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第2話 事情説明

引き続きヴァイス視点です。

それから、シュウにヴァイスハイトの半生を大雑把に話した。


死んだと思ったらいつの間にか赤子に生まれ直していた……つまりは転生という事態になっていた事。

両親は率直に言ってクソだったので、実質僅かな使用人に育てられた事。

知識を集め魔法を研究するうち、いつの間にか最強の魔導士と呼ばれるようになっていた事。

ある程度体が育ってからは日本が恋しくなって、あちらの文化を再現できないか試行錯誤した事。

それから、好奇心から始まり色々あって勇者になり、この間魔王を倒した事。

そこの色々を聞きたい! なんてねだられはしたものの、それは今度な、といなした。


あとは、一応この国で生まれ育ってはいるが、上層部の腐敗が目に余るので滅ぼしてしまおうかと思っている事。

ほら、こうも腐りきってると、改心させていくより一度更地にして作り直した方が早いからな。

正直者が――シュウのような善き人間が、損をせずに生きられる世界を。

ただの感傷に過ぎないとしても、作りたいな、なんて思っていた。

切っ掛けの当人が来たのだから、余計にモチベは上がっている。


……シュウには、上層部が腐ってるから作り直すために滅ぼそうかと思ってる、という話までに留めておいた。

流石に恥ずかしかったしな。



「まあ、いざとなったらシュウは逃げてくれ。手配はしておくから、不便はそれほど掛からないはずだ」


そう告げると、シュウはむっと口を尖らせた。


「ヴィスはどうするの?」

「俺は国に残ると思う。俺だけならさっさと逃げるんだが、兄さん……というか、兄さんの嫁がな」


義姉さんは諸事情あってこの国から離れられない。切っ掛けはお見合いだったとはいえ、彼女を愛している兄さんも、この国を見捨てられない。常々見捨てたいとは思っているようだけど。

そして、俺は兄さんを見捨てられない。だから、まだこの国は無事なのだ。


「ヴィスが行かないならオレは一緒に居る」

「いやシュウは避難させるぞ。保護者特権で」

「テコでも動かないから。絶対残るから」


真剣な顔をするシュウに、ああもう、と俺は首を振った。


「いいかシュウ。俺は国を離れられない。だからこそ、かなり真剣に国を滅ぼすのを検討してるんだ。そして、俺は魔法使いだ。殲滅型の魔導士だ。この国はなんだかんだで大国だから、一気に殺るなら全力を出す必要がある。事前に避難して貰わないと、俺の魔法にうっかり大切な人を巻き込んでしまうかもしれないんだ」

「そっち?!」

「そっちだ。……というか、そういう事情が無ければシュウから離れたりなんてしないぞ」


大真面目に頷くと、シュウは肩の力を抜いた。

……本当に滅ぼそうって時に抵抗されたらかなり困ってただろうからな。今説得できて良かった。







それから、しばらくはこちらで生きるのに必須なことを話していたのだが。


「すまん、ヴィス」

「ん、なんだ?」


つん、とローブを引っ張られて振り返ると、シュウのぼんやりした瞳と目が合って。

その様子に察して、そろそろ休むか? と口にする前に。


「ずっと情報を頭に詰め込んでて眠くなってきたんで、膝枕頼む」


さらっと言われたその言葉に、開こうとしていた口が硬直した。

……変わってないというか、なんというか……。眠気が限界になると願望に忠実に甘えだす癖は健在のようで……。その、うん。

動揺を隠すように無言でベッドを出すと、ゆっくりとした動きでシュウはベッドに潜り込んだ。

ご丁寧にどかされた枕に嘆息し、自分の精神衛生上膝枕は宜しくない、とどうにか彼を説得しようとして。


「……膝枕がダメなら、手を繋いでほしい。……側を、離れないでほしい」


不安そうに見上げて来るその瞳に、負けた。


「……わかった。手を繋ごう」

「うん……ありがと…」


「……」

「……」


「……シキが居なくなってね、気づいたことがあるんだ」

「……?」


唐突に喋り出したシュウに寝なくていいのかと聞く前に、シュウは眠たげな瞳をこちらに向けて。

――その瞳が、嬉しそうに、愛おしそうに細められて、息を呑んだ。




「おれね、シキが……あいつが、好きだった……」

「Σは!?」


爆弾発言に思わずシュウの顔を凝視するが、彼は既に瞼を落として寝入ってしまっていて。

今の一瞬で寝るのかよ! ああもう本当に変わってないな……!


「シュウ、今のどういう……おーい!?」


一度寝入ると体を揺さぶっても起きない体質も健在のようで、かなり本気でシェイクしてもシュウは多少顔を顰めるだけだった。


「ここで寝落ちするのか……」


仕方ない、と起こすのを諦め、そっと頭を撫でる。

途端にふにゃりと弛緩した表情になるのが可愛らしく、俺は夜通しシュウの寝顔を眺めていたのだった。

補足コーナー

・シュウとシキ

幼馴染だった。ただの幼馴染で、ずっとお互い友人だと思っていた。

そうじゃないと知ったのは、シキが亡くなってから。

失ったものの大きさに、ようやく彼は自分の気持ちが友情ではなく、恋情だということを思い知った。


しゅうの表記が概ね「シュウ」なのは、作者がルビを面倒くさがったからです。

しきも、漢字単体だと名前っぽく無くて紛らわしいかな、と思って原則カタカナ表記にしています。

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