1人目の魔女
昔の私は明るくよく喋る子だったと思う。
今は話す事は苦手だし、表情を変える事も億劫になってしまった。
それでも私は生きてこんな悲しい最期を変えたいと思った。
それで私の世界が消えてしまったとしても…
だから私はあの時この少女
_______アリスの手を取ったのだ。
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私は家族が大好きだ。
もちろん森に住んでいるおばあちゃんもとっても大好き‼︎
そして今日はお母さんに頼まれて大好きなおばあちゃんにご飯を届けに向かっている。
おばあちゃんはどうやら風邪をひいてしまって寝込んでいるらしい。とても心配だ‼︎
「あら、赤ずきんちゃんお使いかい?」
声をした方を見るとお肉屋さんのおばさんがいた。
「うん‼︎おばあちゃんのお家に行くの‼︎」
「あらおばあちゃんのお家って確か森の中でしょう?最近は狼が出るらしいから気をつけなよ」
「はーい‼︎」
おばあちゃんのお家にには何回も行ったことがあるけど1人で行くのは今日が初めて‼︎
でも私はもうお姉さんだから大丈夫‼︎
歩いていると沢山の人に声をかけられる。
みんな私の事を"赤ずきん"と呼ぶ。
きっとそれは私がいつも赤い頭巾をかぶっているから。この頭巾は私の誕生日におばあちゃんがプレゼントしてくれた宝物。
だからいつも一緒なの。
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森の中に入ると花畑があった。
お母さんには寄り道するなって言われたけど、少しだけ花を摘んでおばあちゃんのお家に向かう。
おばあちゃんのお家に着くとおばあちゃんはベッドに寝ていた。
「おばあちゃん大丈夫?」
「えぇ。赤ずきんが来てくれたから元気になったわ。ありがとねぇ」
「私ね一人で来たんだよ‼︎すごいでしょ‼︎」
「あら、もう立派なお姉さんね」
おばあちゃんと話すのは久しぶりで、楽しくてずっと話していたら外は薄暗くなっていた。
「最近は狼が出るらしいから今日は泊まっていきなさい」
「うん‼︎」
夕ご飯を食べ終わり片付けをしているとドアが叩かれる。
「はーい」
おばあちゃんがドアを開けるとそこにはベンさんがいた。
「あらベン。こんな夜にどうしたの?」
「おばあさん、こんばんは。今巡回をしてまして、最近は狼が出るので夜の戸締りはしっかりしてくださいね」
「えぇ。それはもちろん。…ベン、今日は泊まっていったら?流石に夜は危ないわ?」
「大丈夫ですよ。俺にはこの猟銃がありますし、これでも狩人を目指しているので‼︎それでは失礼します」
ベンさんは肉屋のおばあさんの息子さんだ。
なるのが難しいって言われてる狩人の目指しているとってもすごい人。
それでもおばあちゃんはベンさんを心配していた。
「おばあちゃん大丈夫だよ‼︎ベンさんはとってもすごい人だからね‼︎」
「…そうね」
「…おばあちゃん?」
「今日の寝物語はおばあちゃんが子供の頃一度だけ聞いた昔話をしようかね」
そう言っておばあちゃんは私の頭を優しく撫でた。
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「これは昔語り継がれていた大事なお話___
"あるところに一匹の大きな白狼と一人の少年がいました"
"一人と一匹のは兄弟のようにとても仲が良くいつも一緒でした"
"しかし少年は大人になるにつれて悪いことばかりをする様になりました"
"それでも狼は少年の隣を離れませんでした。
それどころか狼は少年を守ってあげました。
どれほど自分が傷つこうとも…"
"少年が大人になった頃。
少年は村の村長を殺し、逃げてしまいました。その姿を見た狼は死体を山に隠す事を決めたのです"
"しかしその途中で村人に見つかってしまい、狼は沢山の武器を持った村人に囲まれてしまいました"
"村人は威嚇する大きな白狼を恐れてなかなか近づけず、固まっているとそこにあの少年がやってきました"
"少年は狼に近づき頭に触れるとその首に剣を突き刺し、倒れた狼に火を放ったのです"
"裏切られた狼は酷く悲しました。
しかし悲しみと同時に憎しみが溢れ、己のために躊躇なく自分を刺し火を放ち村人に讃えられる少年を強く呪いました"
"苦しみながら焼かれていく狼を誰も見向きもしない中、大きな満月だけが狼を優しく照らしていました"
"そして次の満月の夜少年は人を喰らう狼となったのです"
____これがおばあちゃんが小さい頃に一度だけ聞いた昔話よ」
「初めて聞いた…」
「そうね。今この話をする事は禁止になっているからね」
「どうして?」
「…こんな話を聞いてしまったら誰も狩人になる人がいなくなってしまうもの」
「…?」
私がおばあちゃんの言葉に理解出来ずにいるとおばあちゃんは少し困った顔をして私の頭を撫でた。
「さぁ。今日はもう寝ましょう」
__どうして少年は狼になってしまったのか。
それがとても気になったけど今日はたくさん歩いて疲れてしまったので、明日でいいかと思い眠る事にした。
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「赤ずきん‼︎赤ずきん‼︎」
おばあちゃんに激しく揺らされ起こされた。
「どうしたの?おばあちゃん」
私が眠い目を擦っているとおばあちゃんが私に頭巾を被せ、肩掛けの鞄を持たされた。
「今からお母さんにその鞄に入っている手紙を届けてちょうだい」
「でも夜は外に出ちゃダメっ"ドカッ"
ドアから大きな音がした。
何回も何回もドアが壊れてしまいそうなほど叩かれる。
「おばあちゃんこの音なに?怖いよ」
震える私をおばあちゃんが抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫よ。赤ずきんはおばあちゃん必ず守るわ。
…だからお使いに行ってくれるかい?」
「…うん」
「ありがとう。私のかわいい赤ずきん。愛しているわ。さぁ行って。決して後ろを振り返らないで」
私はがむしゃらに走る。
暗い恐ろしい森の中をただひたすら走る。
息が苦しくなっても走る。
しかし足が疲れて石に躓き転んでしまった。
『グゥゥウウ』
背後からの唸り声が聞こえ振り返るとそこには二足歩行をする人と同じぐらいの大きさの狼がいた。
襲われるそう思った瞬間大きな銃声が鳴り響く。すると狼は倒れ遠くの方からベンさんの声が聞こえた。
駆けつけたベンさんは狼に火を付けると私を抱き上げた。
ベンさんは私に何かを言っているけど、頭がうまく働かない。
そして私はベンさんの体温と声で疲れが一気に溢れ気を失ってしまった。
読んでくださりありがとうございます。