第六話 はぁ?私が斬り合い?冗談にしては笑えないわよ。この朱月鎌をそんなことに使うと思う? ねぇバカなの、あんた?
剱聖への道-イデアル無双編-
第六話 はぁ?私が斬り合い?冗談にしては笑えないわよ。この朱月鎌をそんなことに使うと思う? ねぇバカなの、あんた?
俺は野を越え、山を越え、川を渡り、森を越え、海を渡り―――巨悪を正す武者修行に終わりなどないのだ。
「―――ッ」
そして、俺はついにその場に辿り着いたのだ。あぁ、我が友らよ―――誰一人として死なさぬよ、冥土への橋など俺が渡らせぬよ。
そして、そんな絶体絶命の我が友らをその軍勢で囲むのは、―――『十二人』の一人のあの男だ―――。俺が追う『イデアル』の。
「く・・・このゾンビの数・・・絶対やばいよな、美咲」
「ほ、ほんとね、敦司。でもっ弱音なんて吐いていられないわ・・・っ違う?」
「あぁ・・・!! みんなっ聞いてくれッ!! 絶対―――誰も欠けることなく、ここを抜けるぞ・・・っ!!」
「ハハハハッ!!『氣武装化(アニマアルムス)』―――俺の氣で練り上げた武器で武装させた最強の屍兵部隊だッ!! 始っからてめぇらに逃げ場なんてねぇーんだよッ!!稲村っ!!」
「なんということだ・・・!!」
敦司殿を・・・俺の友人達を取り囲んでいる屍兵達を指揮しているのはルメリア帝国の元『最高軍行政官』―――。あの『天王カイト』魁斗がよく言っていたあの男に違いあるまい。
「ッ」
ダッ、タタタタタタっと俺は地を蹴り、剣士の和装姿でその場へと疾駆する。
・・・・・・
「敦司っ誰か来るわよっ!?」
「あぁ・・・美咲、俺にも見える、この俺達を囲むゾンビ達の向こう側から走ってくるやつだろ・・・―――。ひょっとしてまさか―――こっこんなときに新たな敵かっ!?」
「どうやら剣士のようです。我々のほうへ一直線で向かってきているようです・・・敦司、美咲、そしてリラ」
「ナッツそれほんとっ!?剣士って!!」
「はい、リラ。敵か味方かまだ判別はできませんが、ですが、おそらくは―――」
「ちょっ冗談じゃないわっ!!」
「冗談ではありませんよ、リラ。私の知覚も、そして私に搭載されたアニムス探知機も、ここにくる剣士の姿をはっきりと捉えています」
「こんな忙しいときに新手の敵なんてほんっとっ冗談じゃないわよっ!!」
・・・・・・
タタタタタタッ!! 駆ける、駆ける―――俺は全力で駆ける。
「―――」
多勢に無勢とは・・・卑怯なりっ、俺は怒りを覚え、とにかく我が友である敦司殿達を助けなければ、と、袴の裾を揺らしながら戦場へと、駆けずにはいられなかったのだ。
よく見れば、敦司殿以外にも俺の幼馴染達の姿も見えるのだ。あれは―――敦司殿がその身を挺して庇っているのは、辻堂 天音殿。そして、同様に神田 美咲殿も天音殿を庇うような体勢なのだ。その他にも機人の少女と思われる者や、むっ―――あの紅髪の女子は魔法の民だろうか、紅髪の女子はその左手に魔導書を持ち、右手には炎ようにゆらめく氣を纏う。その紅髪の女子は魔法王国イルシオンの民で間違いはないだろう。
「今、参るぞ、我が友よ・・・!!」
ともかく俺はダンッっと地を蹴り、タタタタタタッ―――、最後に激しく地を蹴り・・・ダンッ―――、バッ、ぶわっと俺は敦司殿達の一団を取り囲む、兵の群れその頭上を、一足飛びで空中を飛び越えたのだ。ザッザザザザっ、っと―――そして、俺はその場に足から着地―――。俺は顔を上げた。俺達が学校終わりに、白い靄の中で離ればなれになったときと、変わらぬ姿よ。なぁ、敦司殿よ。
「久しぶりであるな、敦司殿ッ。この小剱 健太及ばずながら貴公らに加勢いたしますぞ・・・っ」
「け、健太っ!? 剣士ってお前だったのか?」
「う、うそ? 健太がどうしてここに・・・!?」
「―――っ」
うむ、本当に変わってあらぬ、俺の友らは。そのように目を大きくしてみせているのは、敦司殿と美咲殿だ。―――二人ともそんなに俺がこの場に現れたことは不思議なことなのだろうか?
