Ⅸ 卍 ペンは剣より強しというが 卍
小説とマンガ(あるいはアニメ)、どっちが優れているか?という議論が散見されますけど、だいたい平行線で終わりますかね。だとしても当たり前です。優劣があったら劣っているほうが先細り消滅するからです。たていは、愛好者がその立場で擁護して嫌いなほうを罵倒しているに過ぎません。
それで、沢山の小説、映画、アニメ、マンガ、ゲームに接してみた経験から個人的に感じることは、
文字媒体がいちばん強い、というものでした。
でもっていちばん難しい。
「難しい」というのは、これは言うまでもありません。
書いた物で誤解された、真意が伝わらなかった、誰かの気持ちを傷つけた。
そんな経験はなろうではだれもがお持ちでございましょう。書くひとも、それから読む側にも一定のポテンシャルを求められます。ハガキの裏側に文面をしたためるだけでも頭使います。てにおははちゃんとしてるか、作法はどうとか、自分の教養や人間力と向き合わざるをえませんよね。
「いちばん強い」というのは、これは私小説を読んだ実感。
分かりやすいところでは【人間失格】。
多感な十代にこれを読んでおのれを見透かされた、動揺して「おれはどうなんだろう?」とセルフ人格再評価に繋がったかたは大勢いるのでは。
情緒的に揺すぶられる、という点では、文字媒体が最強ではないでしょうか。
ヘタすっと人を殺せるし。
マンガで同じくらいもやもやした経験は【デビルマン】の最終巻……あとはいくつかの作品で涙したり、もやもやしたことはありましたけど、いずれも比較的軽微でした。
いっぽうで適当に私小説や古典ををチョイスして読めば、その程度の作品はゴロゴロしています。優れた洞察、赤裸々な告白、告発。
目をそむけたくなる暗部を見せつけられて、それがおれにも備わってるかもしれぬという不安……
なぜだろう?と考えてみると、おそらく脳味噌のプロセスする部分が各媒体ごとに違うから、なのではないでしょうか。
そうだと優劣の問題ではなくなるからです。
まあ根拠はありませんけど。
ひょっとしたら学術的に解明されてるかもだけど、いまんとこそういう議論まとめ読んでも、すかさずコピペ張るやついなかったし、どうなんかな?
映像媒体だと絵を描く、編集する、音楽を付ける等々大勢が関わることで作品自体の告発性はだんだんマイルド(一般化と言っても良い)になっていきますが、小説は基本的に作者―編集者―読者、という間柄のみ。
意図はダイレクトに伝わってしまいます。
何気ない記述から作者の性癖や計算高さも伝わってしまうし、行間から人柄も伝わってしまう。
レクター博士なみのメンタリストなら読者を奈落に引きずり込んで「ザ・ワールド」に耽溺させることもできましょう。
これができるのは小説、マンガ、あと音楽だけでしょう(たまーに作家性が強烈な映像作品はある)。