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第1話 勇者召喚

主人公、ヴァイス視点です。

ところ変わって、王城。

うららかな昼下がり、俺は城の中にある私室でティータイムの準備をしていた。

ほぼ唯一と言ってもいい、無条件に信頼を寄せられるひとが、休憩も兼ねてと俺の部屋を訪れることになっているのだ。


――コンコン


ノックの音にぱっと顔を上げて、「どうぞ」と声を上げた。


「こんにちは、ヴァイス」

「いらっしゃい兄さん。仕事は持ち込んでないよな?」

「大丈夫だよ。……ちょっと危なかったけど」


今生の兄であり、新たな家族のように思っている唯一の血縁である青年に微笑みかけると、兄さんは疲れたように笑った。




ゆっくりお茶を飲みながら、軽い雑談をする。……はずだったんだが。


「勇者召喚?」


兄さんの愚痴の中に聞き捨てならない単語があり、俺は思わず眉をひそめた。


「うん。馬鹿な事考えるよね、あいつらも。今代の勇者はヴァイスだし、今まで勇者が複数人居た事は無いってのに」


呆れる兄に、俺は女神と話した事を思いだして首を振った。

……まあ、兄さんは特に興味はないかもしれないが。


「いや、理論上は複数人居てもおかしくないぞ」

「ふうん?」

「興味無さそうだな……」


案の定だった。

やっぱりな、という顔でハーブティーを飲む俺に、兄は「まあね」と笑う。


「っていうか、この世界だとヴァイスの威光があるからって別の世界からわざわざ呼び出すとか馬鹿なのかな?」

「馬鹿なんだろう。一応、召喚自体は出来そうな術式だが」


今の話の合間に使い魔を使って調べた召喚魔法の概要は、まあ一応問題は無さそうだ。それが問題なのだが。

それを告げると、げ、と兄は顔を歪めた。気持ちは分かる。


「馬鹿がすぎると世界が滅びるって知らないのかな、あいつらは……」

「このままだと俺が滅ぼすな」

「え、世界を?」

「いや、馬鹿を。まあこの国は滅びるかもしれんが」

「馬鹿だけならいいや。じゃんじゃんやって」

「……兄さん……」


爽やかな笑顔で祖国の滅亡を推す兄に、よっぽどストレスが溜まってるんだな……とつい遠い目になった。

普段はもう少し常識が身に付いた人のはずなんだが……。最近馬鹿に忙殺されていたから、そのせいで頭のネジがちょっと抜けてしまったんだろうか。










数か月後。

城の地下にて、魔法陣の中心が光に溢れるのをヴァイスハイトは無表情で見つめていた。


……光の中から、見覚えのある青年が出てくるまでは。


「え、ここどこ…?」

しゅう!?」


ばっとその青年の元へ駆け寄ると、それは確かに会いたいと思い続けてきた幼馴染で。

遠目に見た時は一瞬見間違いかと思ったけれど、やっぱりシュウだった。

朧げだった記憶がどんどん鮮明になっていく。ああ、最後に会った時から少し痩せただろうか。

……俺の死を落ち込んでくれていた、とうぬぼれてもいいのだろうか。


「……シキ? いや、有り得ないよな」


ぽつりと零された言葉に、分かるのか、と嬉しくなった。

ちなみに、しきというのは俺の前世の名前だ。


「本物のシュウだよな……」

「……ええと」


とりあえず、と、困惑した様子のシュウの手を引いて、彼を魔法陣から連れ出す。

お偉いさん方の信じられないものを見るような目は見なかったことにして、激昂して攻撃してきそうなやつは行動に移される前に拘束しておく。


「ヴァイス、ちょっ、説明!」


歩く俺たちを転がるように追いかけてきた兄は「後にしてくれ」と端的に告げて追い返した。いつも俺に振り回されてくれていた人だから、これで充分わかってくれるだろう。


「えと、あの人は放っておいてもいいの……?」

「ああ。兄さんには後で説明するから、今はいいんだ」


そんなやり取りを挟みながらも、手頃な空き部屋を見つけ、体を滑り込ませて。

そのままノーモーションで人払いと防音の結界を張り、部屋の隅に置かれていた椅子を動かしてシュウを座らせた。ちなみに俺の分の椅子はなかったから魔法で出した。


「さて、これでゆっくり話せるな」

「ねえお兄さん、オレここがどこかもさっぱりなんだけど……」


だろうな、と思わず苦笑する。

……あと、お前にお兄さんとか言われると違和感がすごいな。


「俺はシキだ、シュウ」

「シキは少し前に……、それに見た目も違うし」

「ああ、散歩に行った時に白猫を庇って車にはねられたな。今俺がこうしているのは、転生、というやつなんだろう」


少しでも証拠になれば、と前世で死んだ時の情報を述べると、シュウは目を見開いた。

ああ、そうだ。


「今の名前はヴァイスハイトと言うんだ。シュウは好きに呼んでくれ」


ほんの少しだけ、笑われるかな、なんて思いながら告げた情報に、シュウはきょとんと目を瞬かせて。


「ヴァイスハイトって、あのヴァイスハイト……?」

「両親が知恵という意味で名付けたのかは知らないが、あのヴァイスハイトだな」


首を傾げる彼にそう言って頷いた、その瞬間。


「……そう、なのか」


ふ…と、嬉しそうに、穏やかに。

花が綻ぶような、と例えたくなるような、嬉しそうな笑顔で、シュウは笑った。

……それは、予想した反応の、どれとも違った。

その笑顔は、待ち望んでいた屈託のないそれとは種類が違ったけれど。

俺が心を奪われるには、充分すぎるぐらいの威力を持っていた。




「えっと、ヴァイ、ス? は、今までどうしてたんだ?」

「さっきも言ったが、シキでもなんでも好きに呼んでいいぞ?」

「いや、シキとは呼ばない。今の名前はヴァイスハイトなんだろ?」

「……そうか」


シュウの返答に、嬉しいな、と密かに頬を緩める。


「んー……よし。ヴィスって呼んでいいか?」

「解った」


即座に頷くと、「ちょっと恥ずかしいな」なんてシュウが笑う。

兄も呼んでいたヴァイスという愛称ではなく、わざわざ言い方を変えた理由を想い、俺は擽ったい心地で微笑んだ。

補足コーナー

・シュウ

秋。シキ(ヴァイスの前世)の同い年の幼馴染で、物心つく前から家族ぐるみで交流があった青年。

チビでたまに子供と間違われるが、大学も卒業した立派な成人男性。


・お偉いさん

召喚を決行した人たち。大体クソ。

「折角召喚したのに子供とは、もしや外れか?」と値踏みしていたら、目の上のたんこぶであるヴァイスが突進していった挙句今まで誰も見たことがなかった笑顔で子供()を連れて行ったので唖然とした。

8割は驚きのあまり硬直したけど、2割はヴァイス及びシュウに攻撃してこようとしたのでヴァイスが魔法で簀巻きにした。

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