばあちゃんはあのお墓にはいない。

だってさっき見た棺はきっと空っぽだから。

おばあちゃんは狼に食べられて、あの時焼かれてしまったんだ。



_________



あれから1ヶ月。

私は12歳となり今日成人の儀を行う。

一年で最も月が美しく輝く日。

月の女神ラーヴィス様の祝福を受けて私は大人になる。


「あら、とっても綺麗ねー」


儀式の服に着替えて外に出ると近所のおばさん達がいた。


「真っ白な髪も美しい金色の目もまるで月の女神様みたいね」

「きっとおばあさんも見たかっただろうに」

「そうね。楽しみにしていたもの。狩人様が来てくださっていれば…」

「ちょっと‼︎」

「あ…ごめんなさいね…」

「ううん。大丈夫‼︎私おばあちゃんに見せてくるね‼︎」


私は精一杯の笑顔を作ってその場から離れる。


ここは王都から離れているか狩人様がなかなか来れないのは仕方ない。

それに狼はベンさんがやっつけてくれたからもう大丈夫。

もう大丈夫なんだ…


私は家に着くと赤頭巾をかぶり家を出とお母さんがいた。


「あら、どこに行くの?」

「おばあちゃんのとこ。この服見せたくて」

「そう…儀式が始まる前に戻って来なさい」

「うん」


向かう先はお墓じゃない。

だってあそこにはおばあちゃんはいないから。


ここにはもう何も無くなってしまったけど、それでもここは私にとっておばあちゃんと過ごした大切な場所。

炭になった家の木材の上には新しい命が芽吹いている。そのうちこの跡さえ消えてしまうだろう。


途中で摘んできた花を置き、腰を下ろす。


「おばあちゃん見て。私とっても綺麗でしょ?みんなに月の女神様みたいだって言われたの」


私の声は誰にも受け取られる事なく消えてゆく。


「おばあちゃん…会いたいよ」


そして私はおばあちゃんに会うために目を閉じた。



__________



「キャー‼︎」


人のような声に目を開ける。

辺りは暗くなっていて空には大きな月が美しく輝いていた。


「やばい‼︎寝てた‼︎」


私は急いで村へ向かう。

すると近づくにつれて人の叫び声や怒号が聞こえて来る。

その声に不安と恐怖が募っていく。


もう少しで村に着く時暗闇の中から現れた人にぶつかった。


「いでぇ‼︎」


どうやら最近村にやってきた商人のおじさんだった。


「なんだ。赤ずきんか。命が欲しけりゃ早く逃げろ」


森へ行ってしまうおじさんを慌てて止める。


「村で何があったんですか⁉︎」


おじさんは私を見て言った。


「狼が出た。…いいや。こないだ狼を殺した青年が狼になった‼︎あいつは狼だったのさ‼︎狼がいたあの村はもう駄目だ。誰が人間で狼なのか分からない。

…お前だって本当に人間なのか?」

「なっ‼︎」


おじさんは私の手を振り払うと森の中に走って行った。


ベンさんが狼に?

ベンさんは狼だった?

じゃあ肉屋のおばあさんとおじさんは?

みんな…



「お母さん…お父さんっ‼︎」



村に入るとそこは地獄だった。

物が焼ける臭いと生臭い鉄の臭い。

あちらこちらに転がっている体の一部や無残な死体。

そしてどこからか聞こえる人の叫び声。


それでも私は家に向かって走る。


すると家のドアを壊したすぐ側で狼が人を食べていて、その近くには上半身を切り裂かれたお父さんがいた。

じゃあ食べられているのは…?


「なんで…」


私は目の前の悍ましい光景と受け入れ難い現実に腰を抜かした。


狼の耳がピクリと動き振り返る。

血に濡れた狼が私に近づく。

逃げないと…そう思うが身体に力が入らない。

ここのままだと殺されてしまう。


…でも、それでもいいか。

みんな、みんな…死んじゃって1人ぼっちだ。

それなら私もみんなの所に…


全てを諦めて目を閉じたその瞬間


『キャンッ』


狼の短い悲鳴が聞こえ驚き目を開けると、そこにはゴーグルを付けた大男が狼の脳天を斧のような物で殴りつける姿があった。


半分ほど割れた頭から大量の血を流す狼はピクピクと微かに動きそれを見た大男は狼を燃やした。


一瞬の出来事に理解出来ず呆然と燃える狼を見ていると大男は私の前に膝をつき、ゴーグルを外し口元の布を下げるとただ一言


「間に合わなかった」


そう言って頭を下げる。

私は言葉が出ず叫ぶように泣き崩れ、その声だけが虚しく響く。




地獄と化した地上と裏腹にそれでも月は美しく輝いていた。




読んでくださりありがとうございます。

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