「誰しも、自分の友が危ない目に遭っていれば、助けるのは当たり前でありましょうぞっ違いますかな、美咲殿、敦司殿?」
「で、でも―――お前そんな―――」
「そ、そうよっ敦司の言うとおり―――」
「言ってくれるな、敦司殿、美咲殿。積もる話はこの者達を退けてからだ」
「健太―――、お前強くなったんだな・・・」
「強くなった?それは違いますぞ、敦司殿。俺はまだまだだ。まだ弱い。だが、この俺は誓ったのだ、俺が愛する者達のために、この五世界に蔓延る『イデアル』という悪しき者共を打ち倒すと・・・!!」
くるり、っと話しはそこまでだ、敦司殿よ、と俺はこの屍兵部隊を率いる者に視線を移す。
「―――」
屍兵部隊の数はざっと見て数百人といったところだ。そのような数の屍兵部隊を率いているのは、二人。一人は男で、もう一人は洋装に身を包んだ女子―――、ウィッチの三角帽子を被った土石魔法を遣うアネモネのようなかわいらしい姿かたちではない。もっとこう・・・この彼女は禍々しいような・・・忌むべき者のようなそのような闇色の装いだ。
はてさて・・・
「・・・」
それはそうと、この女子―――どこかで見たことがあるような・・・見覚えがあるのだ、俺には。どこだ、どこだ、俺はどこでこの女子を見かけたのだ。
この俺の目の前にいる女子は、その右手に、刃先は背中側へ、まるで担いでいるようにも思える一振りの大きな鎌を持っているのだ。それは鎖鎌のような鎌ではなくて、形状から言えばむしろヨーロッパ風の大鎌に見える。
不思議なことにその鎌はまるで熱した鉄のように朱色に淡く輝いているのだ。まるで三日月のような反りと形状をした大鎌だ。朱い大鎌の鎌身にはなにやら、アルファベットのような文字が順番に鎌の反りに沿って刻まれている。そこで俺は気づく。
あのとき―――生ける屍に覆われたあの街で、あの尖塔の踊場で俺がこの眼で見たのは―――この女子ではなかったのか・・・??
ぶぅんぶぅんっ、―――っとその鎌女の朱色に淡く光る鎌がぶぅんっと明滅したとき俺は確信した。やはり、この鎌女は―――、
「ッ!!」
あのとき生ける屍達が徘徊するあの街で、俺が尖塔で見たこの鎌女の大鎌は夕陽を反射していて、それでその大鎌の刃先が赤く光っている、かと思ったのだ。だが、違っていたということか―――、その淡い朱に染まる大鎌の光は、この鎌女のアニムスの光だ。この大鎌は所有者のアニムスに反応してその輝きを明滅させているのだ、と―――。
「おいロベリア。もう一匹増えたみたいだぜ。お前の屍兵で捻り殺してやれよ」
「―――」
しらーっ。誰かしら貴方? 私に話しかけないでくれます? そのような様子の鎌女である。
「・・・」
「っつ」
ロベリア。―――それよりロベリアだと?確かにこの鎌女の隣にいるこの『イデアル』の男はそう言ったのだ。この女子の名は魁斗の言っていた『ロベリア義姉さん』で間違いはあるまい・・・!!
「なんとか言えよ、ロベリア」
「・・・、空気にあんたの息を混ぜないでくれる?空気が濁るから」
「おいっロベリアッ相変わらず仲間にも口悪ぃなお前っ!!」
「仲間?あんたと私が? 口が臭いのはあんただけでしょ?くすくすっ」
「・・・。あっ、そうだっ!!ははっいいこと思いついたぜ。お前が大事そうにしてるその鎌であの剣士を切り刻んでやれよ。ははっ♪」
「はぁ?私が斬り合い? 冗談にしては笑えないわよラルグス。この朱月鎌をそんなことに使うと思う? ねぇバカなの、あんた? あぁアホだったわね、ラルグス。くすくすっ」
「チッ、ロベリア!! てめぇっ―――」
「あらなにか?」
まるで仲間割れのような雰囲気ではある、・・・が。―――ッ!!
「―――ッツ」
ラルグス・・・だと―――ッ!! その名を言う、その幼馴染だった男を俺は。俺は結城 魁斗というその男の名を忘れることはない―――。魁斗―――よ、今は失われし、消え去った俺の旧友よ。俺のこの目の前にいる男はお前の師匠でよいのだな。
「あぁん? じゃあなんでロベリア、この俺様についてきたんだ、あぁん―――?」
「私はただ導師に、きみの屍兵団をあんたに貸してやれってね。そのためにだけにわざわざあんたについてきてやったのよ、こんなとこまでね」
「・・・そうか、それは助かるぜ、ロベリア」
「勘違いしないでくれる? 大事な弟分を失ったあんたに気を遣う導師に私はただ従っただけよ。導師の指示なんだから。で、これであんたは私に借りが三つもできたというわけよ、『不死身のラルグス』さん―――くすくす」
にこっとした、でもいやあの鎌女の笑みは嫌味の部類に入る笑みだった―――。