第5話 デート
引き続きシュウ視点です。二回目のお出掛け。
「シュウ、腕輪が出来たそうだ。今から取りに行くか?」
「うん!」
そう声を掛けられたのは、オレがあの金色の光を初めて放った日から丁度一週間が経った日だった。
迷わず頷いて、差し出されたヴィスの手を取ると、きゅっと力が込められる。
「だよな。転移するから捕まってくれ」
くすっと笑ったヴィスの顔のカッコ良さに心臓の鼓動を速めながら、差し出された手をぎゅっと握った。
ぱちん、とヴィスが(手を繋いでない方の手で)指を鳴らした次の瞬間には、オレたちはピカピカに磨かれた明るい店内に居た。
「そこの店員。店長にヴァイスハイトが注文の品を受け取りに来たと伝えてくれるか?」
「は、はいっ!」
ヴィスに声を掛けられた店員の少女は、頬を赤くしながら慌てて店の奥へ駆けて行って。
気づくと、辺りに居た店員や客は、みんなヴィスへ熱い視線を注いでいた。
………面白くない。
大半は強いとはいえ単なる憧れの視線で、アイドルに向けるような淡い恋心ならともかく、真面目な、オレと同じような気持ちを抱いている人は居ないようだったけれど。
でも、面白くなかった。
ヴィスが色んな人から好意的な視線を向けられているのが、モヤモヤする。
恋人が人気者なのは良い事だ、とか思った方が良いのは解ってるんだけど…。
……やっぱり、モヤモヤする……。
店長を呼びに行った女の子が帰って来るまで、オレは暇だ。
だから、ぐるぐると考え込む暇もあった。
ちょいちょい、とヴィスのローブの裾を引っ張る。
すると、ヴィスはすぐに振り返ってくれた。
「どうした?」
「ヴィスは、オレのだよね」
唐突な問いかけにヴィスは目を瞬かせたけれど、それも少しだけで。
「もちろん。俺はシュウのものだし、シュウも俺のものだろう?」
そう言って、熱が籠った瞳でオレを見つめてくれた。
……きっと、オレも同じように熱を帯びた顔になっているのだろう。
「うん、もちろん」
そこは大事、と即答すると、ヴィスは嬉しそうに目を細めてくれて。
「前」は、ヴィスがシキだった頃は見なかったその表情が、嬉しく感じるようになったのはいつからだろう。
ヴィスの嬉しそうな顔を見るだけで、気分がふわふわと浮ついてくる。
ああ、でも。これは言っておかないと。
「……他のやつに取られたりとか、しないでね?」
忘れないうちに、と釘を刺すと、ヴィスは目を見開いた。
驚くようなその様子に一瞬過った疑念は、みるみるうちに頬を紅潮させた彼の顔に吹き飛ばされた。
「約束する。俺は一生シュウ以外のものにはならない」
蕩けそうな笑顔での宣誓に、うん、と頷いて。
「シュウは?」
悪戯げな笑顔には、もちろん!と満面の笑顔を返した。
「オレも一生ヴィス以外のものにならない。約束!」
■
腕輪を受け取って、オレたちは店を出た。
左腕に着けたそれを見ると、自然と頬を緩む。お揃いが嬉しい…。
街を歩いてみたい、と言うと、じゃあこの辺の屋台を見て回ってみるか、とヴィスはしれっとオレの手を取り恋人繋ぎの形に絡めた。
かああ、と耳まで赤くなっているのが自分でも解る。……すごく恥ずかしいけれど、でも嬉しかった。
異国情緒あふれる、というにはヴィスの影響らしいあれこれが目立つけれど、それはそれで新鮮な町並みをしばらく歩く。
屋台がすごく見覚えのある形をしていたり、お祭りでもないのにリンゴ飴が売っている屋台があったり、よく分からない杖とか腕輪とかが並ぶお店があったり。
そもそも、通りを歩く人がローブだったり鎧だったり、はたまた浴衣だったり。角のある人が立派な鎧を着て、手には可愛いピンク色のわたあめが……なんてこともある。
あ、今の人はなんか綺麗な水晶玉持ってた。あれなんだろう。
そんな街だから、気になるものは色々あって。
あれこれと質問しても嫌な顔1つせず……それどころか甘い笑顔をオレに向けてくるヴィスに、改めてシキも変わった事があるんだなあと思ったり。
……いや、だって前は質問しても笑顔は来なかったし…。こんな体温上がるようなあっまい顔とか見た事なかったから……。
