元厨二病と健気な少女
とびきり天気の良い日だ。
空は青く広い。薄くたなびく白雲がゆっくりと地平の彼方へと流れて行く。
「本当に中世くらいの文化レベルなんだな」
俺はテクテクと石畳で舗装された街道を歩いていた。バザーから離れたそこは人通りが少なく、のどかな雰囲気で、街道を挟む煉瓦造りの二階建ての家々の窓に奥様方が洗濯物を干したりしていた。
「もうすぐつくよー!」
メルカは俺の方を向いて元気良くそう言った。
優しく吹く風がメルカの白いワンピースをはためかせる。メルカはにっこりと笑みを浮かべ、元気に駆けていった。
俺らが向かっているのは「ギルド」というところだ。メルカのお父さん、アルバードさん曰く、この街の仕事はほぼ全てギルドが管理しているらしい。土木事業や殖産業、はては魔獣退治や鍛冶仕事まであるとのことである。
なるべく働きたくはないとはいえ、生活していくにはお金を稼ぐしかない。アルバードさんはしばらく教会の一室を使って良いと言ってくれてはいたが、流石の俺にも良心というものはある。いつまでもお世話にはなれない。
道端に転がっていた小石を蹴る。
ギルドにいる人たちの大半はほとんどが冒険者と呼ばれる「モンスター退治」を生業とする人たちらしく、誰も彼も荒くれ者だという。
コミュ障拗らせて痛い目を見たことのある俺としては不安感しかない。
「メルカは今何歳なの?」
「オレンジ色の石畳以外を踏むと死ぬ」みたいなルールでもあるのか、兎のようにピョンピョン飛び跳ねているメルカに俺は声をかけた。
「10歳!」
元気良く答えるメルカ。
それを聞いて疑問に思うことができた。
「......なんでメルカは一人であんな危ないところにいたんだ?」
ギルドなんて共同体がある以上、周辺の治安は多少改善されているのだろうと思われるが、それでも実際に危険な生物はいた。そんなところにメルカは一人でいたのだ。
「......あのね? あそこはマナの森って名前なんだけど、マナの森の奥には『虹彩花』っていう花が咲いてるの」
「それが?」
「すっごく綺麗な花なんだけど、数も少なくて滅多にお花屋さんにはでないの」
要領を掴めない話をするメルカ。悠太は少し考え込んだ後「じゃあ」と話を始めた。
「メルカはその花を誰かにあげようとしたの?」
「うん!」
どうやら正解だったらしい。
「おねーちゃんがね! もうすぐ帰ってくるの! おねーちゃんはいつもおうちのために頑張ってくれてるからたまにはプレゼントがしたくて......」
なんとも健気な事だが、あまりに危なっかしい。
俺は歩く足を止め、しゃがみこんでメルカと顔を合わせた。
「メルカのその想いはすごく偉い事だと思う。けどな、それでメルカに何かあったらお姉ちゃんはきっと悲しむだろう? フローラムとやらは俺が見つけてきてあげるからもうあの森に一人で行っちゃダメだぞ?」
メルカは俺の言葉に驚いたのか顔をキョトンとさせた後、「うん!」とまた元気な顔を浮かべた。
「ありがとう『殲黒の風』さん!」
「ブフッ!」
突然の不意打ちについ吹き出してしまった。
「なぁメルカ、それはなるべく人前でーーー」
言い切るか言い切らないかというところでメルカが俺の方に振り返った。
「着いた!」
角を曲がったところにあるのは教会にも似た巨大な建築物だった。
周囲の建物は全て木材でできているというのにその建物は金属でできている。いや、元は木製だったのか、骨組みと思しきところは古びた木でできていた。損傷したところを金属板で補修したり、骨組みを金属に交換したりし続けた結果がこれなのだろう。あちこちから伸びる煙突から煙が出る様はさながら工場のようだった。
「ここがギルドだよ!」