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第三話 あぁ貴女でございましたか。このような夜更けに俺のところへ、いったいどうされたのだ?

第三話 あぁ貴女でございましたか。このような夜更けに俺のところへ、いったいどうされたのだ?


 こ、これが俗にいう膝枕取られ落とし―――いえ、俺の造語でございます。つまり、膝枕をしていてくれた春歌が立ち上がった反動で、俺は後頭部を道場の木の床に打ち付けてしまったんだよ。たんこぶになったんじゃねぇの?

「け、健太っ!? す、すみませんッつい―――!!」

「・・・あぁ・・・も、もうダメだ、俺。・・・死する・・・」

 そうしてそのまま、また俺の意識は暗に沈んでいくのだった。

「健太ッ!! 健太・・・ッ!! け―――」


///////////


「・・・ん・・・うぅ―――」

 俺はゆっくりと眼を開いたのだ。ここは薄暗い。だが、完全な暗闇というわけではないのだ。薄明りの中、俺の眼に入りたるは―――

「―――俺は、どうしたのだ?」

 俺がここで目を覚ますと、真っ先に俺の目に入ってきたこのよく見知った光景。それを見て、ここが俺の部屋だということ分かったのだ。それだけは目を覚ましてすぐに解ったことだ。俺の部屋は畳張りの六畳半ほどの四角い和室だ。まだ、ほんのりとかすかに畳の良い香りがするのだ。

 俺の荷物はさほど多くのない。このイニーフィネという五世界に無一文でしかも(はだし)のようにやって来た俺には荷物などはさほど多くない。幼き日俺は、祖父と日本で生き別れたのだ。そして、俺も祖父に遅れること数年ばかり、俺もこの五世界の日之国(ひのくに)というところへ、この身一つやってきた。この見知らぬ日本ではない日之国で祖父に引き合わせてくれた五世界の一つ日之国の警備局の者達―――一之瀬 春歌殿、そして、祖父に教えを乞い祖父の弟子となっていたアイナ=イニーフィナ殿。俺はこの彼女達二人とこの世界で出会ったのだ。

 冷静なれば、今の俺が置かれたこの状態ぐらい簡単に見て取れる。

「ふぅ・・・ふふっ」

 仰向けの俺が見上げるものは俺の部屋の天井だ。きっと誰かがこの俺ために布団を敷いて俺を寝かしつけてくれたのだ。ふ、ふふっ・・・っと俺はそれに気づいたのだ。だから、すがすがしい笑いをこぼしてしまったというわけだ。

 まぁ、そのような俺のために布団を敷いてくれるのは、一之瀬殿かアイナ殿・・・一人か二人しか思い浮かばないのだ。

「ふむ・・・?」

 ところでなぜ二人一之瀬殿とアイナ殿はいつも合い競うように、二人してじゃれ合うように俺のこの和の自室の布団を敷きたがるのだろう? 俺にはそれが分からぬのだ。俺をさっさと寝かさんとする二人のはかりごとだろうか? そうだとも二人して俺を早く寝かしつけようというのだ、―――そのあと、二人だけでしめしめとおいしい食べ物を・・・ということだきっと。

 そのようなことが以前からずっと続いているのだ。だから、いつも一之瀬殿とアイナ殿が競い合い出す前に、俺はいつも夕稽古が終われば、すぐに自分の寝床を自分で敷いておくのだ。朝起きれば、自分の寝床を片付け、夕餉(ゆうげ)を食べれば、寝床を出す。そもそもそれは当たり前ことなのだ。

 おぉ、夕餉で思い出したのだ。初めの頃は・・・とその前に―――、俺が祖父の居場所を突き止め、俺が警備局の寮から祖父のもとへと移ったときのことだったのだ、それは。なぜか解らぬが、一之瀬が頬を紅らめながら

