娘の様な妹
29才で迎えた春……遂に恐れていた事が来てしまった。
「ああああ……」
立ち上げたPCに表示される日付を見て、俺は今年で30歳になる事に……気が付いてしまった。
ずっと気が付かない振りをしていたのに、後僅か数ヶ月で俺は……俺は遂に……。
そう……30歳まで童貞なら……魔法使いになれる。
そう……俺はもうすぐ魔法使いになるのだ、わははははは!
「って笑ってる場合か!」
深夜一人でPCに向かいながら一人呟く俺……。
深澤賢作まだ29才、独身……彼女いない歴年齢。
職業CADオペレーター
いわゆる製図屋さんだ。
CAD……魔法を操作する機械なら格好よかったんだが、CADソフトを使い、ひたすらパソコンで、線を引くお仕事……。
そして、さらに言えば俺のいる会社は下請けの下請けの孫請みたいな零細会社……まあ、ただ、俺にはそっちの方が合っているのかもだけど。
最近会社には週2ー3日位で出勤するようになった。
もちろん仕事は毎日している。
リモートワークという奴だ、俺はとある理由から、今まで殆んど家で仕事をしていた。
「お兄ちゃん……まだ寝ないの?」
「うお! こ、こら雪! ノックしろって言ってるだろ?」
「だって仕事するって言ってたじゃん、エッチな事してるわけじゃ無いんでしょ?」
Tシャツにミニスカート姿で扉を開けたのは俺の妹、深澤 雪、来月なんと高校生になる。
「え、えええ、エッチな事って! な、なんだかわかって言ってるのか!?」
「え~~そりゃあねえ、私だって、もう高校生なんだからね~~」
そう言って苦笑いする妹……そうか……わかっていたけど……もうそんなに経つのか……。
美しい黒髪に、決めの細かい白い肌、中学生のどことなくあどけなさが残っているが、フランス人形の様な整った顔立ち、スレンダーな身体に、細く長い手足。
兄妹なのに……妹と俺は全く似ていない……そりゃそうだ、俺達の血は繋がっていない。
あれは15年前……雪の日だった……放蕩者の親父が突然、俺にプレゼントだと言って赤ん坊を抱いて帰ってきた時。
その時抱いていた赤ん坊がこの妹だ。
ふわふわの毛布にくるまれた赤ん坊を初めて見た時、妹の赤ん坊の頃の顔を見た時、俺は本当に神様の贈り物……天使だって……そう思った。
生まれたてにしては整った顔だった。その愛らしい、愛くるしい顔に俺は見惚れてしまった。
そして……親父は、その天使を、雪を俺に託し……数年後あの世に行ってしまった。
元々雪の面倒の殆んどは、俺が見ていた。
何故ならば……俺は当時不登校だったからだ。
オムツ交換、ミルク、お風呂、妹の面倒は、ほぼ全部俺が見ていた。
そして、ようやく妹が歩き始めた直後……親父は逝ってしまった。
身寄りはいない、妹の母親もどこにいるかわからない。
唯一の救いは親父の残した保険金……当面の生活費には困らなかった。
俺は妹の面倒を見ながら通信で高校を卒業、そして妹を保育園に預けながら大学に通いバイトも始めた。
多分妹が居なかったら、俺はいまだに引きこもっていただろう、いや、既に自ら命を断っていたかも知れない。
俺は親父が死んだ時、一緒に死のうって考えていた……。
妹も道連れに……一緒にって……。
でも出来なかった、天使の様な妹を傷付ける事なんて……俺には出来なかった。
そして妹を残して、俺だけ死ぬなんて事も……出来なかった。
「入学準備は出来たのか?」
俺が感慨に浸り、少し涙ながらに振り向き妹を見ると、妹は俺のベッドで仰向けに寝転んでいた。
「……おい、自分の部屋で寝ろ!」
「うう~~ん、むにゃむにゃ、もう食べられないよ~~」
「嘘つけ! 今時そんなベタな寝言、言うわけ無いだろ?」
「……バレたか、ピエン」
片目だけ開け、俺に向かって舌を出す。
俺のベッドに寝転びながら、べーーっと艶かしいピンクの舌を出す妹……ミニスカートは捲れ上がり、白いショーツがギリ見え隠れしている。
まあ、もちろん俺はそんな物を見ても、なんとも思わない。
こいつは俺がオムツを交換し、毎日の様に風呂にいれてやった、俺の子供みたいな存在。
妹であり、娘でもある。
俺の愛しい妹、俺の愛する娘……俺の生き甲斐、俺の希望。
俺は今、妹の為に働き、妹の為に生きている。
血の繋がらないけど、俺の妹……俺の唯一の……家族なのだ。
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