第九話 あのルメリア最強の騎士『雷光の騎士』と戦ったときも、『バルディアの獅子王』と戦ったときも、俺は華麗に戦い、そして必ず生きて凱旋する。俺は戦いでは死なないんだよッ!!
第九話 「あのルメリア最強の騎士『雷光の騎士』と戦ったときも、『バルディアの獅子王』と戦ったときも、俺は華麗に戦い、そして必ず生きて凱旋する。俺は戦いでは死なないんだよッ!!」 あ、いや―――それはお前。お前は自分が不利を悟ると自分が敗ける前にすぐに逃げるからじゃねぇか?そのお前が言う『バルディアの獅子』も、「あいつはすぐ逃げる奴だ」、って俺に言ってたぞ?
俺は眼前のラルグスを見つめた。きんっ―――、俺は刀を鞘に納め、そのあとは斜に構え・・・すぅ――っ、っと俺は小剱流剣術、抜刀式の構えを取る。
「小剱流抜刀式眉間崩し―――」
そう言って、俺は相対するラルグスに聞かせるべく、敢えてそれを口に出すのだ。
「ヒィッ眉間だと!? お、お願いだ!! こ、殺さないでくれッケンタ!!」
「ラルグスよ、貴公はそう言って何度、人を裏切った? 貴公の上官を奸計で亡き者にし、ルメリア国を出奔―――そのような顔で、声で、そのような態度で恭順を示したあげく、多くの人々を裏切ってきたのだッ貴公は!!」
「ま、待ってくれッケントゥス!! お、俺が悪かった。な、なぁ、だからその剣を鞘に納めてくれっ頼むよ・・!!」
「いや、その他にも、魁斗の・・・あの街での惨劇の黒幕―――、俺は貴公を赦さぬよ・・・!!」
ギリッ、っとあのときの―――俺がこの五世界という世界に来たばかりの頃の記憶が過り―――、歯ぎしりが鳴るのだ。
「お、お願いだっ『イデアル』の情報を喋るからっお願いだから俺を殺さないでくれっ!!」
「・・・・・・」
ラルグスは、俺に恐怖を抱いている・・・。ラルグスは、己の『イデアル』のことをも持ち出して俺に命乞いをしているっ!! だというのに俺は・・・っ!! くっ・・・これでは俺が悪者ではないか・・・!! そうであろうっ!!
刀の柄を握る握力がやわっと自然と緩んでしまう。くるりっ、っと俺はラルグスに背を向ける。
「どこへなりとも、さっさと行けっ―――ラルグス・・・」
「へ・・・へへっケントゥスさん―――」
「だっ騙されるな健太ッ!!」
血相変えている俺の友人敦司殿は必死で俺の名を叫ぶ。
「敦司殿?」
敦司殿が俺のその名を出し、大声で叫んだのだ。
「ぅ、後ろだッ!!」
―――がくっ、っと俺は。敦司殿の声を聴き、俺は人知れず項垂れたのだ。すまぬ、敦司殿っ・・・!! やはり、やはり―――やはりラルグスは―――っ・・・!! ラルグスに期待した俺がバカだったのだ・・・ぁっ―――。
「・・・」
俺はゆるゆると振り返る。そこには自身の氣で造り上げた淡く輝く、身の丈ほどの氣剣を手にしたラルグスが―――俺の真後ろに立っていたのだ。その氣の剣は直剣で、俺が知る限りルメリアの剣の形状を思わせるものだったのだ。つまりはグラディウスである。
「っ・・・」
ダンっ、っとラルグスは地を蹴って、俺に斬りかかろうとする。俺にはこやつを救うことが・・・救ってやることはできぬ・・・!!
「死ね、ケントゥス―――っ」
ラルグスは揮う己の氣剣を。真っ直ぐに、上から下へと―――まるで大剣で岩をも砕こうとするが如く―――、その真っ直ぐなグラディウスのような氣大剣を―――な。
「貴公は・・・何故そこまでして―――」
ふっ・・・っと俺は振り下ろされたラルグスの氣大剣を紙一重で避け―――、もっと大げさに力強い動きで、このラルグスが揮う氣大剣を避けることはできたのが、俺は、そうはしなかったのだ。
「ッ!! ば、ばかな・・・っ俺の氣大剣を避けた、だとっ!!」
なぜならば、―――わざわざ俺自身の間合いに入ってくれた相手なのだ。俺が飛び退いて自分からラルグスを俺の間合いの外に出してやることもないて。
くるりっ、っと俺はラルグスがその氣大剣を斬り返す前に自身の身体を反転させ―――、刀の鋩を今までの、『前』から『後ろ』へ、その向きを。そうして、俺の持つ刀の柄頭を『前』へと刀の向きを変えたのだ―――・・・ッ今だ!!