『け、健太様と・・・その・・・お、お供をしたいのです、私はっ』

 と、言ったのだ。―――あのときの警備服の一之瀬殿は頬を(あか)らめ、しどろもどろに。きっと風邪気味であることを隠し無理をしていたのだ―――、それを俺は解ったし、一之瀬殿は警備局『境界警備隊』の長を預かる身だ。俺は彼女一之瀬殿の申し出を押し留めたのだが無駄だった。後生(ごしょう)ですからと俺は半ば一之瀬殿に押し切られた。

 仕方なく俺が一之瀬殿を連れ、祖父の下へとやって来たとき、すでに祖父に教えを乞うていたアイナ殿―――すなわちイニーフィネ皇国皇女アイナ=イニーフィナ殿がこの祖父の道場に住み込んでいたのだよ。ふむ、アイナ殿は手練れの剣士で、実際に刃を交えるとめっぽう強かった。アイナ殿はなぜか俺を道場破りの刺客と思ったらしく、仕方あるまい己の身に降りかかる火の粉は己で振り払うしかなかったのだ。

 だが、俺とて『剱聖』を目指す一介の剣士である。俺も負けられぬよ。ふむ、あのときの様子はまざまざと俺の頭の中で思い出されようぞ。

『―――征くぞ、小剱流剣術秘奥儀―――抜刀式の終・・・小剱弥久閃光刃(びきゅうせんこうじん)・・・!!』

『なれば私は―――小剱流殲式(せんしき)―――』


「―――」

 あのときは俺は驚いたものだ。まさか、自分と同じ年頃の者が小剱流剣術の秘匿の奥儀『殲式』を使うなどと―――、だが俺は勝ったのだ。『殲式』を使うアイナ殿に勝って俺は言ったのだ―――


『『殲式』を破った俺の勝ちだ。そなたが強くなって出直してきたら・・・またそなたの相手をしてやろう。それまでに死ぬなよ・・・アイナ」

『っ!! ・・・あ、貴方の名前を教えてくださいましっ・・・!!』

『ふむ、いいだろう。健太だ。俺は小剱流に目覚めた剣士・・・剱聖を目指す剣士小剱 健太だ。よく覚えておけ、アイナ」

『っ・・・コツルギ=ケンタ・・・―――ケンタっ///』

 なぜか解らぬ、本当に俺は分からないのだ。なぜか、その日以降、アイナ殿が俺の世話をすると申し出たのだ。

 そして、俺の師匠である祖父の道場に、アイナ殿が居て、俺と一之瀬殿が一緒に住み始め、今に至るのだ―――。


 それが分かれば、次に、いや次々と疑問が湧いてくる。

「・・・・・・俺は確か、祖父に小剱流剣術の稽古をつけていただいて―――」

 そう私は稽古で祖父であるお師匠様に敗けたのだ。そして、俺が道場の床でノビていると、そこで一之瀬殿と出会って、出会って―――?

「ふむ・・・?」

 その先のことが解らなかった、思い出せなかったのだ。記憶喪失ではない。


 む・・・誰かがここにくる・・・!! しかも静かな気配を殺すようなその足取りで、だ。

「む?」

 そのときだったのだ。俺はその静かなる気配を感じ取ったそこへと視線を向けた。すると、俺の部屋の襖がすすっと横滑りした。彼女が静かに俺の部屋の中に入って来たのだ。すすっと・・・しなやかな足取りとその所作で。着物を召している所為か、彼女の黒髪がより一層艶やかなものに私には思えたのだ。

「・・・」

 身体を床に()せたままでは、この彼女一之瀬殿に礼を欠いてしまう。俺は敷布団の上で脚は投げ出したまま、上体を起こすのだ。

「一之瀬殿ではござらぬか、いったいこんな夜更けにどうされたのだ?」

 ―――哀しいのかもしれぬ、彼女は。彼女、俺に近づいてくる一之瀬殿の顔の表情は、俺が見る限りそれは憂いを感じさせるものだった。

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