第4話 従者といちゃいちゃと、勇者の目覚め
引き続きシュウ視点です。
前半は新規で追加したシーン。
バカップルな事になりつつも俺がカルガモのごとくヴィスについて歩くのを許可してもらった、その翌日。
当たり前のようにトイレにも一緒に行き、俺の視界から外れないように気を付けてくれるヴィスに、こっちの方が戸惑っていた。
……いや、元々そのつもりだったというか、トイレとかの短時間でも不安で落ち着かなくなるだろうと自分でも思ってたから半ば強引についていくつもりだったけど……。
ヴィスが最初から平然と受け入れてるのは何故……?
「あ、バレット」
「弾丸?」
ヴィスの呟きに、思考が渦から浮上する。
どこか別のところを見ている彼の視線を追いかけると、そこには茶色い髪の青年の姿があった。
「銃のあれじゃなくて人名だ。俺の同僚……同僚? の従者をしてるやつだな」
疑問符がつく同僚とは……?
そう疑問に思いつつ、「おーい」とバレットさんに近寄って行くヴィスを一歩後ろから追いかけた。
「こんなところで何してるんだ? バレット」
「ヴァイスハイト様。買い物です。カラミティ様にねだられて、大通りのスイーツショップのショートケーキを買いに行くことになりまして……。ヴァイスハイト様こそ何をしていらっしゃるのですか?」
「俺はこっちのシュウに案内するのも兼ねて散歩中だ。あそこのショートケーキは美味いよな」
「ああ、それで……」
……仲良さそうだなあ。
ちょっと羨ましく思いつつ、ふたりのやり取りをヴィスの後ろで見ていると、バレットさんがすっとしゃがみこんだ。
「こんにちは、シュウ様。私はバレットと申します。仲良くしてくださると嬉しいです」
「ええと、はい。こちらこそヴィスをよろしくお願いします……?」
「ぶふっ」
膝を折って柔らかく、丁寧に自己紹介してくれたバレットさんに、遠い目になりつつ返事を返す。
あ、そこ! 笑うな! ヴィスが吹き出したの、こっちにも見えてるからね!
こっちの人にすぐ子供扱いされるのもいい加減慣れたし! 悲しいけど、慣れたし……。
「バレット」
「はい?」
「シュウはこれでも成人済みだぞ?」
「えっ」
拗ねたい。
■
ケーキが売り切れてしまう前に買いに行かないと、と言うバレットさんと別れた後。
「折角だし俺たちも街に出るか」
「え、いいの?」
「文句は言わせないからな、いいんだよ」
それでいいの……? というやり取りを経て、オレとヴィスは街中を歩いていた。
「そういえばさ」
「ん?」
「さっきの、バレットさん。あの人、従者って言ってたけど誰の従者なの?」
「あー……」
それを尋ねたのは、ただの好奇心。そういえば言ってたよな、というぐらいのものだったのだけど。
困ったように目を逸らすヴィスに、あれ、と首を傾げた。
「バレットの主は……一応、令嬢だ。で、俺の同僚というか、俺がストッパー役に就任せざるを得なかった暴走機関車というか」
「ヴィスがストッパー……??」
「気持ちは分かるがその顔はやめろ」
いやだって。ヴィスがストッパー? アクセルとかエンジンの間違いじゃなくて?
「ほっぺ伸ばしてやろうか」
「いいにゃがらやらにゃいれ」
うみょーん、とほっぺを好き勝手にいじられて、むう、と抗議する。
……ああでも。このヴィスの体温、安心するなあ……。
オレの頬に当てられたままのヴィスの手に、上から自分の手を重ねて。
すり、とヴィスの手にすり寄ると、ぱっとその温かさが消えた。
……あれ?
「ほんっとお前……お前そういうところ……」
「え?」
なんでヴィス、顔を覆って俯いてるの?
え、オレ別になんにもしてないよね?!
