0話・それは特別な出会いだった。
物語が始まる前のほんのプロローグです。
誤字脱字があればすみません。
楽しんでもらえたら幸いです。
世界は今日も平和だった。
昨日と同じ今日を、今日と同じ明日を繰り返していく。
何も起きず何も起こさない退屈な日々。
別にそれでいい。
けれど、今日は昨日より少し天気が良かった。だから外に出て昼寝をする事にした。
久しぶりに出た城の外は、前に見た時よりも自然が増えているように思える。
辺りを見渡すと木々が生い茂り、中にはいい具合に陽の光が妨げられた木陰もあった。
昼寝にはうってつけだと思いその木陰に近づいた時、妙な物音がして。
別に気にする必要は無かったのだが、このままでは昼寝の邪魔だった。
(…面倒だが、適当に処理すればいいだけだ)
しかし。
そこには──人間が居た。
人間の、それも生まれたばかりであろう赤子がいた。
大事そうに布で覆われ、木籠の中でか細い寝息を立てて眠っている生きた人間の子供。
(……こんな辺境までわざわざ赤子を捨てに来るなんて。変わってるな、最近の人間は)
そこは人間が築き上げた“人の王国”の辺境の森だった。
最も近い人間の村でさえ、ここからはかなりの距離がある。
だからこそ、人間とは相容れない彼が隠れ住むには丁度良かったのだ。
(…………別にそれほど邪魔でも無いし、処理しなくてもいいか)
その人間の赤子の隣で、同じように寝息を立て始める。
陽がゆっくり動いていく。柔らかい風が肌を撫で、花の香りが辺りを舞う。
彼自身、こんなにも穏やかな昼寝というのは珍しい事だった。
陽が暮れる頃まで昼寝を満喫した彼は、赤く染る夕陽を見て驚いた。
(久しぶりだな……こんなに眠れたのは)
だからだろうか。
気分が良かったのかもしれない。
目的があったわけでもなく。
慈悲だとか、偽善でも無い。
自身の傍らで未だ眠り続けるその小さき命を刈り取る事など容易い。
だけどしなかった。
「──悪いが…ここは今日から俺の特等席だ。お前には退いてもらう」
人間の赤子を木籠ごと持ち上げる。
本当に、ただの気まぐれだった。
意味も無ければ目的も無い。一時の気まぐれ。
真性の面倒臭がり屋な彼は、どういうわけか人間の赤子を居城へと連れ帰った。
その赤子を育てようだとか、そういうことを考えている訳もなく。
ただただその場の気分で城へと連れて帰ったのだ。
別にいつもと変わらない日々だった。
特別な事があるわけでも無い、なんて事ない日。
昨日と同じ今日があり、今日と同じ明日がある。
そのはずだった。
だけど違った。彼にとってこの日は紛れもない特別な日となる。
この先のわずかな時間を輝かしく彩る、最愛の娘との出会いをここで果たしたのだから。
彼の名はディザイア・デュオス。
『災厄の王』と呼ばれる魔王。
あらゆる事を面倒に思う根っからの面倒臭がり屋。
人間と関わらぬよう辺境の森に隠れ住んでいる。
そして、ただの気まぐれで──。
──魔王は、人間の赤子を拾った。
魔王と人間の娘のほのぼの日常、ぼちぼち更新していくつもりですので、気長に待って頂ければこれ幸いです。