第3話 告白と、兄
召喚された幼馴染、シュウ視点です。
シュウが寝ぼけて告白した、その翌朝から始まります。
微睡みの中、大好きな温もりが頭をなでる。
あいつが知らない知識を披露した時、興味深そうに瞳が輝くのが好きだった。
どうだ! とドヤ顔をすると、はいはい、と頭を撫でてくれて。
その暖かさに、もっと! と離れていく手を捕まえた事は何回もあった。
今頭を撫でる暖かいそれは、居なくなってしまったはずのあいつと同じ暖かさをしていた。
■
「ん…」
「お、起きたか」
おはよう、と微笑みかけてくる白髪の青年に、寝ぼけていた頭が瞬時に覚醒した。
「どちらさまですか!?」
「ヴィスだよ。ヴァイスハイト。昨日言っただろう?」
慌てるオレを気にせず、変わってないなあ、と苦笑するイケメンに、記憶を探って。
告白してそのまま寝落ちた事を思いだして血の気が思いっきり引いた。
「ヴィ、ヴィス、その、」
弁明なんて出来る状況ではないのは分かっていたけど、それでも何か、と口を動かしたオレに、しぃ、と人差し指をあててイケメンは笑った。待ってこの人ほんとにシキなのか?!
「そういえばさ。俺たち、随分似た同士みたいだな」
「へ?」
「俺もお前が好きだよ。転生して、お前が側から居なくなってから気づいた」
その言葉は、あまりにオレに都合が良くて。
「…………。……!? 冗談とかではなく!?」
つい飛び出た言葉に、「あ、まずい」と思ったのは、彼がシキが怒った時にそっくりに目を細めてからだった。
「俺は本気だ。なんだったらキスの1つでもするか?」
とんとん、とオレの唇を白い指で突くイケメンの悪戯っぽい笑顔に、混乱しながらも慌てて後退る。
「いいい良い!いつの間にからかうの覚えたんだシキは!!」
「からかってはないが?」
「笑いながら言うなこのイケメンー!!」
■
「ヴァイス、いいかい?」
ノックの音と共に聞こえてきた穏やかなその声に、バッ!と間近にあった青い瞳から飛びのく。
残念、と笑ってドアに向かったヴィスから目を逸らして、必死に心臓を宥めていると、ヴィスよりも年上なのだろう銀髪の青年が入ってきた。……確か、昨日の大きな部屋でヴィスをヴァイスって呼んでた人だ。
「兄さん、今いい所だったんだが」
「それは失礼したね。でも説明はしてくれよ?」
「まず情報叩き込むから質問してくれ」
「ちょ。……あー……」
お兄さん?の制止を気にせずヴィスはさっと腕を振って……っていうか何あのカッコイイ動作……諦めたように目を閉じたお兄さんの額を突き、そのまま俺の元へ戻って来た。
「ヴィス、あの人は?」
「俺の……ヴァイスハイトの兄だ。優秀で家族思いなひとだよ」
信頼していい人だ、と静かに告げるヴィスは、お兄さんをしっかりと信頼しているようで。
……ちょっと、羨ましいな、なんて思った。
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「ヴァイス、そういえば仕事はいいのかい?」
「あー…、あんまり良くないな……」
お兄さんの言葉に渋い顔を作ったヴィスに、もしかして置いて行かれるフラグか、と俺は焦る。
焦って、何も考えないままヴィスの服の裾を引っ張った。
「ヴィス!」
「ん、なんだ?」
「俺、ヴィスの側にいたい」
「…………」
「……ヴィス?」
「っ、そ、そうだな、俺もシュウと一緒に居たい」
心なしか頬を赤く染めて甘く微笑むヴィスに、俺は単に一緒に居たいだけだと勘違いされていたとやっと気づいた。
「そ、それもあるけどそうじゃなくて、あの時みたいにいつの間にか…は嫌だっていうワガママで、その、」
「ああ…まあシュウならそうだよな。うん俺が早とちりしただけだ」
あわあわと言い訳してると、ヴィスが遠い目になってしまった。……いや、オレ別にそんな風に言われるようなことはしてないと思うんだけど?
でも、オレじゃなくて何もない宙を見つめるヴィスにちょっとだけムッとして、オレは口を開いた。
「…………こ、恋人、と一緒に居たいっていうのも、確かにあるけど……」
ヴィスを元気づけたくて、でも恥ずかしくて、目を逸らしながら言うのが限界だった。
でも、ヴィスはすっと真顔になってオレを見つめてくる。正直ちょっとこわい。
「な、なに?」
「恋人が可愛い」
とろり、と熱を帯びた瞳で、蕩けそうな甘い笑顔で。
オレのことが愛おしいと雄弁に語るその表情に、ボッと頬に熱が灯る。
「ま……真顔でそういう事言うなイケメン! 男に可愛い言っても得は無いだろ!?」
「赤面して目を逸らしながら恋人発言とか誰が見ても可愛すぎると言うと思うんだが」
「だから真顔でそういう事言うなと!!」
スンッて真顔になって言われても、言ってること一緒ってか悪化してるじゃねーか!!
ヴァイス兄「いちゃつくなら他所でやってくれないかな……」
ヴァイス「俺たちにかこつけて兄さんもいちゃつきにいけばいいじゃないか」
兄「……。…いや、彼女なら嘘扱いされて躱されるのがオチだろう」