この後復活したヴィスと一緒にスイーツショップに行ってブルーベリータルトを買った。
お城に帰ってから食べたけど美味しかったです。まる。
■
ヴィスはなんでこんなにずっと一緒に居てくれるんだろうなあ……。
いや、一応その、恋人というやつではあるけれど。いくら恋人だって、トイレまでずっと一緒なんて言ってたら愛想を尽かされる気がするのだけど。
ヴィスはニコニコ笑顔で付き合ってくれるから、不思議だ。
そう思ってヴィスの顔を見上げていると、不意に足がもつれた。
「とわっ」
「っと。大丈夫か、シュウ」
「あ、うん。大丈夫……」
ヴィスに助け起こされながら、歩きながら考え事はするもんじゃないな、と苦笑した、その時。
丁度背後を通ったただの文官に見える男が、すれ違いざま、鈍く輝く短剣をヴィスに突き刺そうとしているのが見えて。
「ヴィス!!」
反射的に腹の底から叫んだ、その瞬間。
――閃光のように金色の光が走った。
目を瞑る暇もなく迸った眩い光は、けれどオレの目を焼くことなく掻き消えて。
ゆっくりと、スローモーションのように男が倒れ伏していくのが見えた。
……今の、なに?
助けを求めてヴィスを見ると、綺麗な青色と目が合って。
顔が良い、ってこういう時に言うのかなあ、なんて関係無いことを思った。
「今のは勇者の力、だな」
ゆうしゃ。
確か、この世界では世界に一人で、今の勇者はヴィスだったはず。
……イレギュラー、という文字が脳裏を過る。
「ふふ、お揃いだな」
ちょっとだけ嬉しそうなヴィスのその言葉に、それまでのシリアスな空気が一気に吹き飛んだ。
「かっるいな」
「はは。シュウはお揃い、嬉しくないか?」
「嬉しいに決まってる」
「だろう? っと」
嬉しそうに笑ったヴィスが、ふと横にズレる。軽やかな足運びを追いかけるように、真っ白なローブがふわりと翻った。
それに目を奪われていると、さっきまでヴィスが居た場所に矢が突き刺さって。
「俺は邪魔者らしくてな、こういう事はよくある」
唖然とする俺に笑いかけて、いい加減敵わないと理解すればいいのに、などと言いながら肩をすくめるヴィスは、すごく余裕そうだった。
「ヴィス、このオーブはどうすればいい?」
あの金色の光――勇者の力が現れた後、いつの間にか左手に握りこんでいた玉を見せると、ヴィスはああ、と自分の手首に目線を向けた。
「暫くはポケットにでも放り込んでおけばいい。後で持ち歩けるように加工しないとな」
「……俺、ヴィスみたいな腕輪がいい」
「お揃いだな。そうするか」
呟くとからかうような言葉が返ってきて、頬が火照る。
ほんとにもう、どこでこんなこと覚えたんだか。シキはどっちかというとにぶちんで、こんなイケメンなことはしなかったのに!
補足コーナー
・ヴァイスのイケメン行動
前は気障なことを覚えてなかったのは確かだけど、どちらかと言うと前世ではシキもシュウもお互いを友人だと思って特に特別な行動はしなかったのもある。
「折角イケメンに生まれたなら活かす術は学ぶべきかな、と思った。まあ効果ありすぎてヤンデレに囲まれたからすぐ止めたんだが」
・暗殺者
ヴァイスは国の上層部に疎まれているので、こういうのは日常茶飯事。
普段は魔道具を上手く使って実行犯を遠ざけたり、シュウがやったように閃光を放って撃退したりしている。
ちなみに矢が飛んでくるのが分かったのは単なる慣れ。
・勇者
女神(実在してる)が力を与え人間の限界を部分的に突破した存在、というのが正確な定義。
固有の浄化の力と、人の限界を突破した力を持つ者。
固有の力は「勇者の力」と呼ばれている。
勇者の力は金色の光という形で発現し、魔王などの封印or浄化(消滅)や、勇者に悪意を持つ者への攻撃を行える。
シュウがやった閃光がその攻撃。他にも手裏剣っぽく光を固めて投げたりできる。
なお、閃光は普通、勇者として覚醒したあと訓練してやっと出来るようになる事だったりする。火事場の馬鹿力……。
・バレット
弾丸ではなく従者です。
とある暴走令嬢の従者を務めあげているハイパー従者。
主に振り回されて死にかけても彼女に付き従うのは、幼い頃に助けてもらった恩があるからとか。
茶色の髪に緋色の瞳で、大人しそうな雰囲気で影が薄い。よく見ると顔は整っている。性格もあってモテるタイプだが、本人は従者業に必死で何も気づいていない。
・ブルーベリー
花言葉は「知性」「知恵」
タルトはバレットにも分けてあげながら仲良く食べました。