でも最近、この熱が籠った甘い顔を見慣れてきた気がする自分が居たりもする。ヴィス、シキ時代のクールな顔はどこにやっちゃったんだろう。
変わったものを思い浮かべて、嬉しいな、と絡めた手に力を込めた。
しばらくキョロキョロとしながら街を歩いていて、ふと、屋台の中にチョーカーばかり並ぶ店がある事に気づいた。
「ねえヴィス、あれなに?」
「あの店か? この国にはプロポーズの時にチョーカーを贈る風習があるんだ。シュウの国でいう指輪みたいなものだな。でも、そういうのはしっかり店舗を構えている場合が多いから……あれは出張屋台じゃないか?」
チョーカーが並ぶ店を指差して問いかけると、ヴィスはさらりと教えてくれた。
そっか、こっちだと指輪じゃなくてチョーカーを贈るんだ……。
自然とヴィスの首筋に視線が向いて、妄想が始まりそうになったところで首を振ってイメージを振り払う。
「……買うか?」
ぼそ、と呟かれた言葉に、うえっ!?と瞬時に顔が沸騰した。
ヴィスの視線はチョーカーのお店に固定されたままで、何を買うかなんて誤魔化しようもない。
「流石に付き合って1週間で結婚はどうかと思うんだけど!?」
「出会ってからだと20年ぐらいにはなるだろうから別にいいと思うが」
そういう問題ではなくない??
「……あと、あれをしてれば既婚者として見られるから、ある程度はガンガン来るのが減ると思うんだよな…。前は速攻で女避けの架空のチョーカーだとバレてますます争奪戦が激化しそうだったからやらなかったが」
「あーそういう」
今は恋人が居るのは事実だし、などと呟くヴィスに、やっぱりヴィスを狙う女は居るのか、とジト目になって。
……なら、今チョーカーを買ってしまえばいいのでは、などと思った。
手のひらを返すようになったのはちょっとアレだけど、女避けは大事だし。
「……チョーカー、買うか」
「えっ」
いいのか? と不思議そうな顔のヴィスに、ヴィスを狙ってるひとを減らせるんでしょ? と笑って見せる。
「……さっきのお店でやっと自覚したけど、オレかなり嫉妬深いっぽいんだよね。憧れが大半だろうとヴィスが女に見つめられてるとモヤッと来る」
「それは嬉しいな……」
「Σ嬉しいの!?」
なにそれ物好き? いやそうだったヴィスは物好きだった。
「ああ、嬉しい。というか、嫉妬深いのは俺も同じだからな?」
「……お、オレの方がやきもち焼きかもしれないし」
ニヤ、と笑うその表情は、シキとそっくりそのまま同じなのに。
「……イケメンって、ズルいよなあ…」
ヴィスぐらいのイケメンは、笑うだけでもすごい威力がある、と再認識した。
結局ヴィスが焦げ茶色ベースに模様として銀色が混じったチョーカーを、シュウが青をベースに装飾として琥珀が埋め込まれたチョーカーを購入しました。
ヴァイス=白髪青瞳、シュウ=焦げ茶色の髪にブラウンの瞳(典型的な日本人の色彩)
ヴィス「チョーカーは相手の色をベースにしてアクセントとして自分の色を追加した形が主流なんだ」
シュウ「……つまり、ヴィスは焦げ茶色のチョーカー?」
ヴィス「ああ、そうだな。加えて言うとシュウは白だ。青でもいいが」
シュウ「オレヴィスの目好きだし、青にしとく」
というやり取りがあったと思われます。シュウさんさらっとデレる(・∀・)
なおヴィスが言った相手の色を~というのは主流でもなんでもなく、ラブラブなバカップルが稀にやるぐらいのレベルの事だったり。
で、後々ふとした切っ掛けで嘘がバレて、
シュウ「アレ嘘だったんじゃねーか!!」
ヴィス「あ。……確かに主流という訳では無かったかもしれないが、ええとその、俺はお前に俺の色を身に着けてほしくて、ついやってしまったというか」
シュウ「ならそう素直に言ってくれれば、まあ恥ずかしがりはしたかもしれないけど喜んで付けたと思うんだが?!」
ヴィス「う…。すまん」
とかいうやり取りがあったりすると良きだと思います。ただのバカップル。
なお、シュウが「他に取られたりしないでね?」と釘を刺したシーンでヴァイスが驚いたのは、天然ぎみなシュウがそんな風に行ってくれるとは思っていなかったからです。発言自体はとても嬉しい。