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雫VS了

 なんでもかんでも表裏一体という四字熟語で、説明した気になるのもどうかとは思うけど、でも、わかった気になるのは気分のいいものだ。


 例を挙げるなら、光が無ければ影も無いという二つのものが密接に関係している、切っても切り離せないものを発見すると愉快な気持ちになれるだろう。もちろん、みんながぼくのように愉快な気持ちになれるとは思ってはいないけれど。


 なんでもそうだけど、だれかに教えてもらうより、自分で見つけるほうが楽しいことは確かだ――そういえば、苦楽も表裏一体だろう。苦しいことがあるから、楽しいことがあるのだと、そう言い切ってしまえば――もう、全ての悩みが丸く収まるに違いない。あまりの丸さに、辟易すること間違いなしだ。


 まあ、そういう問題じゃないのだと言いたい気持ちもわかるし、もちろん、わからないところもある。それに、さっきから、なにもわかっていることがないということも、わかっている。


「――くそ。巫山戯過ぎ」


 と、笑いがこみ上げてくるのを堪えているところで、クラスメイトの雫がやってきた。どうやら、またぼくに、相談を持ちかけてきたようだ――相談というか、ただ、話し相手が欲しかっただけなのだろうと思うけど。


 いつも、相談は解決しないまま、保留状態を続けている。雫自身だって、悩みを根本から解決できると信じて、ぼくのところに来ているわけではないのだ。だから、ぼくは話を聞くだけで、なにもしないことにしている。


 この世の悩みなんて――誰かに聞いてもらうだけで、全て解決しているようなものなのかもしれない。寂しいから話を聞いてほしい、とか。自分のことを、肯定してくてる人がいると、なんだか安心できる気持ちは、まあわかる。


 雫は隣の席に座って、表情を暗くさせている。いまは下校時間だから、もうその席に座る人はいないだろう。だから、自由に座っていいのだ。


「どうしたの? なにか、悩みがあるんじゃない?」


 その言葉が端を発したのだろう。彼女は、その名の通り、双眸から大粒の雫を零していた。まあ、いつものことなのだけれど、ここで、あまり責めるようなことを言ってはいけないことは熟知している。


 弱い人を苛めてはいけない――そんなのは、自明のことなのだ。弱き者を守る、そして、強き者は――どうしたらいいのだろう。きっと、どうもしなくてもいいのだろう。別に、挫かなくてもいい。わざわざ、挫くだけの正当な理由がないのだから。


 彼女は、真横で何度か嗚咽し、呼吸をするのが難しそうな感じだった。ぼくは――頷くだけで、特になにもしない。強き、だれかを挫くことはしないのだ。ただ、弱き真横にいる人の話を聞いているだけ。


 それだけで、どうやら、悩みらしきものは解決したらしい――いや、悩みの問題は棚に上げたままかもしれない。もしかすると本人の――気持ちの問題だったのかもしれないし、どうとでも解釈はできるだろう。


 椅子から立ち上がってから、雫は、大きな目を袖で拭きながら、こう言った。


「――今日はありがとう。私の負けだわ。お前みたいな、人の話しか聞かない、相槌野郎には敵わない。根負けよ。くそが」


 どうやら、ぼくは、戦いをしていたらしい。そして、この戦いで、勝利を収めたようだった。去り際に、手を振る彼女を、ウンザリした気持ちで眺めながら、今日も思う――ほんと、巫山戯てんな。

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