LXⅢ 卍 『三体』 卍
世間のごくせまい一部(人呼んでSF界隈)で話題の『【三体】劉 慈欣 著/早川書房』を読了。
この本がなんで話題になっているかというと、中華系アメリカ人とかではなく、中国本土在住の中国人が書いた本だから。しかもアジア圏初のヒューゴー賞受賞作。
中国、ということでエンガチョしてしまう向きもあろうけれど、ここはSF者たるもの、イデオロギーやかの国の尊大な態度は脇に退けたいと思います。嫌いだからといって食わず嫌いしていたらあっちの人間のポテンシャルも分からないままですし。
あらすじを書いてしまうと興を殺ぐことになってしまうので割愛するけど、久しぶりにSFらしいSF小説を読んだ。事前予想ではポストサイバーパンクと人文批評が入り交じったイマドキ流行のテッド・チャン方面だろうとタカをくくっていたのですが、いやーみごとに裏切られましたね!まさかのドストレートな宇宙○○ネタだとわ!!
アメリカでさえ本格的なSFは廃れてFPSくずれなミリタリーSFや【レディープレイヤー1】的なメタカルチャー小説ばかりになってしまった昨今、こういうのが出てくるのは歓迎です。
ぶっちゃけ半分冷やかしというか「中国人はどこまで書くの許されるんだろーか?」的な好奇心で読み進めてましたけど、思ったよりずっと自由な表現が許されてるんですね。
中国本国でベストセラーというからにはもっとイデオロギー的にガチってるのかと思ったけれど、そんなことはなく、上海あたりの上級中国人のライフスタイルが理解できる。
冒頭の文革シーンなど、「わーここまで書いちゃって良いんだ」というくらい。紅衛兵と主人公の父親が一般相対性理論は反革命的か議論したり。太陽にレーザーを撃ち込む実験を提案した主人公が政治将校に「赤い太陽を攻撃するのはちょっと政治的にまずいんだが……」と言われ唖然としたり(笑)
かと思えばタイトルのVRゲーム『三体』をプレイするためにフルダイブ型スーツを着てログインしたり、さくっと美少女暗殺者が登場したり、アニメっぽい描写もちらほらで。
中国はいまSFブームなんだそうですけど、この本と続編2冊で三千万部も売れたっつのは、SF貧困国日本としてはかなり脅威の数字じゃないでしょうか。
中国人の名前が読み辛くて序盤は取っ付きにくいでしょうが、視点登場人物はふたりだけなので、それさえ覚えとけば自然と内容は頭に入ってきます。ハードカバーだけど文庫だとおそらく300ページくらいのボリュームなので簡単に読めます。「SFの歴史を塗り替える衝撃作!」というのはやや大げさな気がしますけど、読んで損はない!




