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第6話 送還、または奇跡

シュウ視点→???視点→ヴァイス視点と切り替わります。

それはたぶん、仕組まれていた事だったのだと思う。

ヴィスに魔術を教わったりしながら、部屋でイチャイチャと過ごしていたその時に事件は起きた。


「ヴァイスハイト様!カラミティ様が!!」


血相を変えて飛び込んできた燕尾服の男の叫びに、ヴィスの顔色が変わった。


「あいつはまたやらしかしたのか……!」


舌打ちして、即座に戦闘準備を整え始めたヴィスが今まで見た事の無い雰囲気で。オレはたぶん、不安になったんだと思う。


「……ヴィス、カラミティって…?」


ヴィスの服の裾を引いてそう問いかけると、その人の事を思い返しているのかヴィスは顔をしかめて。


「迷惑極まりない天才だ。俺しか止められないぐらいには実力がある女だが、俺に叱られたいとかと思うほど色々やらかすバカでもある」


棘のある声音でそう言いきるヴィスに、背後でその人の従者かなにかなのだろう男の人は苦笑していたけれど、否定もしなかった。

……つまり、迷惑な天才……天災か。




「……もしかして、オレはついてかない方がいい?」


寂しいけど、不安だけど。……今のオレだと、どうしてもヴィスの足手まといになっちゃうと思うから。

そう言うと、ちょっとだけヴィスは考え込んで。


「……いや、大丈夫だ。一緒に行こう。でも、いざという時は逃げるんだぞ?」


庇える余裕があるか解らないから、と言うヴィスに「わかった」と頷きながら。

オレはその「いざという時」が来たらきっとヴィスを庇うように動いちゃうだろうな、なんて、その時は呑気に考えていた。







「いたい……でも、これで……」

「今度は何をしたんだ、カラミティ!」


怒鳴り声と共に飛び込んできた白銀の、その側に。

黒髪の異世界人が居る事を確認し、カラミティは笑みを深めた。


「あはっ」


ジジ…と異世界人の姿が掠れる。

始まった、と笑うカラミティの姿に、ようやく違和感に気づいたのかヴァイスハイトは異世界人の方を振り返って。


「さようなら、よ……ごほっ」


血反吐を吐きながら、その血液さえも魔法の贄としてくべて。

勝利を確信して、別れを告げた。


けれど。




「「いやだ……っ!」」


ヴァイスハイトと異世界人の声が重なった、その瞬間だった。

2人から金色の光が閃光のように迸り、その明るさを強め――。

目を開けられないほどの光の中、ブチン、と何かが千切れる音がした。







カラミティ様が、と従者の彼が飛び込んでくるのは、割と日常だ。

暗殺者が来る頻度よりは少ないが……月一ぐらい、だろうか。


けれど、今回は、何か嫌な予感がした。

シュウを連れて行っていいのか、ギリギリまで迷った。

勇者として覚醒しているとはいえ、シュウはまだ弱い。置いて行ったら、カラミティはその隙をついてシュウをさらうかもしれない。

かと言って、連れて行った先に何か罠がある可能性もある。

だからこそ、迷って迷って……。

結局、不安そうなシュウの顔に負けて、彼を連れてカラミティの部屋に向かった。




――そして、まるで世界から追い出されるかのように掠れる、一等大事な人を見た。




消えそうになるシュウを見て、嫌だ、と思った。

また離れ離れになるのは嫌だ、と。


……後から聞いたら、シュウも同じように思ったそうだ。

真っ白な頭で、強く強く思ったその願いを、どうやら女神様は叶えてくれたらしい。




あの後、気が付いたら、カラミティの部屋でシュウと手を繋いで倒れていた。

脇で血を流しっぱなしで倒れていたカラミティにはとりあえず最低限死なないように治療を施し、適当に揺すっても目を覚まさなかったシュウ共々医者の元へ担ぎ込んだのが昨夜の事。

……まあ、シュウは元々揺すったぐらいじゃ起きないから、異常があるかすら分からなかったのだが。

診てもらった結果、シュウはただの魔力の使い過ぎだったので、一晩も眠れば目覚めるだろうと彼が起きるのを待っているのが今だ。

ちなみにカラミティは失血死をしかけていたし、腹を抉って魔術の媒体にしたりしていたせいで本当に死ぬ一歩手前、という風情だった。だが、一応、まだ死なせるには早かったのもあり、きっちり治療してもらっている。そちらには今従者がついているはずだ。





んん、とうなる声に、ばっと顔を上げると、シュウがうっすらと目を開けていた。

まだ寝ぼけているようだが、元気そうだ。良かった……。


「……シキ……?」

「おはよう、シュウ」


笑いかけた途端、シュウはがばりと身を起こした。


「ヴィス、無事!?」


開口一番にそんな事を言われて、それをお前が言うのか、と苦笑する。


「無事だよ。というか、それはこっちの台詞だ」

「オレは大丈夫だったけど…。あれ、あのブチッってなんか千切れてた音ってヴィスのじゃないの?」


ああ、そう思ってたのか。それでさっきの台詞に繋がったんだと思うと、……うん。

俺は愛されてるんだなあ、と思わず笑みがこぼれた。


「いや、それはシュウのだろう」

「へ?」


きょとんとするシュウに、目覚めを待つ間に立てた推測を話す。



「推測ではあるが…。まず、シュウは元の世界に帰還させられ掛けていた。それはカラミティのせいで、あの魔法は術式としては対象者の縁を辿って元の世界を特定し、そちらに転移させる、というものだったんだ」


ここまでは大丈夫か?とシュウの顔を伺うと、大丈夫、と迷いなく頷かれた。良かった。


「そして、その魔法…というかシュウの元の世界との縁だな…を、勇者の力でぶった切ったんだ」


だからたぶん、もう元の世界には帰れないと思う。

……そう告げると、シュウはそっか、と頷いて。


「……平気そう、だな?」

「寂しいよ。陽と遊べなくなるのは寂しいし、親に別れを言えなかったのも寂しい。……でも、シキと…ヴィスと会えなくなる方が、もっと寂しいから」


だからオレはこれでいいよ、と笑う恋人を、俺は思わず抱きしめた。


「お前が寂しいなんて言えなくなるぐらい、幸せにしてやるから」

「……うん」



「……あの、オレは何故押し倒されているんですかね?」

「まずはとろっとろに溶かしてやろうかと思ったからだが?」

「いや今魔力切れで結構怠いんですけど!?」

「それだけ叫ぶ元気があるなら充分だろう?」

「いやいや――んうー!?」




おしまい

雰囲気ぶち壊しての補足コーナー

・カラミティ

名前の由来はもちろん「厄災」。バレットの主さん。

天才な人格破綻者、ヴァイスにガチで惚れててヴァイスに構ってもらうために色々やらかす。自分も含め世界が滅びてしまうだろう魔法を使おうとするとか(ヴァイスが寸前で止めた)、夜会のただなかで無差別テロに近いことをやらかそうとしたとか(事前にヴァイスが止めた)

ヴァイスの中での通称は「テンサイ」。厄介で訳が解らない生態をしている出来れば関わり合いになりたくないナニカ、というのが正直な印象。

今回のシュウ送還事件は孤高だったヴァイスハイトの傍に当然のようにシュウが居るのが気に食わなくての犯行。

元の世界に返す魔法を開発し自らの血肉を媒体としてその魔法を発動させた、という感じのイメージです。

ちゃんと治療されたので、今は元気。今日も元気に悪戯(※洒落にならない)をしては従者かヴァイスに怒られています。




もう一個続くよ!

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