第37話 道場にて
警視庁の道場の一室。
俺は爺さんの指導に混ぜてもらい、鍛錬をしていた。
ガッ!
「ぐふ!…うう」
俺は今、野郎達に囲まれてなんども地面に叩きつけられている。
これのどこが受け身だよ!しかも、よってたかってくるやつは全員俺が昔のした奴らだ。
ドーン、ドーン…
放送から正午を知らせる鐘の音が流れる。
「ちっ、」
おいてめえ!
「ふぉっ。どうじゃ?なにか気づくことがあったか?」
「ん…まあな。なんか技の流れがわかるようになった気がする。
なんて表現しようか…最初はすべての攻撃を1つずつ避けようとしてたけど、あとの方はなんか、『波』で捉えていた気がする」
「ふむ…お主、やっぱり筋があるのう。どうじゃ?今からでも警視庁に入らないか?」
「いやだよ。俺は法律なんてさっぱりだし、それに顔見知りの後輩なんて居心地が悪すぎる」
「そうか…」
この爺さんはことあるごとにこれだ。俺は警察なんかより会社員の方が良いっての。
「そうじゃ。この間キリのと一緒にオークを狩ったんじゃけどな?」
「うげ!爺さん二人でもうそこかよ。たしかグレイウルフキング討伐後に始めたんだろ?」
キリのと言うのは桐谷剣太郎爺さんのことで、剣道はあまり詳しく無いが8段がどうとか言っていた。
それにしても、渡部の爺さんと警視庁でゲームの話をする日が来るなんて、昔は想像すらできなかったな。
「はい。田所さんこんにちは」
「大同さんこんにちは」
道場の隅から、似つかわしくない少年の声が聞こえた。
「おじいちゃん!お弁当を忘れていましたよ!」
「おお勇斗か。すまんのう」
一人の少年がこんな所に入ってきた。
少し西洋人とのハーフだろうか。ストレートの栗毛は中型犬という印象を与える。
「これが<クロスオンライン>をやってる孫?」
「おうそうじゃ。勇斗、こいつは龍斗じゃ」
「龍斗さん?神崎龍斗さんですか?おじいちゃんがたまに話してくれる、『大阪の竜』の!」
「こ、これ!余計な事は言わないで良い!」
「始めまして。神崎龍斗です。おじいちゃんが俺の事をなんて言っているのか、聞かせてもらっていいかな」
「龍斗。休憩時間がいらないのかの?」
これはいけない。
「きょ、今日は佐久間君はいないのかの?」
「ううん。待合室で待たせてます」
ユウト…サクマ…
「なあ勇斗君。もしかして<アイスクリーム>のギルドマスターのユウトかな?」
「え!?龍斗さんも<クロスオンライン>やってるんですか?
そうです。<アイスクリーム>ギルドマスターのユウトです」
マジか…
「ユウト!俺だよ。タツだよ!」
「「…ええ!?」」
いや、なんで爺さんも驚いてんだよ!