「せいッ」
ドンッ―――、っと俺は自身が手にする刀の硬い部分、柄頭でラルグスの鳩尾を射ぬくような当身を喰らわした。
「カハ・・・ッ―――!!」
ぽとりっとラルグスの両手に握られていた彼奴自身の氣で形成された氣大剣は地面に転がり―――、、、ラルグスの身体が『く』の字に折れ曲がったのだ。
「ごほっげほっ―――うぐっ・・・くそ―――っ俺の氣鎧が!!」
ラルグスは苦しみに咳き込みながらも、手で自身の胸をかきむしるように、無論俺が柄頭の一撃で射抜いたところだ。
「ラルグスよ、貴公の負けだ」
「俺の負け、だと―――」
「そうだ。おとなしく縛につくことだ」
「はっ」
ラルグスは口角を吊り上げ、吊り上げながらおもむろに自身の懐の中に右手を差し入れ―――。む、なにかの武器でも取り出すのか・・・?ラルグスの奴は―――、、、
「―――」
俺は、この『眼』を視線の先全てを視透す『透視眼』に変え―――、っつ
「ロベリアはてめぇにやるぜ・・・!! せいぜいこいつらに慰めてもらえよ、ロベリア」
ラルグスは懐の中で、宝玉のような珠をその右手の掌の中で握り締めている。
「―――」
あれはなんだ?あの珠はなんだ? ラルグスが右手の掌でぎゅっと握りこんでいる、あの珠だ。色合いから、かつてクロノスが持っていた珠によく似ているように俺には思えたのだ。タマムシの翅の色や、プリズムの色や、虹の色など・・・、そのような感じに見えるのだ。そんな色の珠である。―――あのとき、かつて俺がこのイニーフィネという五世界にやってきた頃のことだ。
あのとき、クロノスはあの珠をその右手に持ち、いったいなにをしようとしていたのだろうか・・・?
「ククク、最後にいいことを教えてやるぜ、ケントゥス―――」
いいこと?
「―――」
その不思議な虹色の珠から俺は視線を外し、ラルグスを見やった。
「俺がなぜ『不死身のラルグス』様と言われているか、をな」
「ほう・・・?」
この男、ラルグスは、『不死身のラルグス』、だと? 少なくとも魁斗はそのようなことは言ってはいなかったが? 『ラルグス義兄さん』としか言っていなかった。
「あのルメリア最強の騎士『雷光の騎士フェリクス』と戦ったときも、『バルディアの獅子王アルスラン』と戦ったときも、俺は華麗に戦い、そして必ず生きて凱旋する。俺は戦いでは死なないんだよッ!! つまり俺はクロノスやチェスターを負かしたアルスランよりも強いんだっ!! そう『イデアル』最強の男『不死身のラルグス様』とは俺のことだッ!!」
「・・・・・・」
あ、いや―――それはお前。今みたいに、お前は自分が不利を悟ると自分が敗ける前にすぐに逃げるからじゃねぇか?アルスも、『ラルグスはすぐ逃げる奴だ』、って俺に言ってたぞ? 『不死身』ってそういう身体が不死身って言う意味じゃねぇよ。皮肉られているってこと早く気づけよ、ラルグス。だから『不死身のラルグスさいきょーちゅー』って奈留たんに言われるんだぜ?お前。
「(あせあせっ)」
―――す、すまぬ、ついいつもの俺が出てしまったようだ。
「任務を終えていつものように戻るとなぜかな、みんな俺のことを『不死身』『不死身』っていうんだぜ!! すげぇだろ、俺? だから俺は最強なんだぜ!! そう、俺はイデアルにその人ありと言われる『不死身のラルグス様』だ。―――お、覚えとけよ、次こそ俺はお前に勝つっ!!『醒剣のケントゥス』ッ!!」
「くっ・・・!!」
その瞬間に、どうやらそのラルグスが手に持つ珠に何かの仕掛けがあるらしく、―――くっ・・・消えるっ―――ラルグスの姿かたちがまるで空間に溶け込むように消えてゆく。この消え方はアイナ殿の『空間転移』のような消え方ではない。本当にあっという間に姿かたちを透明にさせて消えたのだ。
「あばよ―――・・・」
「!!」
彼奴め―――、逃げたか。その憎たらしい顔と声を、俺への置き土産にして『イデアル十二人会』の一人『不死身のラルグス』は俺の目の前から姿を消したのだった―――。
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